無理無理無理!
※『R15』と『ボーイズラブ』タグに関する表現が一部含まれますのでご注意ください。
馬車が止まると、降りてきたのは案の定あの日のキラキラ王子だった。
(あぁ。夜でも十分キラキラしてたけど、昼間に見るとキラキラ過ぎて目が潰れそう)
少なくとも、俺とは絶対に相容れないタイプの人間である。
「一体何の御用なのかしらっ!」
そう言いながら、オネエサマが駆けていった。
そんな彼女の背中を、俺は数秒遅れて追いかける。
だって。
(どうせ俺も、呼ばれるんだろうし)
何故ならそれが、『シンデレラ』のシナリオなんだから。
あの日以来、神は俺の前に姿を現していない。
あの日の最後に「待ってれば勝手にイベント進行するから」なんて言っていたが、とうとうその日がやってきたという事なんだろう。
(って事は、もうすぐこの世界ともおさらばか……)
そう思えば、ほんのちょっと寂しくなる。
確かにこの世界での扱いは良いとは言えないけど、思い返せばそう悪い生活という訳でもなかった。
いびられる事もなく、勉強や仕事をする必要もなく。
テレビや携帯電話は無いけど、代わりに家事をこなせばそれで良いし、裁縫という名の手慰みもある。
そして、何より。
「せっかくオネエサマとも仲良くなってきたのに」
まぁこんな事を言ったら、彼女はきっと「いつ誰が仲良くしたのよ!」って顔を真っ赤にして怒るだろうけど。
なんて事を考えながら思わず微笑んでいると。
「シンデレラ! シンデレラ!!」
継母が俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「はい」
俺は返事をして、役者の揃った室内へと入っていく。
部屋に入ると、中には王子と従者らしき男が居た。
「年頃の娘といえば後はこちらのシンデレラくらいですが……この様な汚い娘、王子様がお探しの方ではないと思いますよ?」
継母のそんな猫撫で声に、俺は思わず苦笑する。
(汚い娘って……まぁ、確かにボロ雑巾の自覚はあるけど)
なんて思っていると。
「よい、彼女にも履かせてみろ」
「はっ!」
王子の鶴の一声で、俺はあのガラスの靴を履く事になった。
そして、結果は勿論。
「おぉ! ピッタリだ!」
そんな言葉と共に、瞳を輝かせた王子が俺を見つめる。
「貴女をずっと探していたんだ。あの日は突然帰ってしまい、名前を聞く事もできなかったから」
「シンデレラ?! 貴方一体どうやって舞踏会なんかに! ドレスは一体どうしたのです!」
少しよそ行き口調の継母に、俺は「えーっと」と困った様な顔をした。
(魔法使いに変装した神がやってきて俺にドレスを着せたなんて、言ったところで信じてもらえそうにないしなぁ……)
心の中でそう呟きながら、どうしたもんかと途方に暮れる。
しかしその懸念は徒労に終わった。
「シンデレラ、というのだな」
王子が俺と継母の会話を横からぶった斬ったからである。
王子が向けてくる熱い視線に何だかひどく居た堪れなくなって、俺は思わず視線を逸らした。
しかしその一方で、少しホッとしている自分も居る。
(これでやっと、男なのか女なのかよく分からない生活も終わりを告げる)
そう思った瞬間だった。
俺の両手に、唐突として他人の体温が分け与えられた。
驚いてそちらを見ると、王子が俺の手を胸の前まで持ち上げて、自身の手の中に握り込んでいる。
「僕の子を産んでくれ」
真摯に見つめてくるその瞳の奥に、わずかな欲が煌めいた。
ひどく整ったその顔を真正面から引き受けた俺は。
(ひ、ひぃぃぃぃぃ!)
思わす心の中で悲鳴をあげる。
『シンデレラ』の結末は王子の妃になる事だ。
それは最初から分かっていた。
しかしせいぜい結婚式エンドだと思っていたのだ。
その先の生々しい話など、聞きたくないし想像もしたくない。
こちとら筋金入りの陰キャだ。
加えて、女の子と交流を持つことも稀なら、そういうアレを具体的な誰かを相手に想像したことも無いチキンである。
そんな俺を捕まえて『子供産んでくれ』だと?
(無理無理無理! 大体俺、男だし!)
王子の不用意発言のせいで、俺の思考は大パニックだ。
一体どうしてくれる、王子よ!
というか。
(好意を抱いてない相手からの、こういう言葉の破壊力!)
確かにこの王子、顔は綺麗だし王子だから経済力もある。
世間一般的には稀に見る優良物件なのだろう。
しかし残念ながらというべきか、それとも幸いというべきか。
俺にその手の誘惑は効かない。
だって俺はそもそも異性愛者だし、別に必要の経済力も求めていない。
その上、生々しいアレコレを想像させられて生理的に拒否反応を起こしている今の俺にそんな熱い瞳を向けられても、良い答えなんて返せる筈がない。
それに、そもそも。
「何で俺なの?」
パニック甚だしい思考の中で、俺は思わずそう聞いた。




