第一話 出会い
暗闇の中で、玉座に座りこちらを見下ろす、一人の女性。
「貴方のことを、ずっと見ていました。貴方が前世で積んだ徳の力を今こそ使う時です」
「ゼンセ……?何を言ってるんですか?っていうか、貴女は誰なんですか……?」
「コホン、失礼。自己紹介が遅れました。私は月の女神。『シン』と申します」
「シン……さん……?」
「はい。もっと詳しく説明した方がよろしいでしょうか?」
「お、お願いします。話が見えてこないので……」
「分かりました。貴方は《《今の貴方》》になるまで、別の人間として、こことは違う世界で暮らしていました」
「はぁ」
「そこでの貴方は、人格者として多くの人間を助けていましたね。私は見ていましたよ。迷子になった子供の親を探してあげたり、道に迷っていたお婆さんを助けてあげたり」
「迷ってた人助けてただけじゃないですか?それ」
道案内マスターか何かか、俺は。
「はい。ですが、それは誰にでも出来ることではありません。他にも、路上に捨ててあったゴミをゴミ箱に捨てたり、迷子の親を探したり……他にも、色々ありました」
「へー」
何だ、他にもあったんだ。
よく分からないけど、俺が俺になる前の俺?は、よほどのお人好しだったらしい。
「だと言うのに、貴方の人生は不慮の事故によって失われてしまった……可哀想だと思いませんか?」
「へ?……まあ、そうですね」
「だから前世の貴方に免じて、妹さんの寿命に、少しだけ猶予をあげようと思います」
「マジですか!」
「ええ、マジです。貴方の妹さんは、本来ならばあと一ヶ月で死んでしまうハズでした。しかし私の加護で、もう一ヶ月だけ、寿命を延ばしてあげられそうです」
「是非!やってください!その間に俺、エリクサーを取りに行くので!お願いします!」
「分かりました。これ以上はナシですよ」
そう言うと、女神シンは青い光を放ち、空間を割いてメリアの元へ生命エネルギーのようなものを分け与えた。
「ありがとうございます!これで……これでまだ、希望が……!」
「では、ベクタ・グラウスさん。そろそろお目覚めの時ですよ」
「あ……そういや俺、気絶してたんでしたっけ。……俺、頑張りますね」
「ふふっ。その意気です。せいぜい、私の加護を無駄にしないよう、励んでくださいね」
「はい!」
そう叫ぶように返事をすると、視界に光が入ってきた。
女神様と、俺になる前の俺に感謝し、目を覚ます。
気がつくと俺は、酒場の宿泊スペースらしきベッドに寝かされていたのであった。
「あ!起きたよー!」
女の子の声がしてすぐに、その父親であろう酒場の主人が顔を出す。
「オイオイ、気絶すんのは自由だけどよぉ、ウチでされちゃあ困るぜぇ」
「すみません。ちょっと……ショックなことがあって」
「大方、パーティを追われたとか、そんなことだろ?」
「大当たりです、悲しいことに」
「なら……これからギルドに行くのか?」
「はい、そのつもりです」
「そうか、もう倒れんなよ!」
俺は身支度を整え、酒場の主人に例を言い、《《冒険者ギルド》》へ向かう。
冒険者ギルド。
それは周辺地域から、冒険者を目指す人々が訪れる場所。
冒険者というのは様々な困りごとを解決する職業、言わば日雇い労働者のことを指す言葉であり、冒険者ギルドとは、そんな人が寄せられた依頼を受注したり、仲間となるパーティメンバーを探したりする場所ということだ。
俺は一人虚しく街道を歩き、冒険者ギルドへ足を運ぶ。
ギルドの扉を開け、パーティメンバー募集の張り紙がされている掲示板へ目をやる。
するとそこには一枚、目を引く掲示があった。
「……何々、アリサ・ヘルフェンハット……ポジションは前衛、剣士……。募集要項はBランクパーティ以上経験者……」
俺が所属していたのは、Bランクを超えるAランク、さらにそれを超える最上位ランク、Sランクパーティだ。
今は独立扱いになり、ランクが二つ下がって俺単体ではBランクパーティと同じ扱いになってしまったが、それでも十分ということらしい。
つまり俺は、有資格者ということになる。
俺はパーティメンバー募集の紙を受付へ持って行き、ギルドが発行している身分証を提示する。
「ベクタ・グラウスさん……Sランクパーティ経験者!?」
「はい、微力ながら……」
「今、丁度アリサさんが来てるので、早速、アリサさんに話を通してみますね!そこに掛けて、お待ち下さい!」
すると、ギルドの奥で待っていたであろうアリサさんと思しき少女がこちらへやってくる。
白髪に碧眼、サラリと伸びたストレートのロングヘアが特徴的な、しかし身長はそこまで大きくない、フレッシュな印象を抱く、俺と同じ十六歳程度と思われる若い女性であった。
「貴方がベクタ・グラウスさん?」
「はい。俺が間違いなく、ベクタ・グラウスです」
俺は身分証を取り出し、目の前の少女に見せた。
「初めまして。私がアリサ・ヘルフェンハットです」
彼女も身分証を取り出し、こちらに見せてくる。
個人でAランクパーティにまで上り詰めた、相当な実力者のようだ。
「よろしく、アリサさん」
「アリサで良いわよ、ベクタさん」
「じゃ、俺もベクタで良いよ。よろしく、アリサ」
「ええ、よろしく」
こうして、俺はアリサと名乗る少女とパーティを組んだ。
これから、どんな冒険が繰り広げられるのか。
果たして俺は、エリクサーに辿り着くことはできるのか。
月の女神が言っていた「ゼンセ」とは何なのか。
それは少なくとも、現時点では神のみぞ知る、なのであった。




