第七話 アンネローザ大森林の大蛇
「見たことない植物がたくさん……興味深いわね」
「植物、好きなの?」
「ええ。人並みに、だけど」
「そうなんだ。この森はあんまり探索が進んでないから、珍しい植物もいっぱい見られると思うよ」
「それは楽しみね」
出発の朝から、四時間くらいが経ったのだろうか。
日は高く昇り、昼の訪れを告げる頃。
ところどころに見られた焚き火の跡や、放置されたままの布切れなどといった、人の痕跡が全く見られなくなる。
いよいよ俺達は、人々に知られていない領域へ足を踏み入れたようだ。
「すっかり人の痕跡が無くなったね」
「ねえ、ベクタ。一つ引っかかることがあるんだけど……」
「何?」
「私達、まだこの森に入ってからそんなに経っていないわよね」
「まあ朝から昼になるくらいまでの間だから……大冒険って程では無いね」
「なのに、もう未開の地に入ったの?」
「……どういうこと?」
「いくら大森林って言っても、四時間歩いたくらいで人が立ち入れない領域になるのは変じゃないかしら?」
「確かに……」
言われてみれば、気になるところだ。
この広大な「ラシア王国」の中でも、特に大きな森であるアンネローザ大森林。
国の東端にあたるここが開かれていないというのは納得できるが、それにしたって開かれていなさすぎる。
何か、人が先へ進めない原因でもあるのだろうか。
「……っ!気をつけて、何か来る!」
アリサが何かを察知し、動きを止める。
辺りでは鳥が飛び立ち、木々がざわめき始めた。
「キシャァァァァ!」
現れたのは、木々を薙ぎ倒しながらスルスルと地面を這う大蛇。
「これは……!まさか人が森の奥まで入れていなかったのは……!」
「ああ……!おそらくこの蛇が《《全員食ってたから》》だ……!大昔から、ずっと……!」
魔物らしい特徴が見られない、おそらくはただの蛇。
しかしそれは森のヌシとして巨大になり、今や人間である俺達を一瞬で喰らわんと、目の前に立っている。
レベルは四桁、それも5000では済まないだろう。
「キィィィ……シャァァァァ!」
大口を開けて、大蛇は俺を狙って迫り来る。
「【ストーンゴーレム】!」
俺は「ストーンゴーレム」を生成し、盾とする。
突然目の前に現れた石の塊に驚いたのか、大蛇は俺を避けて距離を取った。
アリサは木の太い枝に立ち、剣を構える。
「はぁぁぁっ!【シルヴァ・スラッシュ】!」
「グギャァァァ!」
アリサの斬撃により、蛇の尻尾が切り落とされる。
ファイヤードラゴンのように硬い鱗を持っている訳ではない、ただの蛇であるが故に、アリサの斬撃が通用した。
「キィィィ……シャァァァァ!」
しかしアリサの方へ注意が向き、大蛇は口を開けた状態で、一直線にアリサへ突撃する。
目にも止まらぬスピードで足って逃げるアリサだが、蛇はそれ以上の速度で追いかける。
どうしたものかと考えて、思いついた。
追いかけられているアリサを助け出す方法。
巨大なランガルを乗り回して、レーザーを地面めがけて撃つのは、アリサを巻き込んでしまう可能性がある以上、出来ない。
……であれば、小型の武装で対抗すれば良いのだ。
「アリサ……!そうだ!出てこい、【パワードスーツ】!」
俺は人間の全身を覆うようなスーツを二着生成し、その片方を着る。
「ど、どどどどどうしよう!追いつかれちゃう……!」
「もう少し持ちこたえて!」
背中に付いているスラスターに魔力を送り込み、空を飛ぶ。
「も、もうそこまで来てる……!」
「うおおおおお!アリサ!掴まって!」
そしてもう一着を左手に持ち、アリサの元へ。
右手でアリサを抱き寄せ、そのまま俺は空中へ身を逃した。
「ふぅ……危なかった……!」
「あ、ありがとう……」
「まだ戦いは終わってないよ。あの蛇、まだ諦めてない。こっちを見てる」
「攻撃は通じたけれど……向かってこられると厄介ね……」
「アリサ。これを着てみて」
俺は左手に持っているパワードスーツを差し出す。
「わっ、きゃっ、な、何これ!?」
アリサがパワードスーツに手を伸ばすと、パワードスーツは呼応したかのようにアリサの身体を包み込む。
「パワードスーツ。身体能力を強化する、特殊な服?みたいなものだよ」
「へぇ~……」
「今から木の上に運ぶから、それで試しに戦ってみて。俺は……近接戦闘苦手だから、ちょっと退かせてもらっても?」
「分かったわ。今こそ、私の出番ね!」
「ありがとう!よろしく!」
俺はアリサを近くの大木まで運び、そのまま退避する。
すると、すぐに大蛇は視線をアリサの方へ移し、再び一直線に向かっていった。
「さあ、来なさい。私は今、仲間からの熱烈なバックアップを受けているの。そう簡単にはやられないわよ!」
「キシャーァ!」
大蛇は大口を開け、大木を登り始める。
アリサは深く息を吸って、吐き、剣を構えた。
「必殺……【オーロラストライク】!」
そして飛び立ち、空中で大蛇が広げた口を狙って構える。
オーロラのように広がる殺気を纏ったアリサは、大蛇の口から入り、そのまま体内を貫きながら駆け巡る。
「アババッ、ババッ、バァ」
そしてそれは、尻尾を貫いて飛び出した。
「アリサ!ナイス!」
「やったわ!いぇいっ!」
アリサはこちらに向かってブイサインを送った。
内臓をズタズタに切り裂かれた大蛇は、そのまま木から落ち、ピクリとも動かなくなる。
俺達は偶然にも、秘境とされるアンネローザ大深林に巣食う大蛇を討伐してしまったのであった。




