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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
最終章 終わり、始まる世界
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歪に廻る命の歯車

 四課での仕事がない頃、神癒奈は自分の世界で国の管理をしていた。

 普段は自分の部下に国の政治や生活を任せっきりだが、こうして行ける時には自分で行って国の様子を見る。


「ここしばらくはどうですか?」

「民の生活も穏やかになってきました、リオーネ様の国との同盟のおかげ食料問題が、貴方様の政治で人と妖、それぞれの隔てた壁も解決しつつあります」

「よかった、それなら少し安心できそうですね」


 神癒奈は屋敷から建て直した神宮から、民の暮らす街を見下ろす。魔殺楼との戦いからしばらく経ち、都の景色はかつての活気あふれる物へと戻りつつあるのを感じた。

 そんな時だった、ピロリ…と一枚の羊皮紙が唐突に目の前に現れた。

 この羊皮紙は見覚えがある…と神癒奈はそれを見てみる。

 そこには、神癒奈が神として死者の転生を執り行うことを命じると書かれていた。


「死者の転生…」


 やり方はどうすればいいんだろうと思った時、不思議と頭の中にそのやり方が全て流れ込んできた。


「……つまり、これをやれって言うんですね」


 神癒奈は羊皮紙を置くと、立ち上がって部屋を後にしようとする。


「神癒奈様、どこへ?」

「少し神としての用事ができました、すぐに戻ってきますからね」


 そう言うと神癒奈は異空間への扉を開き、中へと入っていった。


 ーーー


 異空間に移動し、神癒奈は目を開ける。そこは、神だけが持つことができる領域だった。遠くには鳥居がいくつも立ち、神癒奈が立つ地面には薄く水が張っていて、鏡のように彼女を映し出していた。そして、一番特徴的なのは、空にたくさんの星々と巨大な月が見えることだった。

 そんな異空間に神癒奈は立つ。すると、その空間にぼんやりと、人の魂が現れた。


「うう、僕は…どうなって……」


 うずくまるように立ち上がったのは、どうやら男らしい、それもまだ若い高等の学生くらいの子供だ。


「気が付きましたか? 意識はしっかり保ててますか?」


 初めてのことなので、神癒奈も試し試しで話してみる。すると男はこちらに気づいた。


「貴方は…一体…ひ、人に耳と尻尾が生えてますけども」

「あぁ、ええと……うん、私は、神様です。貴方は、元の世界で不慮の事故か何かで死んでしまいました」

「そう、ですか…あはは」


 今、死んだと聞いた時に笑ったのを見て、神癒奈は一瞬違和感を感じた。異世界転生についての話は永戸からよく聞かされていた。神々が死んだ人を導き、次の異世界へと魂を転生させる、そこまでは聞いていたのだが、ここで一つ、神癒奈は有る疑問を抱いた。


「貴方の名前は栗原(くりはら) 達海(たつみ)さんでよろしいですね。死因は……」


 さあ、彼女が抱いていた疑問、それは、死因について聞かされていないことだった。

 名前や性別、性格、出身などは魂が現れた時になんとなく頭によぎって分かったのだが、死因が読めなかった。

 これは転生において普通なのかは分からないがだが、分からずに進めるのもマズイかなと思い、神癒奈は死因を聞いた。


「死因? あぁ、自殺ですよ」

「じさ……!」


 自殺と聞いて神癒奈は手で口を押さえ、驚いた。同時に彼の死んだ時の記憶が流れ込み、彼の死んだ時の体が脳裏に映る。そこは、永戸や桐枝がかつていたとされる世界、地球の日本と呼ばれる場所で、目の前の達海と名乗る男が投身したところが映った。


「神様も驚くのですね、現代の日本では自殺者なんてたくさんいますよ」

「でも、そんな…なんで!」

「いろいろ有るんですよ、神様ならそこらへん、見通せますよね」


 再び彼女に記憶が流れる。そこには、いじめやDVなどを受けていたのが見えた。


「これは……」


 こんなの、平和な暮らしで人がすることじゃない、そう思った神癒奈は崩れ落ちそうになる。だが、それを耐え、神癒奈はまっすぐ達海と向き合った。


「前世での余りある不幸、心中お察しします。ですが、それもここまでです、貴方は、異世界への転生者に選ばれました」


 目をしっかりと見て、彼女ははっきり口にした。それを聞いた達海は一瞬目を丸くするが、直後、歓喜の声を上げた。


「おおおお! 夢にまで見た異世界転生! 本当にあったのですね!」

「えっええ、貴方はこれから、別の世界に転生して、勇者として、悪を倒してもらいます」

「王道の勇者転生! 素晴らしいです!」


 歓喜の声を上げながら神癒奈の手を取ろうとする達海。神癒奈は彼の喜ぶ姿を見て驚いた。このような運命を辿ったから、一発逆転のチャンスが来て喜んでいるのではないか、そう思った。

