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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
最終章 終わり、始まる世界
125/258

残された者達

 街はほぼ崩壊し、イストリアの基地だけがギリギリ残った。生き残ったメンバーとその他の住民は、バリケードを作り、基地を仮の拠点とした。


「…四課の皆は無事なのは確認できたが…」


 神癒奈が他の四課のメンバーに連絡を取った後、他のメンバーが続々と基地に来て無事な事は分かった。ついでだが、渚のナハトヴォルフのギルドメンバーたちも無事にここに辿り着いたことも確認できた。だが、ある重大な問題が発生していた。


「…保管されていたアーティファクトが、全てなくなっているとは」


 基地の地下にて厳重に保管されていたアーティファクトが、全て持ち出されていたのだ。この前死ぬ気で守った百獣の王冠を始め、世界で一番有名な聖剣とされたエクスカリバーや、最強の盾アイギスなど、使えば戦局を変えられる武器が全て持ち出されていた。


「アズウルがイストリアを狙った理由はこれだったのか…」

「我々が必死に応戦してるうちに全部盗まれるとは……ユリウス、絶望とはなんなんだ?」

「世界を喰らう癌のような物だよ、アレとまともに対峙して心を強く持つ事は難しい」


 レナルドとユリウスが、空になったアーティファクトの保管庫を見ては会話をする。


「生き残っている部隊は?」

「貴様の四課と三課、一課、それと私の猟犬達二課全員は無事だ、だが一般の兵士と職員、魔導兵器は殆どやられた」

「ふむ……基地の防衛は三課と民間の者に任せるとして、それでも動けるのは特査の三隊だけか…」

「そもそも生存者も少ない、……この世界の、いやさまざまな世界の人類は、もう終わりかもしれない」


 レナルドの言う通り、生存者はほんの少数しかいない、これ以上戦うとしても、なんのために戦うのかと言いたくなるほどに、人が少なかった。


「確かに…もう守る者はないのかもしれない」


 ユリウスは、諦めを感じたように肩を下げた。


 ーーー


 一方、四課はいつもボランティアでやっていた炊き出しを行っていた。


「スープ出来上がったわよ、動ける人はそれを回してきなさい」

「いやー、普段やってることがどこで役立つか分かんないもんっすね」

「だね、エイルちゃん、怪我人の応急手当ての方はどう?」

「軽傷の人が多くて安心します、うまく逃げ込めた人はモンスターからの攻撃は受けてないのでしょうね、ですが…」


 遠くで、騒ぎになっているところを、エイルはチラリと見た。


「俺たちの街が…これから先、どうやって暮らせって言うんだ!」

「家族が…家族が、あの黒い泥に飲み込まれたんだ…俺の、目の前で」

「イストリアが守っていれば、こんなこと起きるはずがなかったんだ! そうだろう!」


 暴徒と化した避難民が、イストリアの兵士達に詰め寄っていた。だが、その直後、銃声ひとつでピタリとそれが止まる。


「うるさいな、みんな、みんな大切な物を失ってここにきてるんだよ、ああだこうだ言ってもどうにもならないのに、ぐちぐち文句を言うなよ」


 渚が銃を撃って、文句を言ったのだ。その言葉に暴徒達は言葉を失い、静かになる。


「すみませんね、渚様、このようなことを任せて」

「いいんだよ、実際うるさかったし、それより…おにぃちゃんは…?」

「マスターは…」


 フィアネリスはイストリアのビルの一つの部屋を見た、そこは、四課のオフィスだった…。


 ーーー


 空が暗黒に覆われ、暗くなった世界、それを永戸はイストリアのビルの中で、自分が普段座る椅子で眺めていた。


「……」


 椅子に座ったまま、アズウルとの戦いの時を思い出す。


【暑苦しいんだよキミは、大戦の時に思い知らされたはずだ、英雄も、正義も、どこにもないって、それなのに何故キミは、その偽りの正義にすがりつくんだい?】


 永戸は自分の手を見た。怪我ひとつない綺麗な手をしてるが、実際は数多くの戦いを経たボロボロの手で、ただそれを最新医療の治療で隠していただけの手だ。


「それでも、それでも俺は…!」


 ケイの姿で、英雄として、正義として、それらを否定されたことを永戸は苦しむ。そんな中、神癒奈が部屋に入ってきた。


「…永戸さん、ここにいたんですね」

「…あぁ、悪い、炊き出し、サボってしまって」

「いえ、そのことを責めにきたわけじゃなくて…ただ、貴方が心配に思ったから、ここに来たんです」


 神癒奈も自分の椅子に座り、考え込む。


「……辛い、ですよね、当たり前だった日々が一瞬で消えて」

「…お前だって、自分の国が消されるのを見たくなかっただろう?」


 顔を背けながらも、互いに慰め合う。暫く無言になるが、ふと、永戸は口を開いた。


「俺のせいだ……世界を救う能力を持っていたのに、世界を…救えなかった。一瞬で、全部壊されてしまった」


 ポツリとそう言うと、永戸は拳を握りしめ、涙を流した。それを横目で見た神癒奈は、静かに話す


「……私も、過ちを犯してしまいました。間違った人を、転生させてしまった、そのせいで、大勢の人が死んだんです…」


 すると、神癒奈は立ち上がり、永戸の方の席へ向かった。彼の背中で、神癒奈は話しかける。


「……だから、私が、ケジメをとります。達海さんを殺して……間違った転生を、世界の崩壊を、終わらせます」

