あれから数日のこと
アズウルとの決戦から数日のことだった。世界は破滅に向かっていたなんてことも知らずに元の暮らしに戻り永戸と神癒奈達の活躍により世界の破滅は未然に防がれ…がれ…。
『あの戦闘記録は口外禁止⁉︎』
朝から大声で四課のほとんどのメンバーが叫ぶ。叫ばなかった永戸とフィアネリスは耳をキーンとさせながら話を聞いていた。
「あぁ、イストリアの緊急議会でそう決まってね、あの事件のことは"なかったこと"にされた。絶望に取り込まれた人たちは記憶がなくなっているし、知られてたら暴動が起きる可能性があったからね、生存者に一斉に記憶処理が施され、事件は闇に葬られることとなったんだ」
「じゃあ、私達の苦労は…?」
「あぁ、そこに関しては大丈夫、勲章と報酬はちゃんと出ているからね」
そうしてユリウスがタブレットから与えられる勲章と報酬額を見せると、四課の面子は凍りついた。
「い、一、十、百、千、万……ひ……人が生涯持つことないくらいの大金が報酬として入ってませんか⁉︎」
「様々な異世界を救ったんだ。イストリアのスポンサーからはそりゃあもう報酬が大量に積まれたのだよ、まぁ何はともあれ、皆お疲れ様、そして今日も元気よく業務に励んでくれたまえ」
金を見た四課のメンバーは何を買おうか、何をしようかすぐに考え始めた。すぐ調子に乗るなこいつら…と永戸は思ったが、そういえば大事なことを忘れていたと心で思った。
(神癒奈とつきあうってなってたけど、カップルって、何をすればいいんだ…?)
戦闘ではプロフェッショナルな彼も、恋に関しては全然詳しくなかった。今回の報酬金は家族で遊んで暮らせるくらいの金がある…それで何かできればいいんだが…と永戸は思ったが、そんな時だった。
「マスター、神癒奈さんと付き合うことを決めたんですよね?」
「な、ななななんで知ってるんだフィーネ⁉︎」
あらまぁ、あなたが動揺するなんて珍しいとフィアネリスは悪い微笑みを見せる。
「それは、全知に隠し事をしても無駄ですよ、それで、これからどうするおつもりで?」
「どうするって、言われてもなぁ…」
永戸はどうしたらいいか分からず頭を抱える。すると、フィアネリスはこう提案してきた。
「今日は私は帰り別にしますから、マスターは神癒奈さんとデートを楽しんできたらどうですか?」
「デート……デートなぁ、いいのか?」
「構いませんよ、私は貴方と神癒奈さんの従者、言わば所有物扱いですので」
でへへーと所有物と言い張るフィアネリスに言われ、永戸は考えた。
(思えば、あの戦い以来この数日間何も恋人らしいことできてないしな、あいつにとっても、いいガス抜きになるだろうし)
「わかった、そうするよ、じゃあフィーネ、家の方は任せた」
「承りました」
そう言うと、フィアネリスはにっこりとして永戸と神癒奈の恋路を見守ることにした。
ーーー
そうして、時間は過ぎていき、帰宅時間となり…。
(Eフォンで連絡したけど、ちゃんと来るかな…)
永戸はそわそわしつつ、神癒奈を待つ。服装も、いつものコートだと可哀想に思えたので、普通のジャケットを着て待っていた。しばらくすると…。
「お疲れ様です。待たせてしまいましたか?」
神癒奈がやってきた。服装はいつもの巫女服コートから、小綺麗な洋服になっていた。
「お疲れ様、その服装…」
「あぁこれですか? 職場に持ってきた覚えはないんですけど、なんだかいつの間に入っていて」
恐らくはフィアネリスの手回しだろう、さすが二人の自称所有物と言うまである。
「綺麗だな、いつもより、とても綺麗に見える」
「そ、そうです…かね?」
「あぁ、それじゃ、行こうか」
「は、はいっ」
そうして二人はのんびりとミズガルズの街を歩きだした。
「綺麗に治りましたよね、この街」
「そうだな、それもこれも、全部俺たちの頑張りがあったから、なんだろうな」
崩壊した街を見た時と比べて、今の街はごく普通に、いつものように回っていた。事実が隠されたとはいえ、この街を守ることができたんだと、神癒奈は思った。
そういえば…と神癒奈は永戸に聞く。
「あの…これってその…いわゆる、でぇとって奴ですよね? えへへ…」
「そうだな、デートだ。今は二人きりだし…お金も沢山ある、今日ばっかりは……あぁ、好きなところへ連れて行ってやるよ」
「っ! じゃあ…!」
そうして二人は、いろんなところを回ることになった。
「ここ、行ってみたかったんです!」
「ただの回転寿司のチェーンだぞ、本当に飯はここでよかったのか?」
「今、キャンペーンをやってて、可愛いアクセサリーが30皿食べたら貰えるんですよー! 一緒に食べてください!」
「そんなに食えるかな…」
回転寿司に行って、二人で寿司を沢山食べて…。
「新しいゲーム機ですよ! VRのゲームとかどうとかだそうで! 買って一緒にやりませんか?」
「いや、俺はこっちのレトロな普通のほうがいいかな、最新のソフトで気になるシリーズがやっててさ」
「なら全部買っちゃいましょうよー!」
ゲーム展に行って好きなゲームを買い漁って…。
「この水着とかど、どうでしょうか? 似合ってますか?」
「似合ってるぞ、ちょっと露出は多めだけどな」
「じゃあ、プールに行った時、この服着て泳ぎましょうよ! お、泳げませんけど…」
「じゃあなんで水着を買うんだよ」
二人で服装や水着なんかを買って…。
そうして、二人で楽しんでるうちに、あっという間に時間が経っていった。
「今日はとっても楽しかったです!」
「そっか、楽しめられたならよかったと思ってるよ」
そうして二人で笑顔で歩いていると、装飾品店のウィンドウを見て、神癒奈が立ち止まった。
「どうしたんだ? 何をじっと見て…」
先に行きかけた永戸が神癒奈のところに戻って、ウィンドウを覗くと、そこには、狐がかたどられたペアの指輪があった。
「…欲しいのか?」
「えっ?」
「買ってやるよ」
「でもこれっ…!」
価格を見てみると今日買った何よりも高い値段で売られていた。それでも彼は店の扉を開けながらこう言う。
「これは、俺とお前が恋人になった記念に買う物だ、お前も欲しくて、俺だって欲しい、それなら、買ってもいいだろ?」
「っ……!」
永戸の言葉を聞いて、神癒奈は喜びで尻尾をブンブンと回しながら二人で店の中に入る。そして…。
「わぁ……ありがとうございます!」
二人でお金を出し合って、この指輪を買ったのだった。神癒奈は自分の指に、永戸はドッグタグにそれぞれつけて、一緒に帰る。
「…これで、永戸さんと私ので…お揃いですね!」
「あぁ、そうだな」
神癒奈が喜ぶ姿を見て、永戸もどこか嬉しさを感じた。
「これからも、あぁいや、これからは、恋人として一緒に生きていこう、幸せを二人で共有して、な」
「はいっ! よろしくお願いします!」
そうして互いに笑い合う二人の中には、確かな恋心と、相手への好感が芽生えていた。