 だが、そう言えば、永戸からこんな話を聞いたことがあった。


【異世界転生、俺の時はよく覚えてないから忘れたけど、最近の地球では異世界転生を夢見る奴が多いらしい。理由は、理不尽な運命や不幸から逃れて自分の夢見る世界に行きたいと願うから、が結構多いらしい。けど、俺はそんな奴が異世界に行く権利があると思わない。そう言った願いを持って死んだ奴は……】


【(生きる事を諦めた臆病者だから)】


 心の中でそう思うと、神癒奈は目の前にいる達海を悲しい人だと見るようになった。だが、そう考えにふけている時間はない。


「異世界に転生するにあたって、貴方には勇者としての力が与えられます、私の手にある力をとってください」


 神癒奈はあらかじめ用意された力を取り出すと、それを達海の手に触れさせる。すると、達海の中に力が流れ込み、彼の中で、勇者としての力が開花した。


「凄い、これが勇者の力なのですね!」

「ええ、貴方はこれから、その力で異世界を救いに行ってください」

「分かりました! 神様! 貴方に救われた身です、この運命、必ず僕が全うして見せます!」


 その言葉を最後に、神癒奈は達海を異世界へと送った。だが…。


「こんなのって…こんなのってあんまりですよ! どれだけ残酷な運命であったとしても、自分のたった一つの命を絶って! あるかもわからないもう一度生きるチャンスにすがるだなんて!」


 送り出した後、彼女は1人地面に座り込み、泣き出した。初めて自分が担当した転生者が、自殺者だったなんて。ましてや、自死してそれでもなお、生きる希望に縋り付くなんてと…彼女は、その在り方が認められなかった。

 けれど、この領域に入る者は誰もおらず、ただただ彼女の泣く声だけがこだました。


 ーーー


 仕事を終えたその夜、神癒奈は家に帰ってきた。玄関で靴を脱ぎ、家に上がる。


「みゆにゃーん! みゆにゃん! 今日の晩ご飯は引越し祝いのピザだよ! 四課のみんなが来ててさぁ、みんなで食べようよ!」


 渚がジュースを片手に神癒奈の前に立つが、神癒奈の雰囲気を見て、何かを察した。


「……みゆにゃん、何か、あったの……?」

「渚さん……」


 涙を堪える神癒奈を見て、渚はなぜ泣くのか不思議に思った。けれど次に取った行動は、意外と早かった。


「…どうしたの? 何か嫌なことでもあった?」


 渚は、神癒奈に抱きついた。神癒奈の耳元で、淫魔の魅了の効いた甘い声が囁く。それに崩されまいと神癒奈は思っていたが、だが、それに屈して嗚咽を漏らした。


「今日…初めて担当した転生者が……自殺した人だったんです……その理由も、とても過酷で……」

「うんうん、そっか、そんなことがあったんだね」


 崩れ落ちた神癒奈を渚が大事そうに抱えて言う。


「ホント酷いよね、生きてればもっといい未来があったかもしれないのに、勝手に命を捨てて、勝手に新しい命を手に入れるなんてさ」

「…はい」


 渚の声が神癒奈の耳にしっかりと聞こえる。


「周りの奴だって、人の事考えずにボロクソにしてね、その人がどうなるかとかも考えずにね」

「…はい」


 彼女の甘い声が、神癒奈の苦しみを溶かしていく。


「これだから嫌いなんだよね、人間って、おにぃちゃんだって、きっと同じ事言うと思う、だってボクらは生きたくても生きられなかった命だからさ」

「…はい」


 渚はそう言うと、神癒奈の顔をまっすぐ見た。


「…そうだね、ホント理不尽だと思う、死んだ奴も、殺した奴も、何もかも。ほら、もう泣かないで、みんなで一緒にご飯食べよ? みんながみゆにゃんを慰めてくれると思うよ」

「…そうですね、すみません、取り乱しちゃって」

「いいんだよ、ボクとみゆにゃんは家族だもん、悩んでたら助けなきゃ、ね」


 ギュッと手を握られ、神癒奈は渚に連れられ、暖かな空間へと導かれる。心の中の闇を、光で照らすように。

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