第十五話 メクジラ町へ
翌日。
俺達は宿場町イソルカを出て、再びメクジラ町へと歩き始めた。
町を出ると街道が敷かれており、メクジラ町までは比較的安全に進めるようだ。
しかし、メクジラ町へ近づくにつれ、段々と霧が出始め、視界が悪くなってきた。
道が石畳で舗装されていなければ、道に迷っていたところであった。
「霧が深いわね……」
「前が見えづらいのう」
「お兄ちゃん。はぐれないように、手、繋いで良い?」
「うん。離れないようにね」
「やったー!えへへ~」
俺は右手でメリアの左手を掴み、繋ぐ。
「むっ、ズルいぞ。我が主人よ、もう片方の手が空いておろう?妾も繋いで良いか?」
「良いよ。はい」
続けて俺は、空いていた左手でペグリルの右手を繋いだ。
「……ねえ、ベクタ。街に着いたら……私も、手……繋いでもらっても良いかしら」
「良いけど……ペグリルかメリア、どっちかと交代しなきゃだね」
「なら、妾が肩車してもらえば左手は空くぞ」
「名案ね」
「俺は要塞か何かですか?」
両手に加えて肩まで塞がるのは聞いてません。
「お兄ちゃん、手の繋ぎ方変えよっ」
「変えるって、どんな風に?」
「手の平と平を合わせて、指を絡ませて」
「兄妹でやるかぁ?それ」
恋人繋ぎですやん。
「ダメ?」
「ダメではないけど」
「じゃあやろっ!」
メリアは俺の右手をぎゅっと握り直した。
「その……ベクタ。私も……」
「じゃあ、街に着いたら交代しようか。ペグリル、お願いできる?」
「じゃあ妾は街に着いたら肩車してもらうかのう」
「マジかぁ……」
こうして、俺はメクジラ町に到着するまでの間、右手でメリアに恋人繋ぎをしつつ、左手でペグリルの小さな手を握りながら歩いたのであった。
そうこうしている間にも、どんどん霧は深くなっていく。
そして三日後、メクジラ町に到着する頃には、数メートル先さえ白みがかって見てない程にまで、霧は濃くなっていた。
「……どうぞ、お入りください」
メクジラ町、南門前。
俺達が門番を探していると、門番の方からやってきて、あっさりと許可をもらえた。
セキュリティが緩い町なのか、特に身分証を提示する必要も無いようだ。
さて、俺はこうして、右手にメリア、左手にアリサ、そして肩にはぺグリルという、騎馬戦もびっくりな状態で町へ入った訳だが、どうにも町の様子に違和感を覚えてしまった。
おそらく住民であろう人達は皆、下を向き、何かをぶつぶつと呟いているのだ。
「何か……不気味な町だね」
陰気くさいと言うのだろうか。
道行く人もそうだが、街そのものにも活気が無いように見える。
「妙な臭いがするのう……」
「生臭いわよね。水揚げでもしてるのかしら」
「そんな街中に臭いが広がることなんてある?」
「でも、そうとしか思えないわよ」
アリサはいよいよ鼻をつまみ始めた。
活気の無い町を一通り巡って、気づいたことがある。
まず、人通りが少な過ぎるのだ。
一周するには一時間ちょっとかかる町であるにもかかわらず、すれ違ったのはたったの四人だった。
そして、町中が生臭いのだ。
どこへ行っても生臭いが故、どこへ行ってもアリサが鼻をつまんでいた。
俺達は宿酒場の二階にある四人部屋へチェックインを済ませ、部屋の真ん中に座って話を始める。
「この町……何かおかしくない?」
「そうね。ずっと思っていたわ」
「人間の町はもっと賑わっておるハズじゃ。イソルカより大きな町で、これしか人通りが無いのは妙であると言えるのう」
「何かこの町……怖い……」
「この町には、何かがあるような気がする」
「そうね。明日の朝が訪れたら……調査に出ましょう」
「ここはただの町では無い。それは確かなようじゃの」
気がつけば、外はすっかり夜になっていた。
霧はさらに濃くなっており、何をするにも危険な状態だ。
俺達は一階の酒場で夕食を済ませ、特に出来ることもないため、早く寝ることにした。
「お休み~」
それから俺達はベッドに入り、すぐ眠りにつく。
しかし俺が意識を手放してから数時間後。
「ベクタ、ベクタ」
以前に聞いたことがある、しかしパーティメンバーとは違う、女性の声。
「シン、様……?」
目を覚ますと、そこはやはり真っ暗な空間で、目の前には月の女神を自称するシン様の姿があった。
「眠っているところごめんなさい。一つ、警告をしなければと思いまして……」
「警告ですか?あ、それより、ありがとうございます。おかげさまでメリアの病気は良くなりました」
そして、俺はシン様から衝撃の事実を伝えられた。
「それなのですが……。確かに、妹さんの病気は良くなりました。ですが……妹さんの寿命は、あと一ヶ月と少ししか無いんです。そういう運命なんです」




