2 2人で歩んだ道
風が、唸りを上げた。
玉座の間を渦巻く暴風が、柱を削り、床を抉り、砕けた石片を宙に舞い上げる。
ゼフの周囲に存在している空気そのものが、刃になっていた。
「……っ!」
ステラは床を蹴り、転がるように風をかわす。
背後の柱が一瞬遅れて断ち切られ、轟音と共に崩れ落ちた。
防御結界を張る暇すらない。
攻撃の密度が、さっきとは比べ物にならなかった。
「ゼフィロス、やめて……!」
呼びかけても、彼の表情は変わらない。
次の瞬間、三日月のように湾曲した風の刃が、左右から同時に迫る。
ステラは歯を食いしばり、床を滑り込むようにして間を抜けた。
髪が宙を舞い、頬に風の裂傷が走る。
それでも、立ち止まらない。
「覚えてる……?
初めて会った時、私のこと、すごい警戒してたよね」
走りながら、声を張り上げる。
「『近づくな』って風の魔法を使って、追い払おうとしてた」
ゼフの指先が、わずかに強く握られる。
風が、一瞬だけ乱れた。
その隙に、ステラは瓦礫の影に身を滑り込ませる。
「まだそこまで仲が良くなかったのに、私がけがをしたら、すぐ来てくれた。
あの時、すっごい嬉しかったんだ」
頭上を、風の刃が通過する。
身を隠していた瓦礫が粉砕され、破片が雨のように降り注ぐ。
「それに、痛みから意識をそらすために他の精霊の話をしてくれた」
ステラは振り返り、血の滲む肩を押さえながら、ゼフを見る。
「その時の顔、すごく優しかった」
ステラが小さく、優しく微笑む。
そんなステラを見て、ゼフの瞳がわずかに揺れた。
次の攻撃は、明らかにステラの心臓の位置を外れていた。
それでも威力は凄まじく、衝撃で壁が吹き飛ぶ。
ステラは吹き荒れる風の中、必死に立ち続ける。
「ねえ、ゼフィロス……!」
声が、かすれる。
「私、今の旅が好き。
ゼフィロスが隣にいてくれたから……怖くなかった」
次の瞬間、巨大な風の渦が生まれた。
嵐そのものが、ステラを飲み込もうとする。
地面が割れ、空気が引き裂かれる。
ステラは歯を食いしばり、結界を張る。
弾き飛ばされそうになりながら、叫ぶ。
「戻ってきて……! ゼフ……っ!」
——いや。
「ゼフィロス!!」
風が、ステラに直撃する。
身体が宙に浮き、視界が白く弾けた。
……けれど。
致命傷になるはずの衝撃は、来なかった。
叩きつけられた床は砕けていたが、体は、生きていた。
攻撃が当たる前に、風が弱くなった。
穏やかで、優しい。
いつも、ゼフがステラに向けて使うような。
ゼフの方を見ると——
彼の腕は、震えていた。
風はまだ荒れているのに、その中心で、彼だけが苦しそうに歯を食いしばっていた。
まるで、自分自身と戦っているみたいに。




