勇者転生も楽じゃない!
ここは神癒奈の神域、彼女が一人で神としての力を行使する時に使う場で、言うなれば彼女の心象を示した仮想空間。
……なのだが、そんな中、神癒奈は対応に追われていた。
「ええと次の転生者は…なっなんですかこれ⁉︎ ただの性犯罪者じゃないですか! 死因も他殺だなんてロクでも無い」
転生する魂を次々と勇者として送っていくが、正直不安しかなかった。
突然こんな話をするが、この物語を読んでいる読者達も憧れただろう異世界転生や転移。トラックで人を庇って死んで? 突然の殺人鬼に襲われて死んで? それとも気がついたらここにいて? 読者の知る転生、転移方法などいくらでもあるだろう。
転生してチートの能力を持って無双して、皆は絶対に憧れる。
だがその転生や転移を行っているのは、世界に敷かれたシステムや、或いは神の導きによるものなどさまざまなものだ。
「いくら新参の神だからってこんな荒唐無稽な転生者を送るなんて酷い!」
以前のアズウルとの決戦の件からといい、神癒奈に渡される転生者はロクでもない人間ばかり渡されていた。
転生する人間は何もいい人間ばかりではない、読者達も一部の物語で目にするだろう、身勝手な行為をする転生者を。
そしてこの物語でも、桐枝の時のクラス丸ごと転生など特にそうだ。アズウルの手引きがあったとはいえ、その時に送られた転生者達の能力はバラバラでカーストが生まれていた。それもあって暴走するクラスメイトを桐枝や永戸達四課が止めたと言う話があった。
そしてここでも、そんな暴走しかけない魂をなんとか転生させなければならなかった。
転生者のパターンはいくつかある。
一つ目は、不幸による釣り合いの取れない人生への救済措置。
二つ目は、地獄に送るにはまだ救いがあって、更生すれば天国に行ける魂であったから。
三つ目は、神の不祥事による不意の事故への対応。
四つ目は、クラス丸ごと転生といった面倒になりやすい団体をまとめる事。
そして五つ目は…。
「い…イレギュラー⁉︎」
「はい、それが、先程転生した勇者が、元からチート能力を持ち合わせていたみたいなのです
補佐をしていたフィアネリスの話を聞いて神癒奈は驚く。
元々チート能力を持ってただなんて元の世界で何をしてたんだ。そう思って情報を見てみると「封印措置」と羊皮紙にデカデカとそう書かれていた。
つまり、何の情報も開示できないということだ。
一つの世界を使って丸ごと封印措置を取るなんてどんだけビッグな問題児なんだと神癒奈とフィアネリスは考える。
その時、二人のEフォンの端末から連絡が入った。
「神癒奈、フィーネ、新しく転生した奴に妙なデータを感知したと観測班から情報が出た、仕事の時間だ」
神の羽衣からいつもの服装に着替えた神癒奈が、フィアネリスと頷くと、神域から現世に帰り、四課の仕事場へと向かった。
ーーー
「今回の目標は、禁忌指定された勇者の討伐だ。既に勇者は言った先の世界で目標を達成し、世界を手にしたという」
「もうですか⁉︎」
「その言葉…転生の担当は神癒奈だったのか。ああ、転生して5分、脅威とされた魔王をはじまりの地点からの狙撃で魔王城ごと粉砕、その時のエネルギー量は核爆発に匹敵するレベルだそうだ」
「核爆発?」
「要するに、すごい爆発が起きたということですよ、神癒奈さん」
双眼鏡で遠くを見ると魔王城のあった場所にクレーターができている。その周辺にも熱の余波があり、魔物達が軒並み死んでいた。
「で、その勇者は王国から丁重にお出迎えされたが国王を殺害、今は姫を人質に自らが王として振る舞ってるそうだ」
「あぁ…また私の転生でトラブルが発生してしまいました」
「お前そろそろ神々の職場の環境見直した方がいいぞ、全能の力ちらつかせてボイコットしてもいいのでは?」
「それじゃあその禁忌の人と同じですよ」
頭を抱える神癒奈にそれもそうかと永戸は思うと神癒奈達と一緒に王国の中心部へと向かう。
「っ! 伏せて!」
その瞬間だった、王城から狙撃が飛んできた。神癒奈が手をかざして停止の力で飛んできた狙撃をシャットアウトすると、その膨大なエネルギーを吸収し、尻尾から余剰熱を放出する。
「初っ端からこっちの存在に気づいてるのかよ⁉︎」
流石のこれには永戸も腰を引いた。永戸も神癒奈もフィアネリスも防御手段を持っているとはいえ、王国に行く前に狙撃が飛んでくるとは。警告のつもりか? と彼らは思う。
「…向こうは相当やり合いたいようだな」
「だけど、これ以上はさせません」
「どちらが上か教えてあげませんとねぇ?」
3人は警戒モードから完全な殺戮モードへと入り王城へ向けて最短コースで駆け出した。
ーーー
「あらら、外しちゃった感じ? どういうことかしんないけど、向こうもやるってことか」
