2 予兆と違和感
屋台の準備が本格的に始まり、広場には甘い匂いと金属音、笑い声が混ざり合っていく。
人間と精霊が一緒になって作業している光景は、まるで一つの大きな生き物みたいだった。
「今日は中央ステージで、合同演出のリハーサルがあるって」
ステラが掲示板を見ながら言う。
文字を追う横顔は相変わらず静かだけど、足取りはいつもより少しだけ軽い。
「……見に行く?」
「うん。精霊と人が一緒にやる魔法……興味ある」
ゼフは小さく笑った。
その興味あるが、ステラなりの楽しみという意味だと、もう分かっている。
二人が中央広場へ向かうと、そこではすでに準備が始まっていた。
光の精霊が空中に淡い光の道を描き、水の精霊がそれを映すように霧を広げ、風の精霊たちがその霧をゆるやかに渦へと導いていく。
「きれい……」
ステラの声が、ほんの少しだけ弾む。
表情は大きく変わらないのに、瞳の奥がわずかに明るくなっているのを、ゼフは見逃さなかった。
そのとき。
風の流れが、一瞬だけ乱れた。
歓声に紛れるほど微かな違和感。
だが、ゼフの感覚にははっきりとした引っかかりとして残る。
(まただ……さっきより、はっきりしてきてる)
黒いものが、遠くでうごめいた気配。
空の高いところ、演出用の魔法陣が展開されるはずの場所――そこに、ほんの一瞬だけ、影が滲んだ。
「ゼフ?」
再び呼ばれて、彼ははっとする。
「どうしたの? 大丈夫?」
「……ああ」
今度は嘘じゃない。
今はまだ、何も起きていない。ただの予兆だ。
ゼフはステラの隣に立ち、同じ景色を見るふりをしながら、風に意識を広げる。
(来るなら、昼の演出のときだろうな)
人と精霊の魔力が最も集まる瞬間。
そこを狙わない理由はない。
祭典の準備は順調に進み、街は期待と光で満ちていく。
誰も気づいていない。
その光の裏側で、静かに口を開け始めた黒い渦の存在に。




