第三話 初めての二人旅
三日後の昼頃。
俺達は道中で見かけた冒険者ギルドの「アンネローザ支部」へ立ち寄った。
この辺り、アンネローザ平原は温暖で湿潤な気候のようであり、畑に並べられた美しい稲穂が見られる地域であった。
「ベクタ、ちょっといい?」
「どうしたの、アリサ」
「この依頼、受注してみない?小手調べにも丁度良いと思って」
「何ですか、ファイヤードラゴンの討伐依頼……?」
ギルドへ入って早々のこと。
アリサが、いきなりヤバそうな依頼を持ってきた。
小手調べってレベルじゃねーぞオイ。
「私だって、レベルに不足は無いハズよ。それにいざとなったら、レベル9999のベクタがいるから大丈夫だと思うの」
他力本願ですかそうですか。
「ちなみに……どういうつもりで?」
「私の剣術がどこまで通じるか、試してみたいの。厚い鱗に覆われた身体に、私のスキルが通じたら……もっと自信を持てる気がして」
「自信が無い人はファイヤードラゴンの討伐依頼なんて受けないと思うんだけど」
「そこは……まあ……ね?」
アリサはウィンクして、誤魔化してみせる。
「ええ~……」
役立たずと言われた俺に、そこまで期待されても困るのだが……アリサもう仲間になったのだ。
いざとなったら、ゴーレムを盾に使って逃がすとしようか。
「大丈夫よ!きっと私達なら何とかなるわ!」
私達なら何とかなるって……。
俺達、まだ出会って二日目なんですけど……。
「あー、うん?そうかな?そうかも?」
露骨に否定するのも、それはそれで冷たい反応になってしまう気がしたので、適当に相槌を打つ俺なのであった。
「さ、そうと決まったら、行きましょ!受付に依頼の紙持って行くから、その間に荷物の確認しておいて!」
「分かったー」
俺はポーチと背負っていた袋を漁り、前回の依頼で余らせていたポーションと薬草、そして干し肉やパン、水筒などの食料を確認する。
「お待たせ!よーし、行くわよ!」
「ああ、待ってよアリサ!」
足早にギルドを出ていくアリサを追って、俺も袋とポーチの紐を縛り、ギルドを出る。
ファイヤードラゴンは近くの山、「アンネローザ山」に住み着き、ギルドがある平原含む周辺地域の人里に現れては、人間に驚いてか手当たり次第に破壊活動をする、恐ろしい魔物なのだという。
この手の巨大な魔物は、勇者パーティにいた際に相手したことが無いという訳ではない。
しかし、今回のパーティは四人ではなく、アリサと俺の二人。
少なくともステータスを見る限り、アリサも決して弱い訳では無い、むしろ人間にしてはかなり強い方のようだが、それでも巨大な竜というのは、ただ大きいというだけで強いものだ。
アリサは「もしファイヤードラゴンを倒せたら自信になる」と言っていたが、それこそ小手調べというよりかは、腕試しのような感覚で行くべきだろう。
やはりと言うべきか、少なくとも俺は、逃げる時のことも考えて動いた方が良さそうだ。
野を超え山を越え、俺達はファイヤードラゴンの住処へ向かう。
間に野宿を挟み、現場近くへ着いたのは二日目の昼過ぎだった。
「いよいよね……ちょっと緊張するわ」
「俺もだよ。二人でデカい魔物に挑むのは初めてだから」
「前のパーティは何人だったの?」
「四人だよ。昔からずっと同じ四人で頑張ってきたんだ」
「そうなんだ……。ごめんなさい、心の傷を抉るような事ばかり聞いちゃって」
「いいよ。俺達、もう仲間じゃん。仲間のことを知りたいと思うのは当然だと思うし、一々気にしてないよ」
「そうね。……ありがとう、ベクタ」
「さ、そろそろファイヤードラゴンの住処と思われる場所だよ。剣を構えておいて」
「ええ。この依頼、必ず達成しましょ」
「そうだね。でも無理はしないで。いざとなったら俺が何とかするから。元Sランクパーティの人間として」
「頼りになるわね。ありがとう」
森を抜け、焼き尽くされたであろう木々の残り滓を前に、この辺りがファイヤードラゴンの住処であろうと察する。
そして少し歩き、見えてきたのは赤色の鱗。
巨大な体を持つ、竜族に分類される中でも、特に有名かつ脅威とされる魔物、ファイヤードラゴンであった。