王城の国王のいた血まみれの玉座にて、下卑た笑みで勇者の男は永戸達を狙撃した地点を見る。本来ならクレーターができててもおかしくない威力のレーザーを撃ったが、何故か無傷になっていた。
「まぁいい、相手が誰でも、元ヒーローの俺にかかれば容易い相手だ!」
沢山の侍女と姫を侍らせながら、男は笑う。彼は元の世界では平和を守るヒーローだった。だが性格がどうしようもないクズで、世界を守りはしても守る代わりに莫大な権力をもっていた。
その権力でありとあらゆる邪智暴虐な行為を行なってきたがある一人の勇敢なヴィランによって殺され、転生、天国にも地獄にも行けずにこの世界に送り込まれたという。
一言で言えば、世界一つ丸ごと生贄にした彼だけの牢獄だった。
「りゃはははは! ここには俺を裁く奴はいねぇし、この世界は俺のもんだぁあああ!」
彼がそう言った途端王城の謁見の間のステンドグラスが破られた。キラキラと星屑のようにステンドグラスが舞い散る中、突っ込んできたのは高速飛行形態で飛び込んできたフィアネリスで、その後ろに永戸と神癒奈がしがみついていた。
二人がフィアネリスから手を離すと、フィアネリスは高速変形し、チャージしていたギガ波動砲を構える。
対する男は放たれた覇気で侍女や姫を気絶させては振り払うと、レーザーを撃った。
ギガ波動砲の一撃とレーザーがぶつかり合う。空間を歪ませるほどの一撃が混ざり合い、綺麗に霧散した。
そして、神癒奈と永戸が落下して謁見の間に着地する。
「何だお前達は……あれ? あれあれ? 俺を導いてくれた神様じゃねぇですか! 今更一体何の御用で?」
「クーリングオフをしにきたんですよ!」
神癒奈と永戸が同時に武器を構える。勇者の男は立ち上がると余裕そうに肩を回し、三人を見た。
「その目、生意気な目をしちゃってさぁ、この光景は神様、アンタが作り出した光景なんだよ、アンタが俺をこの世界に送り込みさえしなければ、こんな事には…」
「黙ってて!」
神癒奈は大声でそういう。
「自らが作り出した惨状を、他人に責任転嫁しないで! そこに暮らしていた人たちの平和を壊して、何が勇者ですか!」
「狐のくせによく吠えるじゃねぇか、可愛くこんこんと鳴けねぇのか? ん?」
以前とは違って神癒奈は自分が行った過ちなどとは考えていない。こうなってしまったのは、邪悪な心を持った人や勇者のあり方が悪いのだと思った。
「その通りだ、猿山の大将であるのもここまでだ、地獄への切符を叩きつけにきた」
「そっちの兄さんは…へぇ、俺と同じ匂いがする、正義の名の下に多くの人を殺戮してきた匂いが」
「一緒にされちゃ困るな、俺は、死んでいったやつの思いを背負ってここにいる」
「笑えるね、死んだ奴の遺志だなんて、死んだら何も残らないのに」
男はそばに立てかけてあった聖剣を手に取り、三人と向き合う。
先に仕掛けたのは永戸だった。零を使い至近距離まで接近し、イクセリオスを振り下ろす。だが男は雨をかき分けるように剣を振るうと容易く永戸の剣戟が弾かれた。
「その程度の力で挑みに…」
男がそう言おうとするが瞬間、男の身をリヴァンジェンスⅡが貫いた
「…なんで…?」
痛む様子はなく簡単に抜かれる、白銀も撃ち込んだし、零の力も発動した。だが効果はなかった。それでこの男の能力は先天性のものだと証明された。
肉体を貫いてもダメージがないあたり、この男、無敵の能力も持っているのだろう。どこまでも力に恵まれたことが理解できる。
「あれ? 剣一本だったはずなのに何でいつのまに二本持ってるんだ? 何かのマジック? まぁいい、死ね」
聖剣から極太のレーザーが放たれ、永戸に振り下ろされるが、永戸は虚空からガントレットを装着するとその斬撃を弾いた。
「神癒奈!」
「はい!」
永戸が剣をガントレットで押さえつけると、神癒奈が接近して腕を切る。切った途端神権を発動させ、再生を食い止めようとしたが、その神権すらも弾かれた。
「高エネルギー反応、お二方、私の後ろに!」
男が攻撃をもろともせずレーザーを放つ。永戸と神癒奈はフィアネリスの後ろに立ち、攻撃をフィアネリスの盾で防ぐ。だが膨大な熱量をぶつけられてるのか、ラストダンサーの盾は一瞬にして表面装甲が溶かされてしまった。
一応、自動再生機能はあるが、次くらえばシールドはバラバラにされるだろう。
「俺のビームを受けて無事なんだ、久々に壊れないおもちゃを見つけていい気分だ」
「……」
3人は黙って勇者を見る。攻撃は通じない、一撃に膨大な威力が込められている、ビームが飛べば即死もありえる。どうしたら倒せると3人は思った。
零も、神権も通用しない、無敵のヒーローを倒す方法、それを探さないとずっと戦う羽目になると、永戸達は感じた。




