えっ、そうなの? 初恋なのっ?!
自慢じゃないが、色恋沙汰にはこれまで全く縁が無かった俺である。
初恋さえまだの俺には、そんなに熱い瞳を向けられる理由が分からない。
俺の言葉に、王子は何故か「なるほど」と独り言ちた。
「『僕の口から君の好きなところを聞きたい』と」
「違う!」
それは間違いなく勘違いだから、そんな嬉しそうにしないで!
そう心の中で切に叫ぶが。
「では語ろう。とは言っても、口で説明するのは中々難しいのだが……そうだな」
盛大な誤解をした彼は脇に嫌な汗をかいた俺に全く頓着する様子もない。
……もういいや、とりあえず王子の気が済むまで語らせてやろう。
「まずは、その美しさ! 特にあの日の貴女はとても美しかった」
ちょっと待て、それは神の『俺が女に見える魔法』の賜物だ。
それは俺本来の魅力じゃない。
「それに、その美しさと語り口のギャップ。その少し粗野な感じが良い」
ゴメンナサイ、それは俺が男だからデス。
ついでに貴族ではなく、しがないサラリーマン家庭の子供だからでもありマス。
それらを加味すれば普通だよ。
……まぁ、王子の近くにはなかなか存在しない人種ではあるのかもしれないけどさ。
「あとは……これから知っていけばいい! とにかく私は貴女が好きなんだ!」
おいおい。
コレ、結局俺元来の魅力なんてほぼ関係ないじゃん。
いやね、別に「俺自身を好いて欲しい」とかそういう事じゃないんだけどさ。
でもそんな状態で抱いた『好き』って、ホントに好きって事なの?
っていうか。
「どうしてソレで『恋愛感情だ』って分かるんだ……?」
あ、もしかしてコイツ、珍品に対する興味と恋愛感情の区別がついてないんじゃないか?
もしくは、王子はあくまでも『シンデレラ』のシナリオをなぞってるだけで、そこに感情なんてないんじゃ……?
(だとしたら、俺が感じた恐怖も少しは落ち着くかもしれない……!)
俺はそこに1つの功名を見た。
『シナリオなんで』って事なら、ちょっとくらい生理的に無理だとしても納得できるかもしれない。
そんな希望と共に告げられた言葉は、王子を何故かキョトン顔にさせた。
しかしそれもほんの一瞬で、すぐに微笑みに変わる。
滲み出る様な連声が込められた微笑みに。
「心配しなくていい。私が抱いているのは、間違いなく恋愛感情だよ」
そう言って彼は、俺の両手を先ほどまでより少し強く握り込む。
「だって、あの夜。私は今までになく楽しかった」
その時間が、私にとっては確かに特別だったのだ。
そう彼は言う。
その声に、俺は何故か引っかかるものを感じた。
妙な……そう、既視感だ。
「貴女の一面を見つける度に、嬉しくなって」
そう、あの子はちょっと不器用。
だけど確かな優しさがそこには潜んでいて。
「貴女の表情ひとつひとつに心が揺れて」
そう、あの子が笑うと何だか心がふわっとなるんだ。
そしてあの子が喜ぶと、俺は何だか無性にくすぐったくなる。
「貴女の言葉で悲しくなった」
ついさっき、あの子が王子の来訪を知った時。
彼女のたった一言に、俺は何故か胸が痛くなった。
「こんなにも貴女に振り回されるこの感情の正体がもし君への恋慕でないのなら、一体何と呼べば良いんだい?」
え……?
それが恋愛感情っていうやつなの?
って事は俺、もしかして……。
(恋しちゃったの? 初恋なのっ?!)
よく分からない。
けど、王子のいうことが正しいのならそういう事になるんだろう。
(えっ、どうしよう。俺、恋しちゃったよ?!)
パニックの上に更なるパニックを重ねて、俺はその『相手』にバッと目を向ける。
すると俺のその勢いに驚いたのか、怯えたのか。
そこには、ビクッと肩を跳ねさせたオネエサマが居た。




