9 修復と無茶
黒い渦が消え去ったあと、広場にはしばらく静けさが残っていた。
壊れた屋台、崩れた石畳、散らばった装飾。祭典のきらびやかさは一時、影を潜めてしまっている。
「……修復、手伝わないと」
ステラはそう言って、剣を鞘に収めるとすぐに動き出した。
倒れた柱を起こし、壊れた魔法陣の痕を調べ、怪我人がいないかを確認して回る。
「ちょっと、待て。ステラ」
ゼフが呼び止める。
「さっきの戦い……かなり無理してただろ。少し休んだ方が――」
「大丈夫」
即答だった。
声も表情も、いつもと変わらない。
「今は、街の人の方が大変だから」
そう言って、また歩き出してしまう。
(……本当に、無理してるのに)
ゼフは内心でため息をつきつつも、彼女の後を追った。
風で瓦礫をどけ、人々を導き、精霊たちにも協力を頼む。
時間が経つにつれて、街は少しずつ元の賑わいを取り戻していった。
光の精霊が壊れたランタンに再び灯をともし、植物の精霊が踏み荒らされた花壇を癒やす。
そして、すべてがひと段落し、みんなが休憩を始めた時。
「……ゼフ」
背後から、かすかな声。
振り向いた瞬間、
ステラの身体が、力を失ったようにふらりと傾いた。
「ステラ!?」
ゼフはとっさに抱きとめる。
腕の中の彼女は驚くほど軽く、そして――熱があった。
「……ごめん……ちょっと……」
最後まで言い切る前に、意識が途切れる。
(……ずっと、張りつめてたのか)
戦いの間も、復興の間も。
誰かを守ることを優先して、自分の限界すら後回しにして。
ゼフはそっと彼女を抱き上げ、風で静かな場所へ運ぶ。
「……ほんと、無茶する」
そう言いながらも、その声はとても優しかった。
祭典の光が再び灯り始めた街の片隅で、風の精霊は、静かに契約者を守るように寄り添っていた。




