二十四話 地上は限界
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
二十四話 地上は限界
僕たちの家が高度数千メートルで自給自足の極楽生活を送り始めた頃、地上ではある「限界」が訪れていた。
アステリアの街にある冒険者ギルド。そこには、顔を真っ青にしたギルドマスターのモーガンと、帝国の外交官、さらには天翼族の使者までが集まり、異例の三者協議が行われていた。
「いいか、落ち着いて聞いてくれ。あの『空飛ぶ家』……拓海くん一家のせいで、世界の経済バランスが崩壊しかけているんだ!」
モーガンが机を叩いて叫ぶ。
「まず冒険者ギルドだ。あの一家がスカイホエールを『BBQ』にして配ったせいで、高級食材の相場が暴落した。さらに、彼らが通報した帝国隠密部隊の装備がオーパーツ級すぎて、鑑定士たちが知恵熱で次々と倒れている!」
「我々帝国も被害者だ!」
外交官が割って入る。
「先日届けられた『トマト』のせいで、我が軍の兵士たちが『こんなに旨いものがあるなら、もう戦争なんてしたくない』と武器を置いて畑を耕し始めた。軍の維持が不可能だ!」
「我が天翼族も同様です」
騎士が神妙な顔で頷く。
「シフォンケーキとタコヤキの製法を教えてもらうまで、誰も里に帰らないと言い出しております」
このままでは世界が「美味しいもの」と「高技術」でパニックになると判断した僕は、重力制御で家をゆっくりとアステリアの広場まで降下させた。
バルコニーからタラップを降ろすと、そこには跪いて待つギルドマスターたちの姿があった。
「拓海くん……いや、拓海様。お願いだ、少し自重してくれ」
「自重って言われても……。僕たちはただ、家族で快適に暮らしたいだけなんですけど」
僕は困り顔で、チャチャを抱き上げた。
「ニャ。みんな。顔。怖い。美味しい。お野菜。食べる? 怒る。損だよ」
チャチャがふわりと念話を飛ばすと、ピリついていた会議場の空気が一瞬で「お昼寝モード」に包まれる。
話し合いの結果、以下のルールが決まった。
1.「拓海一家」を国家と同等の独立勢力として認める。(もう帝国も手を出さない)
2.オーバーテクノロジーの段階的公開。(僕が作った便利グッズをギルド経由で少しずつ流通させる)
3.『天空農園』の産物をギルドの専売品にする。(ただし、売り上げの8割は我が家の食費と改造費になる)
「これでいいですか? モーガンさん」
「……ああ、助かるよ。これでお前さんを『敵』と見なさなきゃいけない悪夢から解放される」
話し合いが終わると、母さんとカレンさんがアイテムボックスから「冷製トマトパスタ」と「天空苺のムース」を山のように取り出した。
「さあ、難しい話はおしまい! ギルドの皆さんも食べていって!」
母さんの明るい声に、ギルドマスターも帝国の外交官も、最後には皿を舐めるほどの勢いで完食した。
「拓海、これでしばらくは静かに暮らせるかな?」
父さんが少し肩の荷が下りたように笑う。
「そうだね。でも、ギルドとのパイプができたから、今度はもっと珍しい素材の依頼が出せるようになるよ」
「拓海、それってまた『新しいおもちゃ』を作るってことだよね?」
大樹兄さんがワクワクした顔で僕を見る。
僕たちの家は、ただの「要塞」から、世界を裏から動かす「平和の源泉」へと変わっていた。
でも、僕のやるべきことは変わらない。
明日も、明後日も、家族が「美味しいね」と言い合える魔法と科学を詰め込んでいく。
「タクミ。次は。海の。底に。行きたい。お魚。追いかけたい」
チャチャの新しいリクエストを聞きながら、僕は「潜水艦モード」の設計図を脳内のオーブで描き始めるのだった。
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