第十話 ぺグリル
洞窟の奥にある広間で鎖に繋がれていたのは、おそらく古の伝説に伝わる、「ぺグリル」という魔物。
古の言葉で「ペグに棲む者」という意味を持つ巨大な狼であり、かつて神を噛み殺したという伝説をもつ程に強力であったと、俺にその伝説を聞かせてくれた吟遊詩人は言っていた。
おそらく、レベルは7000を超えている。
伝説の巨獣を前に、俺とアリサは、それぞれ人生では経験したことが無い程の緊張を抱いていた。
「これは……!」
「ええ……!構えるわよ!」
「うん!」
ゴブリンとの戦いで使ったパワードスーツは、まだエネルギーが残っている。
俺とアリサは再びパワードスーツを装着し、構えをとった。
すると、ぺグリルはこちらをギョロリと見つめる。
扉が勝手に閉じる音で、目を覚ましてしまったらしい。
「グゥゥゥ……ガァァァァァァァ!」
ぺグリルは大きく吠え、鎖を破る。
おそらく封魔の力か何かが組み込まれていた特殊な鎖だったのだろうが、扉のお札を剥がしてしまったせいで、効力が弱まってしまったのだろう。
荒々しく体勢を変え、ぺグリルはこちらへ突っ込んでくる。
「【オーロラストライク】!」
ペグリルの首元を斬り裂かんとする一撃。
しかし、少し切り傷がついた程度で、大したダメージは入っていないようだった。
「【ランガル】!」
俺も「ランガル」を生成し、コックピットへ。
「グゥゥゥ……」
「【レーザーライフル】!」
アリサを巻き込まないよう、最新の注意を払って細いレーザーを放つ。
レーザーライフルから放たれた光線は左前脚に命中。
ペグリルは少し体勢を崩したものの、致命傷には至らないようであった。
「くっ……強いわね……!」
「そうだね……やるしかない、この強化プランを……!」
俺は脳内でイメージを作り、魔術に落とし込む。
「グァァァァァ!」
ぺグリルはこちらへ向き、鋭い牙をランガルの装甲に食い込ませる。
ちょっとやそっとでやられるランガルではないが、しかし少し、外からの衝撃がコックピットにも伝わってきた。
「いくぞ!スピードを削る代わりの……超強化!【フルアーマーランガル】!」
ランガルはさらに分厚く装甲を纏い、腕と肩に大砲を装備する。
「わぁ……!」
キラキラと目を輝かせるアリサ。
やはりこの子は、ロボットのカッコ良さを分かっている。
俺は大砲とレーザーライフルを構え、ペグリルに狙いを定める。
トリガーを引き、右腕と右肩の大砲から魔力弾を、そして右手に装備されたレーザーライフルから、レーザーを発射した。
「ガォォォォォォン!」
放ったエネルギー弾は二発とも胴体へ、そしてレーザーライフルから放たれた光線は左後脚へ直撃した。
左脚を二本とも貫かれたぺグリルは、その場でバランスを倒し、倒れ込む。
俺はレーザーライフルの照準を頭部に合わせ、トリガーに指をかけた。
「ま、待て!降参じゃ!もう攻撃はせんから、その光線を止めとくれ!」
すると、目の前から人の声が聞こえた。
「だ、誰だ、こんな時に!」
「目の前の狼じゃ!妾は人語を喋れるんじゃ!助けておくれ!後生じゃから、な、な!」
どうやら、目の前のペグリルは人語を喋ることができるらしい。
俺はトリガーから指を外し、レーザーライフルの照準を逸らす。
「ベクタ?何で攻撃をやめたの?」
「この狼が喋ったんだよ。多分だけど……。もう攻撃しないってさ」
「その言葉、信じて大丈夫かしら……」
俺はコックピットから顔を出し、ぺグリルを見下ろす。
「クゥ~ン……」
どうやら、本当に懲りたらしい。
全長十メートルは超えているであろう大きさのぺグリルはみるみる小さくなり、やがてその身体は人間そっくりの形をとる。
そして、あの大きな質量はどこへやら、あっという間に少女のような姿になってしまった。




