第十九話 オオクリ村の僧侶
オオクリ村。
山の中に位置する、小さな集落だ。
辺りには棚田が見られ、高低差がある山の中でも米を生産できるようになっているらしい。
「のどかなところね~」
「そうじゃなあ。妾の故郷を思い出すのう」
「ペグって所のことかしら?」
「うむ。妾はかつて、『ペグ』と呼ばれた山に住んでおったからのう。今も残っておるかは分からんが、いずれまた帰っておきたいものじゃ」
「いつか皆で行こうね!ぺグリルちゃん!」
「そうじゃな。……む、ギルドの支部があるぞ。ダイバード駆除の報酬はここでもらえるのではなかったかのう?」
「お兄ちゃん、入ろう!」
俺達はギルドのオオクリ村支部へ。
受付のおじいちゃんにダイバードの生首を見せると、すぐに村を孤立させていたダイバードの巣について話をしてくれ、俺達がそれを駆除したことを伝えると、報酬の金貨十枚と銀貨三枚、大銅貨一枚を用意してくれた。
前世換算で、約100310円である。
元からお金に困っていた訳では無かったが、より温かくなった懐に心を躍らせながら、俺達は教会へ向かった。
「ごめんくださーい」
「はーい!旅のお方ですか?ようこそ、オオクリ村教会へ!」
扉を開けると、一人のシスターが出迎えてくれた。
この国では「聖五星教」という宗教が一般的であり、国民の約20%が信者なのだそうである。
オオクリ村教会も、例に漏れず聖五星教の支部にあたる教会という訳だ。
「シスターさん、一つ聞いても良いですか?」
「はい!何なりと!」
「この村に、腕の立つ僧侶の方がいらっしゃると聞いたんですが……」
「ああ、『エルキア』ちゃんのことですね!エルキアちゃんなら今、事務所で作業してますよ!呼んできましょうか?」
「お願いします!」
「エルキアちゃーん!お客様が来たよー!」
腕の立つ僧侶というのは、「エルキア」という名前らしい。
そして、このシスターは友人か何かなのだろうか、やけに馴れ馴れしく、僧侶エルキアを呼びに行った。
そして一分も経たないうちに、シスターはエルキアさんを連れて戻ってきた。
「お待たせしてしまいましたね。私は『エルキア・ネルビアンテ』。このオオクリ村を任されている牧師です。そしてこちらが……」
「『メル・アントロ』です!自己紹介遅れましたっ!」
シスターの名前はメルというらしい。
「よろしくお願いします。俺はベクタ・グラウスって者です。ゴーレム使いやってます」
「私はアリサ・ヘルフェンハットです。以後、お見知り置きを」
「妾はぺグリル。魔物じゃが、人間とは仲良くさせてもらうつもりじゃから、警戒せんで良いぞ」
「そして私はメリア・グラウス!魔術師です!」
「よろしくお願いしますっ!ところで……どういったご用ですか?遠くからお越しのようですし、ただ礼拝しに来ただけとは思えませんけど……」
「それなんですが……。うちのメリアが、邪神?というかタコみたいな魔物?というか……そういう奴から邪気をもらいまして。原因になった魔物は倒したんですけど、いまいち祓えてるかどうか不安だったので来たんです」
「なるほど、そういうことですか。それは不安だったでしょう。メリアさん、ちょっと失礼しますね」
そう言って、エルキアさんはメリアの胸に手をかざし、呪文のようなものを唱え始める。
「わっ、光が……」
「ちょっとの間、動かないでくださいね。心臓の辺りに、邪気を検知しました。今から魔術で除去します」
「お願いしますっ」
エルキアさんは指先で五芒星を描き、メリアの心臓に魔術的な印をつけた。
「【浄化の光】」
そして、その五芒星を起点に魔を浄化する光を放つ。
すると、メリアの胸に染みついていた錆のようなものがみるみるうちに落ちていき、綺麗さっぱり無くなった。
「なんだか、身体が軽くなったみたい……!」
「……お疲れ様でした。メリアさんの心臓についていたのは、潜伏型の邪気でした。このまま放っておいたら、危ないところでしたね」
「ありがとうございますっ、エルキアさん!」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
潜伏型……邪気にも種類があるのか。
今後とも用心しなければ。
「邪気にもいろいろ種類があるんですね」
これを機に、折角なので邪気について聞いてみることにした。
「はい。大まかに、いわゆる普通の邪気が『表層型』、気付きにくいものが『潜伏型』、そして邪気を受けた者の精神に影響を及ぼすものが『憑依型』と呼ばれています」
「へぇー」
「潜伏型と憑依型は珍しい……と言いますか、強力な魔物か、よほど邪悪な力に手を染めた魔術師しか使えないので。メリアさんの心臓を見た時は驚きました」
「そんなに珍しいものだったんですか」
「ええ。あなた方がどのような魔物を相手にしたのかは存じ上げませんが、よほど強力だったのだろうということは、想像に難くありませんでした」
「確かに、こちらも切り札を切らざるを得なかったくらいには強かったですね」
あのタイミングで水中型ランガルの存在を思い出せたのは、かなりラッキーだったと言えるだろう。
「そういえば、お代っていくらになるんですかー?」
メリアは少し不安そうに、エルキアさんに尋ねる。
「お代は結構です。解呪はボランティアでやってることなので」
いくらかかるのか少し気になっていたが、なんと代金は無料とのことであった。
「そうなんですか、ありがとうございます」
「いえいえ。その代わりと言っては何ですが、お願いしたいことがございまして」
「良いですよ、俺達に出来ることでしたら何でも」
「この近くの山……オオクリ山の頂上に、強い邪気を感じるんです。皆さんには、そこの様子を見に行って頂きたくて」
「ふむふむ」
「お帰りになられた際には、全員の身体に邪気が絡みついていないかチェックさせて頂きますし、多くはないですが、報酬もお渡ししますので……どうか、お願いします」
「分かりました。でも、メリアを助けてもらった恩があるので、報酬は大丈夫です。バイタルチェックはお願いしたいですけど」
「ありがとうございます……!では、よろしくお願いします!」
「お願いします、旅の方々!」
エルキアさんとメルさんはこちらに頭を下げる。
良くしてもらったのはこちらの方なのに……何だか申し訳ない気持ちになってしまうというものだ。
「よし、次の目的は決まりね」
「うむ。オオクリ山の頂上、じゃな!」
「よーし!恩返しのチャンスだねっ!お兄ちゃん!」
「ああ!行くぞ、皆!」
こうして、俺達はオオクリ山の頂上を目指して歩き出した。
メリアの邪気が祓われたことで、寿命の問題は解決した……と、信じたい。
少しの心配を抱えながらも、俺達はオオクリ山の麓へ辿り着く。
そして翌日。
俺達は頂上を改めて見据え、オオクリ山を登り始めるのであった。