「……相手にはアズウルもいるんだぞ、アーティファクトも奪われたんだぞ、どうやって、それを成し遂げるんだって言うんだよ」

「………最後の希望が、私にあるんです」


 すると神癒奈は胸元に淡い光を出した。その光は、暗い室内に影を落とすほどに光り、彼女の生命の鼓動に呼応する。


「…私には、全能の神格があります。その神格で、世界をもう一度、元の形に戻すんです」

「だったら今! 戻してくれよ! この壊れた都市を、今すぐ!」


 永戸は叫んだ、その背中から、彼が泣いているのが分かる。彼女の光が、彼の背を照らし、彼の影を浮き彫りにする


「…それが、できないんです。私の力はまだ未熟で、完全に世界を書き換えるには、"神の座"に座らなければ、できないんです」

「なんだよ…最後の希望って言っておいて、結局何もできないじゃねぇかよ」

「……できます」


 コツコツと歩き、神癒奈は永戸の前に立つ、すると、彼の目の前に光を見せながらこう言った。


「天界に、私のお父さんが座っていた神の座があります。アズウルは、多分そこで世界の崩壊を一度にたくさん起こしたんです、私のお父さんを倒して」

「じゃあ…神癒奈がそこに座れば」

「はい、滅んでいく世界を、元の、普通だった世界に戻すことができます」


 永戸は一筋の光明を感じ取ったが、だが、神癒奈から目を背けた。


「無理だ……できるわけがない、全能神さえも下したアズウルに、俺たちが対抗できるわけがない」

「そんなの、やってみなくちゃ分からないじゃないですか、私たちで協力して、アズウルを倒すんです」

「……無理だ、俺には、できっこない」


 涙をポツポツとこぼしながら、永戸は嗚咽を漏らす。


「俺のせいで…俺のせいで、多くの世界を、救えなかった! これだけの人を救えずして何が英雄だ! 何が正義だ! 所詮俺は…ただの人にすぎやしなかったんだ」

「……それは」


 アズウルに立ち向かった時、永戸は怒りのままに剣を振るっていた、その理由を、神癒奈は今知った。

 彼は今、強い罪悪感に苛まれているんだと。


「まだ、まだ取り返せます、零の力を持つ貴方と全能の権限を持つ私が協力すれば、アズウルだって、倒す事はできるはずです!」

「無理だ! 俺には…何も、できない!」


 永戸がここまで弱く苦しむ姿を見たのは初めてだと神癒奈は思った。だが、同時に彼女は理解した。彼は、ずっと、ずっと、背中に英雄としての重圧を背負っていたのだと。

 ずっと気になっていた、ヒカルと戦った時に放った「償い」と言う言葉を。それはきっと、大戦時から背負ってきた物で、誰かが死んで、死んで、ただ死んでを繰り返す中でその死を背負って、もう2度と過ちを繰り返さないように戦ってきたんだと、神癒奈は思った。そして今、多くの人が死んだことで、彼はその死を背負いきれなくなったのだ。

 だから、神癒奈は彼を優しく抱きしめた、暖かな感覚で、包み込むように。


「…もう、苦しまなくてもいいですよ、貴方が普通の人であってもいいんです。別に、誰かの死を背負おうとか、仇を討とうとか、必死になって考えなくていい」

「でも…俺は…俺は…!」

「ええ、分かってます、護るはずだったものを護れなかった辛さは、だから、もう終わりにしましょうよ、全てを、"零に還して"」


 すると神癒奈は、永戸の顔をまじまじと見たかと思うと、口付けをした。泣いている彼を慰めるように、強く暖かな感触で溶かすように。


「は……え…?」

「私は、貴方と出会って、本当に良かったと思ってます。私の探していたものが見つかって、憧れていた英雄にもなれて。いろいろな不思議な出来事の毎日を、貴方と過ごせて、とても良かったと思ってます。貴方の背中をずっと追いかけてきて、良かったと思ってます。私にとって貴方は、たった1人の憧れの英雄なんです」


 そう言うと神癒奈はまたぎゅっと永戸を抱きしめ、耳元で囁いた。彼にちゃんと聞こえるように、自分の思いを伝えた。


「狐と人って、古来より結ばれることが多いって伝説にあるんですよね、だったら…私たちもその…一緒になっても、いいですよね? 家族ですし」

「神癒奈……?」


 突然のキスと甘い声に永戸は衝撃を受けてぼーっとしていた。


「ここまで言ってもわかりませんか? この朴念仁……私は、貴方のことが、大好きです。英雄としてだけでなく、人として、仲間として、家族として、だから……」


 再び顔を合わせると、神癒奈は笑った。


「アズウルを倒して、元の世界に戻したら、私と…付き合ってください。私が、貴方のその想いを一緒に背負いますから、貴方を守る神になりますから」

「……神癒奈」


 彼女の告白を聞いて、永戸は泣き止んだ、涙を手で拭うと、彼女の顔を見る。


「ばか…そう言うのは、敵を倒してから言うのがお約束だろ…今言ったら…死亡フラグになっちまうよ……」


 でも…と永戸は言うと、どこか吹っ切れたように息を吐いて、笑った。


「…あぁ、お前の想い、伝わったよ、この絶望を終わらせよう。零に還して」


 そう言うと永戸は神癒奈にもう一度、返すように口付けをした。これには神癒奈も少し驚いたが、これが彼なりの「答え」だと気づくと、微笑む。


「覚悟は決まった、行こう、天界に」

「はい、私達で、倒しましょう、アズウル達を」


 そして2人は、いつもやっているように、拳を合わせた。

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