1 届かない声
玉座の間に、重たい沈黙が落ちていた。
高い天井から差し込む光の中、玉座に腰掛けるシリウス。
その少し前には、こちらをまっすぐに見つめるゼフがいた。
虚ろな瞳のまま、それでも確かにステラを見つめている。
背後では、リオネルたちが拘束魔法に縛られ、動けずに歯を食いしばっている。
「ゼフ……」
ステラは一歩、踏み出しかけて、止まった。
何回か呼びかけても、返事はない。
いつもなら、すぐに呼びかけに応じてくれるのに。
目の前にいるゼフは、ステラにとって仲間であり、相棒でもある。
しかし、今は敵として、ステラの前に立っている。
シリウスが静かに口を開く。
「ゼフィロス。君に命令する。
彼女を排除しろ」
その瞬間、ゼフの周囲の空気が震えた。
鋭くうねる風が刃となり、何本も生まれる。
迷いなく、ステラへと向かって放たれた。
「っ……!」
ステラは反射的に防御結界を展開する。
風の刃がぶつかり、火花のような魔力の光が散る。
床に深い切り跡が刻まれ、玉座の間に鋭い音が響いた。
そのまま結界を展開し続けていると、横からも風の刃が飛んできた。
最初と別方向からの攻撃に、ステラの結界が砕け散る。
魔力を多く込めた、高威力の攻撃。
本気の攻撃だと分かる。
それでも——
どれも、急所をわずかに外している。
(……ゼフなら、攻撃をこうやって外すことはない。
支配の術に抵抗してるんだ)
大技を使い続けるゼフ。
いつものゼフよりも風の刃を作り出すために時間がかかり、隙はいくらでもある。
しかし。
ステラは攻撃に転じなかった。
必死に防御し、避け、受け止める。
それは、ただゼフを傷つけたくない一心だった。
飛んでくる風の刃を避けていると、瓦礫に足を取られる。
顔を上げると、風の刃はすぐそこまで迫っていた。
(避けきれない……!)
慌てて結界を展開しようとするも、タイミングが一瞬だけ遅れた。
結界の展開が間に合わず、風の刃がステラの肩をかすめる。
——ざくり、と。
鮮やかな赤が散り、痛みが走る。
思わず息を呑み、よろめく。
態勢を立て直しながら、ステラはあることに気づいた。
(直前で、軌道が変わった……?)
ステラに向かってまっすぐに飛んできていた風の刃は、当たる直前に少しだけ、横にずれていた。
もし、軌道が変わっていなければ、もっと深い傷を負っていたはずだ。
「……ゼフィロス……。
元に、戻って……!」
本名が、自然と口からこぼれた。
普段は呼んでいない、特別な名前。
その呼び方に——
ゼフの指先が、ほんのわずかに震えた。
次に放たれた風の軌道が、わずかにぶれる。
虚ろな瞳の奥で、確かに何かが揺れたのを、ステラは見逃さなかった。




