第五章 八月その28
…目の前にリューリがいる。
リューリが何か言っているが僕には聞こえない。
ただ、僕の中には彼女に謝りたいという気持ちがあり、なんとか声を出そうとする。
だが、声が出ない。
その内に酷い眠気が襲ってくる。
僕は彼女に手を伸ばすが腕も上がらない。
…眠い。
でも謝りたい。
自分の気持ちだけ一方的に言ってしまった。
彼女の悩みをきちんと聞けなかった。
…ごめん。
…ごめん、リューリ。
「…急に…倒れ…」
「…病院…連れて…ますか?」
「…朝から…悪そうで…熱中症…」
「…服…脇や額を…冷…」
「エアコン…様子見…」
「…リューリというのは?」
「…私です…」
「…リューリさん…見つけて…」
「…あ、目を開けてる?」
「わへい!?」
「森島君?分かる?」
「わへい!?分かるか!?」
頭の中は霞がかっている。
酷く眠い。
…そして怠い。
覗き込んでいるのは主任、黒崎、そしてリューリだろうか。
「…まだ額熱いです」
リューリが額に手を乗せる。
ヒヤリとしてとても気持ち良い。
「引き続き冷やそう。もし飲めたら水分摂らせて」
「…起きられる?黒崎君。手伝って?」
「分かりました。わへい、身体起こせるか?」
「…なんとか」
黒崎とリューリに身体を起こしてもらう。
…頭が痛い。
リューリが差し出したペットボトルを受け取る。
「少しずつ、ゆっくり、ね」
こくこく、と少しずつ飲んでいく。
一息つくことが出来た。
「…ありがとう。もしかして倒れたの?僕」
「そうだ。たぶん熱中症だな。リューリさんが見つけてくれて教えてくれたんだ」
また黒崎とリューリに身体を支えてもらいながら横たわる。
…ここは休憩室のようだった。
「吐き気はないか?」
「大丈夫。頭、痛い…」
「身体を冷やして横になってるんだね。落ち着いたらタクシー呼ぶから。今日は帰っていいよ」
「すみません。主任」
「いや、こちらの管理不行き届きだよ。体調の確認を怠った。管理者失格。ごめんね。気づいてあげられなくて」
主任が申し訳なさそうに言う。
「僕は仕事戻るけど、黒崎君と、リューリさん?付き添ってあげてくれるかな。吐いたりしたらすぐ教えて」
「…すみません」
主任が休憩室を出ていく。
「…ごめん。迷惑かけた」
「気にするな。朝から調子悪そうだったもんな」
「……」
リューリはこちらを見て黙っている。
その表情からは何を考えているかは分からない。
「大丈夫そうだな?また少しずつ水分摂って。タクシー呼んでもらおうか」
「…このまま仕事に戻る…」
キッとリューリが睨み付ける。
「…ことはないから帰るよ」
黒崎が苦笑して休憩室を出ていく。
「…情けないところ見せた」
「……」
リューリはまだ黙っている。
しばらく、二人して黙っていた。
「タクシー来たから。黒崎君と、リューリさんで送ってもらおうか」
主任と黒崎が戻ってきた。




