二十六話 新しい家族
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
二十六話 新しい家族
海底に沈む白亜の図書館。そこは海水の侵入を拒む巨大な魔導結界に包まれた、静寂と叡智の聖域だった。
僕たちが一歩足を踏み入れると、数千年の眠りから覚めた自動書記のペンたちが一斉に動き出し、空中に歓迎の文字を綴る。
「すごい……本棚がどこまでも続いてるわ」
真央姉さんが見上げる先には、天まで届きそうな棚に、びっしりと魔導書が並んでいた。
僕は『叡智のオーブ』をフル稼働させ、書庫のデータをスキャンしていく。
すると、中央の広場にある巨大な石碑の前に、一人の「人影」が立っているのに気づいた。
「誰かいるわ……。幽霊?」
母さんが僕の肩を掴む。
だが、その影は透き通るような銀髪を揺らし、ゆっくりとこちらを振り向いた。
「……待っておりました。異世界の魂を持つ者、そして、その家族たちよ」
それは、古代文明が遺した「思念体司書」の少女・エルだった。
エルは淡々と、しかし衝撃的な事実を告げた。
「この世界は、魔力の枯渇によりあと数百年で崩壊する運命にありました。しかし、あなた方が持ち込んだ『重力石の変換技術』と『家庭の幸福による高密度魔力』が、世界の回路を再起動させつつあります」
「えっ、僕たちが野菜作ったりパフェ作ったりしてたのが、世界を救ってたの?」
僕が驚くと、エルは静かに頷いた。
「はい。特に、あの『神獣』の幸福度は、この世界の魔力指数の基準となっています」
「ボク? ボク。お腹。いっぱい。幸せ。だから。世界。大丈夫」
チャチャがエルの足元でくるんと丸くなる。エルはその無機質な瞳を少しだけ和ませた。
「さて、エルさん。ここにある知識、全部持ち帰ってもいいかな?」
僕の提案に、エルは首を振った。
「物理的な持ち出しは禁じられています。ですが……」
「わかった。それなら、この図書館を『家の一部』にしちゃえばいいんだね」
僕はカレンさんに指示を出し、アイテムボックスから予備の流体魔鋼を取り出した。
古代図書館の魔導基盤と、我が家の『潜水モード』の回路を直結。
重力石のエネルギーを流し込み、図書館の空間ごと、僕たちの家に「増築」として統合してしまった。
「な……管理システムが上書きされていく……。私の認識コードが『家族、予備の司書』に書き換えられました……」
無表情だったエルの顔が、驚きで赤らむ。
数時間後。
アステリアの港に浮上したのは、もはや家ではなく、巨大な白亜の塔を背負った「超弩級魔導要塞」だった。
「ただいま、みんな! 新しい家族を連れてきたよ!」
僕が叫ぶと、出迎えたギルドマスターのモーガンが腰を抜かした。
「……拓海くん、図書館を探しに行って、図書館ごと帰ってくるとはどういうことだね?」
その日の夕食は、新しく家族(?)になったエルの歓迎会。
彼女は初めて食べる「エビフライ」のサクサク感に、
「……エラー。感情回路がオーバーフローします。美味しすぎます」
と、無機質な声で何度も呟いていた。
「これで知識も揃った。次は、この世界全体を『美味しくて安全な場所』にリフォームしちゃおうか」
父さんと大樹兄さんは新しい武具の設計図に目を輝かせ、母さんと真央姉さんはエルに現代のファッションを教え込み、チャチャは新しい書庫のふかふかな絨毯で夢を見ていた。
僕たちの「異世界家族」は、ついに世界の運命すらも食卓に並べ、自分たちのペースで書き換え始めたのだ。
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