二十七話 世界の改修
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
二十七話 世界の改修
海底図書館を「増築」した我が家は、もはや一つの国家に匹敵する演算能力を手に入れていた。エルの膨大な知識と僕の現代知識、そして母さんの精密な魔力制御が組み合わさり、リビングのテーブルの上には「世界魔力循環図」がホログラムで投影されている。
「拓海様、解析が完了しました。現在、この大陸の魔力は特定の山脈に滞留し、末端の村々には届いていません。これが飢饉や魔物の凶暴化の原因です」
エルの無機質な報告を聞きながら、僕はペンを走らせる。
「要は『インフラ』が整ってないんだね。よし、世界の魔力パイプラインを掃除しよう。父さん、大樹兄さん、重力石の『中継プラグ』を各地の霊山に打ち込んでくれるかな?」
「任せろ。ちょうど新しい魔剣の切れ味を試したかったんだ」
父さんが頼もしく笑う。
数日後、僕たちは空飛ぶ家を走らせ、大陸中の滞留ポイントを回った。
父さんと兄さんが岩山を切り拓き、そこに僕が作った魔力安定装置を設置していく。すると、淀んでいた空気は一変し、枯れていた川には清らかな水が戻り、痩せていた土壌には緑が芽吹き始めた。
「見て! あんなに荒れていた村に、花が咲いていくわ!」
真央姉さんが窓から外を見て歓声を上げる。
僕たちが移動するたび、世界は急速に「リフォーム」されていった。
しかし、その様子を帝国の最深部から見つめている男がいた。ヴァルガン宰相だ。彼は「パフェ」の美味しさに一度は屈しかけたが、あまりにも巨大すぎる僕たちの力に、最後の恐怖を感じていた。
「……あの一家は、神になろうとしているのか。あるいは、世界そのものを自分たちの『庭』に変えるつもりか」
ヴァルガンは震える手で、帝国の禁忌とされる「次元干渉爆弾」の起動スイッチを見つめていた。それは、この世界の理を壊してでも、自分たちの制御不能な存在を消し去るための最後の手段。
その時、僕たちの家のインターホンが鳴った。
「あら、ヴァルガンさんじゃない。ちょうどよかった、今夜は『リフォーム完了記念』の特製ビーフシチューよ。最高級の魔導牛が手に入ったの」
母さんの通信魔法が、帝国の玉座にまで直接響き渡る。
ヴァルガンの目から、ポロリと涙がこぼれた。
「……スイッチなど、最初からいらんかったのだ。私は、ただあのシチューの香りに包まれて眠りたかっただけなのだ……」
帝国最強の知性は、ついに完全に「隣人」として白旗を上げた。
「タクミ。みんな。幸せ。ボクも。幸せ。世界も。おいしい。これで。完璧」
チャチャが僕の肩に乗り、満足そうに喉を鳴らす。
僕たちは神になりたいわけじゃない。ただ、家族全員で美味しいものを食べ、明日も明後日も、この美しい景色の中で笑い合いたいだけだ。
「さあ、みんな! 帰ってご飯にしよう!」
僕の号令と共に、空飛ぶ家は夕焼けに染まるアステリアの街へと、ゆっくりと舵を切った。
そこには、僕たちが守り、作り変えた、新しく温かい世界が広がっていた。
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