1 澄んだ空に混じるもの
祭典の四日目も、ステラは精霊に囲まれ、よく話しかけられていた。
戸惑いながらも、答えるステラ。
その近くでゼフも、他の精霊と交流していた。
そして、翌日。
祭典五日目の朝。
街はいつも以上に早く目を覚ましていた。
通りには色とりどりの布飾りが張られ、屋台の準備をする人々の声があちこちから聞こえてくる。
人間だけじゃない。
小さな火の精霊がランタンに火を灯し、水の精霊が噴水の水を踊らせ、植物の精霊たちが花のつぼみを一斉に開かせていた。
今日は人と精霊が協力する日。
一年で一番、街に魔法が満ちる日だ。
ステラは広場の端で、その光景を静かに眺めていた。
くすんだ金色の髪を後ろで不器用に三つ編みにし、いつもの旅装。
賑やかな空気の中にいても、彼女はあまり表情を変えない。
ただ、その視線はきらきらとした魔法の光を追っていた。
「……すごいな」
小さく、誰にともなく呟く。
その声は平坦だけど、いつもより少しだけ柔らかかった。
隣に立つゼフは、ステラとは違うものを見ていた。
人々ではなく、空。
建物の隙間を縫う風の流れ、その奥に混じる、わずかな異物。
(……風が、いつもより重いな)
見た目には何もおかしくない。
青空は澄み、旗は心地よく風にはためいている。
けれど、風の精霊であるゼフには分かってしまう。
流れの中に、黒いよどみのようなものが混ざっていることを。
そのとき。
屋根の上を、影が走った。
人影にも、精霊の姿にも見えない、輪郭の曖昧な黒いもの。
一瞬で消えたが、ゼフは確かにそれを捉えた。
「……」
無意識に拳を握る。
「ゼフ?」
ステラが振り向く。
彼の視線の先を追うが、そこにはもう何もない。
「何か、あった?」
「……いや。気のせいかも」
ゼフはそう答えたけど、内心では否定していなかった。
風が告げている。
今日、この街で何かが起こると。
ステラには、まだ言わない。
せっかくのお祭りの朝だ。
彼女がほんの少しだけ浮かべている、あの穏やかな空気を壊したくなかった。
ゼフはそっと視線を戻し、空を見上げる。
(黒い影……来るなら、今日だ)
祭典の光と魔法に満ちた空の下。
見えない嵐の予兆だけが、静かに風の中に潜んでいた。




