第十一話 ナチュレエリクサーの泉
「ち、小さくなっちゃった……」
「本当に攻撃する気は無い、みたいね……」
俺はコックピットから降り、アリサと二人で小さくなったペグリルの元へ。
「ど、どうじゃ?この姿ならそう驚かんで済むじゃろ」
確かに先ほどまでペグリルだったハズの、獣の耳と尻尾が生えた少女は、両手の平を腰に当てながら喋り始めた。
確かにつけたハズの傷は、身体を小さくした際に治したのだろうか、すっかり消えてしまっている。
念のためパワードスーツは脱がずに、しかし会話を続けてみることにした。
「いきなり襲って来なくても良かったじゃんかー」
「今更になって人間が来るなど、思っておらんかったからのう。こっちだって驚いたんじゃよ」
「驚いたって……何に?」
「其方ら、妾の力を求めて封印を時に来たんじゃろ?」
「「へ?」」
「え?……違うのか?」
「俺達はエリクサーを探してる途中だったんだ。それで……何やかんやあって、ここに辿り着いただけ」
「そ、そうなのか……てっきり妾を求めて、己が力を示しに来たのかと思ったわい」
ぺグリルは肩をガックリと落とし、トボトボと背を向けて歩き、広間の奥にある壁に偽装された隠し扉を開く。
「あんな所に扉が……!」
おそらく忍者屋敷という概念を知らないであろうアリサは、目を丸くして驚く。
「この先には、エリクサーが湧き出る泉がある。……欲しいんじゃろ?」
「え!?あるの!?欲しい!」
「妾を打ち負かした者に、くれてやるよう言われておるんじゃ。いくらでも持って行くが良いわ」
「いぃぃやったぁぁぁぁー!!!」
俺は袋の中から四つの瓶と十個の小瓶を取り出し、隠し扉の奥に溜まっていたナチュレエリクサーを注ぎ込んだ。
アリサも持っていたコップにナチュレエリクサーをくみ、体内へ流し込む。
「わぁ、すごい……」
すると、アリサがスキルを発動するために使った魔獣が一瞬で回復し、水浴びで落とし切れていなかった角質や汚れが一瞬で浄化された。
「これが……エリクサーの力……!」
「ふん、凄いじゃろ。ずっと、守ってきたんじゃ。ここに辿り着く人間が訪れる時まで、離れてはならぬと言われておってのう」
「主人がいるの?」
「うむ。妾と並んでも引けを取らぬような、女の魔術師じゃった。もう寿命はとっくに過ぎておるじゃろうが、な」
「へぇー」
「でも、私達がここに訪れてペグリルちゃんに勝った以上、もうその命令は無効よね。これからどうするの?」
「そうじゃな、妾がここに留まっている理由は無い。洞窟を出たら、300年ぶりの旅にでも出てみるかのう」
ペグリルちゃんは伸びをして、地面に座り込む。
ずっとこの空間に封じられていたのだ。
久しぶりに動くのは、さぞ気持ちが良いことだろう。
「ねえ、ベクタ。この子……勧誘しても良いかしら」
「良いんじゃない?人慣れしてるみたいだし」
「ペグリルちゃん。折角ここで会ったんだし、私達と一緒に来ない?」
「良いぞ。元々、妾を打ち負かした者を主人としてついて行くつもりで戦っておったからのう」
アリサが差し出した手を、ペグリルは掴んで立ち上がる。
「……あぁ、誘っておいてなんだけど、ここの守り手がいなくかることに関してはは大丈夫なの?」
「元々、ここは未開の地じゃ。そう人も来んじゃろうて。それに、妾は負けた。ここを去る時が来たということじゃ」
ペグリルは頭を掻き、大あくびをした。
「あっ、そう……。じゃあ……早速で申し訳ないんだけど……俺の実家に寄っても良いかな……一刻も早く、妹にエリクサーを飲ませてあげたくて」
「良いわよ。仲間の実家に行くのなんて初めてかも。楽しみね」
「どれ、我が主人となる者がどんな暮らしをしておるのか、見てやろうではないか。……ところで、じゃ」
「何?」
「何か飯をくれんか。ずっとここに引きこもって眠っておったからのう。300年間何も食っておらんで、腹が減って仕方ないんじゃ」
「干し肉で良い?」
「うむ!飯じゃ、飯じゃあ!」
干し肉を渡すと、ぺグリルは勢いよくそれを手に取り、すぐに口へ。
「よく今まで生きてたね。300年も何食べてたの?」
「ここに侵入者が訪れるまで、腹が減らないよう眠っておったのじゃ。動物でいうところの冬眠じゃな」
「はぇー、器用なんだね」
「まあの。どれ、行くか」
こうして、俺達はペグリルを新たな仲間に加えてパーティを組み、洞窟を出て行く。
向かう先はグラウス家、難病に伏している妹がいる、俺の実家。
大切なエリクサーが入った瓶を割ってしまわないよう、俺は袋や腰など様々なところに分散して持ち、アンネローザ支部に泊まっていた商人に金貨一枚を払い、途中まで馬車の荷台に乗せてもらえるよう頼み、実家の方面へ向かう。
ここから実家まで歩けば二週間はかかっていたところだが、偶然にも同じ方向へ向かう馬車があって良かった。
一週間後。
俺は満を持して、実家がある小さな集落、「カルオラ村」へ、二年ぶりに戻ってきたのであった。




