7 転換点
黒い魔導師たちが一斉に詠唱を強める。
空気が震え、渦の回転が速くなった。
「……時間、あんまりないな」
ゼフが低く言う。
「分かってる。大丈夫だよ」
ステラは短く答えると、剣を構えたまま一歩前に出た。
その背中に、風がそっと寄り添う。
次の瞬間、闇の魔法が雨のように降り注いだ。
ステラはそれを正面から受け止める。
剣で弾き、魔法で防ぎ、時には身体ごと突っ込んで道を切り開く。
衝撃で地面を滑り、膝をつきそうになりながらも、前へ。
「っ……!」
黒い鎖が腕に絡みつく。
力を込めて引きちぎるが、その一瞬の隙に、重い圧力が全身にのしかかる。
「……っ!」
あまりの圧に、思わず膝をつく。
そんなステラを見て、ゼフが叫んだ。
「ステラ!」
彼は多くの魔力を使い、風を爆発させるように放って鎖を吹き飛ばす。
同時に、精霊としての力を少しだけ解放した。
空気の密度が変わる。
目に見えないはずの風が、淡く光を帯びて渦を巻いた。
(……人の姿のままじゃ、限界がある)
ゼフは歯を噛みしめる。
完全に精霊の姿になるわけにはいかない。
街中でそれをすれば、混乱はさらに広がる。
それでも――
(ステラを、あそこまで行かせるためだ。やるしかない)
光を帯びた風は、彼の意志に応えるように集まり、一直線の道を作った。
黒い魔力の隙間を縫って、渦の中心へと続く、細い風の通路。
「今だ、ステラ!」
ステラは一瞬だけ振り返り、ゼフを見る。
その目に浮かんだのは、信頼の色。
次の瞬間、彼女は風に乗った。
重力を無視したように跳躍し、黒い渦の縁へと一気に距離を詰める。
敵の魔導師たちが驚いたように術式を変えるが、もう遅い。
渦の中心――
魔力が最も歪み、風の流れが乱れている場所。
ステラは剣を高く振り上げ、そこに全魔力を込めた。
(……ここが、継ぎ目)
刃が、光を帯びる。
そして――
黒い渦の核へと、一直線に振り下ろされた。




