4 混乱の収拾
黒い渦から溢れ出した冷たい魔力に、広場は一瞬で混乱に包まれた。
悲鳴、転ぶ音、名前を呼ぶ声。
さっきまでのお祭りの喧騒が、恐怖に塗り替わっていく。
「中央から離れて!」
ステラは人々の前に立ち、剣を地面に突き立てる。
刃を中心に魔法陣が広がり、淡い青緑の光の壁が生まれた。
黒い渦から流れてくる魔力を、ぎりぎりで弾き返す。
「大丈夫、落ち着いて。ゆっくり後ろへ」
声は落ち着いていて、感情の起伏は少ない。
それでも不思議と安心感があって、パニックになりかけていた人たちが、少しずつ言われた通りに動き出す。
その上空を、突風が駆け抜けた。
「道を作る!」
ゼフが腕を振ると、風が人の流れを導くように左右へ分かれ、自然と避難経路ができあがる。倒れそうな子どもを風がそっと支え、重い荷物を持った老人の背中を押す。
(怖がらせないように……強すぎない風で)
精霊としての強大な力を抑えつつ、でも確実に守る。
その風は、優しく、穏やかだった。
「こっちだ。慌てず、ゆっくりでいい」
ゼフの声に導かれて、人々は少しずつ冷静さを取り戻していく。
黒い渦はまだ空に渦巻いている。
けれど、広場の一角では確かに、ゼフによって守られた静けさが生まれていた。
ステラは一人の少女の手を取り、風の壁の内側へ導く。
「……怖かった?」
小さく問いかけると、少女はこくんと頷いた。
「でも、もう大丈夫だよ。ここは安全だから」
その言葉に、嘘はなかった。
剣を構えたままの細い背中は、誰よりも頼もしく見えた。
混乱の中心で、
二人の風と魔法が、人々の不安を少しずつ包み込んでいった。




