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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
最終章 終わり、始まる世界
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警笛

 神癒奈がリビングに行くと、四課の全員がピザを囲んでパーティをしていた。


「お帰り、仕事、どうだった?」


 永戸がコーラ片手に聞くが、渚同様に異変に気づく。その後、神癒奈は今回の転生の件について話した。


「自殺者による転生者か……また難しい話だね。捨てた命を拾うことになるなんて、なんとなく苦労が分かるよ」


 ユリウスは目を閉じて静かに頷いた。


「でも、これって転生としてアリなのかな? なんだかずるくない?」

「そうですね…生き物として卑怯な感じがします」


 コリーとエイルも、同意してくれた。


「兎も角、その勇者の担当になったんだろ? 暫くは様子を見なければならないはずだ」

「それはそうなんですけど、なんだか胸騒ぎがするんです」

「どうして?」

「命を投げ出した人が、真っ当に勇者として役目を果たせるのかどうか…」


 それを聞いて全員は確かに…と考えた。勇者の騒ぎについては最初に出会った時や桐枝の件で散々知らされている。相手は一度命を捨てた者だ、暴走したら何をするかわからない、とにかく心配に思った。


「まぁ、不安かもしれないけど、今はピザ美味しいし、楽しも?」


 渚の陽気な声で皆の剣呑な空気が解かされ、パーティーに戻る。


「しかし、永戸も家族が4人になるとはね」

「2人は勝手に住み着いたようなもんだけどな」

「私まで勝手扱いですか⁉︎」


 広い家に家族4人、よくよく考えてみれば普通の人の幸せな人生を送っているようなものだと永戸は思った。


「…こんな暮らしが続けばいいな」

「…はい、私もそう思います!」


 永戸が天井を見て微笑むと、神癒奈も一緒になって笑った。


 ーーー


 翌日、仕事の時間になって、各々は着替えて準備する。


「じゃあボク行ってくるね」

「行ってらっしゃい」


 渚は先に闇ギルドの方へ向かった。永戸たちも準備をして外に出る。イストリアへ向かおうとするが、その時、神癒奈の脳裏に何かが走った。

 一瞬だけ見えた景色、それは絶望に呑まれるミズガルズの街だった。


「今のは…」

「神癒奈さん…?」

「だめっ! みんな逃がさないと!」


 そう言った瞬間、ミズガルズの空が朝なのに暗く染まった、同時に都市の機能が全て停止し、各地で事故が多発する。

 それだけではない、地面からドクドクと黒い影が溢れ出し、空からも黒いタールのような雨が降り注ぎ、街中はあっという間に魔物だらけとなった。


「これは⁉︎」

「アズウルの…手先!」


 永戸は素早く剣を取って目の前の影の魔物を切り裂く。だが倒しても、またすぐに魔物が出てきた。


「イストリアに行くぞ! この状況だ! 隊員も全員向かってるはずだ!」


 そう言っては永戸たちは駆け出す。目の前に魔物たちが立ちはだかるが、それら全てを切り払い、イストリアへと向かう。

 途中で銃撃音や魔導兵器の駆動音が聞こえるあたり、戦える者は皆戦っているようだが、都市が暗闇に染まるのは時間の問題だった。


「情報! 集まりました! 今すぐ開示します!」


 すると少し上を飛んでいたフィアネリスが永戸たちの端末に情報を出した。


「現在、全世界で絶望の存在が確認されています! この世界だけではありません! あらゆる世界でです!」

「そんな…私の国まで!」

「各世界の生命が急速な勢いで絶望に飲み込まれています! この街の住民も、先程起きたこの一瞬の侵食でほとんどが飲み込まれました! 今残っているのは本当にわずかな人です!」


