第二章 五月その12
五月最後の日曜日。
僕はまた祖母の介護施設に来ていた。
ノックをして祖母の部屋に入る。
祖母は検診中なのか不在のようだったが、先客が来ていた。
「あら、わへい。来てくれたの?」
母だった。
「母さんこそ、久しぶり?」
母が席を勧めてくれる。
「ジュース?高校生ならもうコーヒー?」
「…いやジュースもらうよ」
母がオレンジジュースを入れてくれる。
「高校は慣れた?」
「慣れたよ。カーリング始めたんだ」
一ヶ月前にも祖母と同じ会話を交わしたことを思いだし、思わず吹き出してしまう、僕。
「あら、すごいじゃないオリンピックは…」
「無理だからね」
母は目下別居中。
理由は父の仕事、となっている。
母が母のある長野県に帰ってしまい、父は東京での仕事を辞め長野県に戻ったのだった。
「こっちの生活は慣れた?」
「寒いのが大変だけどね、慣れたよ。父さんとは会ったの?」
「…会いに来てくれたわ」
「…母さんも父さんの実家に戻るといいよ。父さんも喜ぶし」
「…わへいも嬉しい?」
「…嬉しいし…」
「…?」
「家事が楽になる」
母さんが困ったように笑う。
「そうよね。ごめんなさい。みんなわへいがやってくれてるのね」
「…そう。大変。父さんも反省したからこっちに戻ったんだよ」
「…そうね。今度、行くわ。戻るのはもうちょっと待ってくれる?」
「…急がなくてもいいよ。今度コーヒーの入れ方を教えてくれないかな?僕はまだ飲めないし父さんの好みが分からない」
「…ん、OK」
ドアが開き、祖母が戻ってきた。




