俺、もしかして余命いくばくも……
舞踏会が終わって数日後、俺はというと。
「ちょっとシンデレラ!」
「はい?」
日常に戻っていた。
今日も今日とて家事仕事。
とはいっても、元々家事ができる上に此処数日で色々と要領を得てきた俺は、仕事自体は半日強で終わらせてしまうのだが。
(だから残りの半日弱は自由時間だし、全く虐げられているという気がしないよなぁ)
ホントに俺は『シンデレラ』の前提条件を守れない、何とも残念なヤツである。
しかし変化もあった。
「こないだの髪飾り、中々だったわ。今度は同じモチーフでネックレスとか作りなさいよ」
そう、オネエサマが俺にこういう類の『命令』をする様になったのである。
あくまでも素っ気なさげに命令してくる彼女だが、その嬉々とした様子は残念ながら上手く隠せていない。
まぁその隠蔽の甘さもそこから漏れるウキウキとした様子も、俺にとってはそう不快ではないから良いんだけど。
「あぁ、それならこないだ一緒に作ったチャームが……」
そう言いながら、俺は自分の部屋にポツリと置かれたタンスの中を漁り始める。
最近彼女は、俺に裁縫の材料をくれる様になった。
そのストックを使って、暇を持て余した時にはちょっとした物を作っているのだ。
(こないだ髪飾りあげた時にオネエサマの反応が良かったから作ってみたんだけど……無駄にならずに済んだな)
なんて思いながら探し出したのは、例の髪飾りに付いているのと同じタイプの、爪ほどの大きさの花。
素材は布で、花の額に当たる側には紐状の物を通せるように輪っかが作ってある。
それが3つ、今俺の手のひらの上には乗っていた。
「これなんですけど」
「っ! かわいいわ!」
ズイッと顔を寄せてきたオネエサマの声が、喜色にパァッと華やいだ。
(いやだから……相変わらず近い)
これだから地が陽キャのヤツは。
そんな悪態を心の中で吐きながら、俺は彼女からほんの気持ちだけ顔を逸らして距離を取る。
しかしそんな事には全く気付かない彼女は、俺の掌の上に人差し指を伸ばしてきて。
「それにしても、よくこんな細かいのが作れるわね」
なんて言いながら、それをツンっと突き始めた。
(え、ちょっと待って。その人差し指、俺の手にもちょっとだけ掠ってる掠ってる!)
やめてくれ、なんかとってもこそばゆいから!
……いや、物理的にだけじゃなくて。
見た目は多分動じてない様に見えるだろうけど、これは許容量オーバーの時に起きるフリーズ現象だから!
俺にはあまりに高すぎるハードルだから!
そんな俺の心の叫びは、彼女に届くはずもなく。
俺はカチンと固まったまま嬉しさ満開な彼女の顔をただ視界の内に収める事しかできない。
と。
そんな俺の視線に気付いて、彼女がハッとした。
そして。
「ま、まぁまぁじゃない。貰ってあげなくもないわ」
先日と同じ様に、またもや取り繕ってみせる。
しかしオネエサマよ、口の端が上がってるよ?
まったく隠せてないよ?
……まぁ、それだけ喜んでくれれば俺も嬉しいけどさ。
気がつけば、先程までの体の硬直は解けていた。
何だか体がポカポカとする様な気がするのは、きっと気のせいだろう。
だって、そうなる覚えが俺には無い。
「じゃぁこれ、貰っていくわね」
そう言って、彼女が花達を手に取った時だった。
不意に、馬の蹄の音と車輪が地面を走る音が聞こえてくる。
「……馬車?」
オネエサマが、言いながら窓から外を確認した。
その隙間から俺もちょっと外を覗いてみる。
それは、実に豪奢な馬車だった。
白を基調にした車体に金色の飾りがつけられているその馬車は、側面にこの国の国旗と同じ紋章が大きく描かれていて。
「っ! うそっ! 王子様だわ!」
オネエサマの声が、今までに無い喜色に染まった。
興奮しているのか、先程までより声も1トーン高い。
そんな彼女を前にして。
「……?」
俺は自身の左胸に手を伸ばした。
その辺が、何だかチクリと痛んだ様な気がしたのだ。
しかし、何故。
(……はっ! もしかして俺、心臓に何か病気でもっ?!)
もしかしたら俺、もう余命いくばくも無いのかも。
やはり陰キャは、こうやってひっそり寂しく異世界の片隅で死んでいくのがオチなのか。
幾らヒロイン補正が効いているとはいえ、所詮は俺だ。
そっちの結末の方がお似合いだろう。