 先程の一瞬でそこまでやられたのかと永戸は焦る。そう考えると他の四課のメンバーが心配になった。


「イストリアの方は大丈夫なのか!」

「本部は現在応戦中です! 民間人もそこへ何百人かは逃げこめてるようです!」

「皆さん…どうか生きててください!」


 そうしてイストリアの基地についたが、そこでは、イストリアだけでなく、警察、ギルド、闇ギルド関係なく、さまざまな人達が絶望の魔物と戦っていた。


「くそっ! 基地も魔物だらけかよ!」


 危険な場所と化した基地の中で、永戸たちは四課のオフィスに向かって武器を振りながら駆け抜けていく。

 いつも通っていたエントランスに辿り着くと、暗闇から黒い影が現れた。


「やぁ、また会えたね、永戸」

「アズウルーーーッ!」


 今度は何者の邪魔もない、存分に戦える状況、永戸は諸悪の根源であるアズウルに向かって突っ込んだ。


「あははっ! ここまで無傷でこれるなんて流石英雄殺しだね、楽しんでくれたかい? 崩壊へのプレリュードを?」

「あぁ、今すぐお前を殺さなきゃならないくらいにな!」


 力強く斬撃を行い、アズウルを地面に叩きつけようとするが、彼は軽やかに地面に着地すると、永戸に向かって黒い剣を振るった。


「今度こそ、お前をここで! 止める!」

「血の気が多いなぁ、自分の街を壊されたのがそんなに嫌だったのかい?」

「違う! 無差別に命を奪う、お前のあり方が、気に入らない!」


 永戸とアズウルが激しい斬り合いをする、そんな中、神癒奈は四課のメンバーに通じる連絡網で他のメンバーの生存を確認していた。


「お願い…生きてて…!」


 生存連絡を取ると、神癒奈も戦闘に参加する。


「無差別に命を奪うだって? やなことを言うじゃないか、僕は災いの一つ、災害そのものだよ? 災害で人が死ぬのは当たり前なんじゃあないか?」

「違う! お前がやってるのは、大量虐殺だ!」

「永戸さん! ……アズウル! もう、人を殺させは、させない!」


 そうして神癒奈は斬りかかろうとしたが、その時、何者かによって神癒奈は蹴られた。


「けほっけほっ! 一体…誰…! ……⁉︎」


 神癒奈は痛みで腹を抑えながら立ち上がるが、その時見た者に驚いた。


「達海…さん……なんで⁉︎」

「あぁ、その声は、僕を導いてくれた神様! 生きておられたのですね! でも何故、愚かな人類の味方を?」

「何故って……どうして貴方が、アズウルの味方をしているんですか!」


 そこにいたのは、黒い鎧を着た達海だった。それが彼女の目の前に立ち、漆黒の剣を掲げて喜びの声をあげている。


「彼は人類に絶望していたらしくてね、侵略先の世界で虐殺を繰り返していたところを勧誘したんだ」

「虐殺だなんてそんな横暴な事を言わないでくださいよアズウル様。僕がやっていたのは聖戦です」

「聖戦って…」

「愚かにも過ちを繰り返す人類の粛清ですよ! その力をくださったのは、紛れもなく貴方様じゃないですか! 神様!」


 人類の粛清と聞いて、神癒奈は言葉を失った。自分が与えた力で、彼は、誤った異世界の救い方をしてしまったのだ。


「神癒奈さん! そいつの言葉に耳を傾けてはなりません! 彼は、紛れもなくサイコパスです!」

「なんで…どうして、折角、もう一度与えられた命なのに、なんで、人を救う方に使えなかったんですか⁉︎」

「はい? なんでわざわざ、自分を利用する人を救わなきゃならないんですか?」

「利用って……そんな!」


 神癒奈には何も反論することができなかった、いや、言葉を紡ぐことさえできなかった。彼の虐殺の片棒を担いだのは自分自身であったからだ。


「残念だね? キミが力を与えて救った人がこうして過ちを犯したのだからね?」


 いつの間にか増えたアズウルが神癒奈の前で彼女を笑う。


「黙れ!!」


 すると、フィアネリスが槍を振るい、アズウルを貫いた。だがそれは影の一部だったのか、すぐに消えた。


「神癒奈さん……立ってください、貴方は、決して間違ってない、間違ったのは、愚かに命を消費したあの方なのですから」

「フィアネリスさん…!」


 フィアネリスに言われて神癒奈は立ち上がる。過ちを犯した人がいるならば、自らの力で断ち切るのみ、神癒奈は覚悟を決めて、達海に刀を向けた。


「今度こそ、貴方の過ちを、食い止めます!」


 そう神癒奈が構えた時だった。


「うぁっ!」


 永戸が吹き飛ばされ、地面を転がった。けれど、すぐに立ち上がり、アズウルに向かって走る。


「暑苦しいんだよキミは、大戦の時に思い知らされたはずだ、英雄も、正義も、どこにもないって、それなのに何故キミは、その偽りの正義にすがりつくんだい?」

「俺が掲げた正義は、偽りなんかじゃない! そこに生きる人を守る為にある力だ!」

「分からないなぁ、大戦であれほど絶望して、それでも立っているキミのその在り方が」

「お前なんかに、英雄の在り方が分かるか!」


 永戸が聖剣を振りかざし、光を宿してアズウルを切った。だが、その場所にアズウルはなく、気がつくとアズウルは宙に浮いていた。


「まぁいいさ、ここにはただ物を取りに来ただけだし」

「なんだと⁉︎」

「じゃあ、また今度会おう、生きていたらだけどね、せいぜい生き延びなよ」


 そう言うとアズウルは消えた。


「あぁ、絶望様も行きましたし、僕もそろそろ行きますね、神様」

「待って! 達海さん!」


 達海も暗闇の中に消えて、エントランスは静寂に包まれる。外の戦闘音もなくなり、本当に静かになった。


「畜生、ちくしょおおおおおおっ!」


 一瞬で奪われたありふれた日々、その事に耐えられなくなると、永戸はただ叫んだ。

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