二十三話 畑を作ろう
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
二十三話 畑を作ろう
天翼族との交流と「苺パフェ外交」を経て、僕たちの空飛ぶ家は、もはや単なる拠点ではなく「移動する理想郷」としての風格を漂わせ始めていた。
けれど、母さんがふと、雲の上を流れる風を見つめながら呟いた。
「ねえ拓海。これだけ美味しい苺やお肉があるのは幸せだけど……やっぱり、自分で土を触って育てた、採れたての野菜が食べたいわ。前世の庭で作った、あの不格好だけど甘いトマトみたいに」
その一言で、次なるプロジェクトが決定した。
「空中浮遊農園・スカイガーデン」の建設だ。
僕は家の裏手に、流体魔鋼のフレームを拡張し、透明な魔導ガラスで覆われた巨大なサンルームを増設した。
土壌 大樹兄さんが地上から運んできた肥沃な土に、僕が開発した「高濃度魔力肥料」を配合。
水分 真央姉さんが雲から直接抽出する、不純物ゼロの「純粋精霊水」。
日光 重力石のプリズム効果で、二十四時間、植物の成長に最適な波長の光を照射。
「カレンさん、植物の成長を阻害する害虫の魔力波長を特定して。防虫シールドの調整をお願い」
「承知いたしました、拓海様。帝国暗殺術の『気配察知』を、アブラムシ一匹逃さない監視網へと転換しますわ!」
カレンはすっかり「敏腕農園マネージャー」の顔になっていた。
「よし、やるわよ!」
母さんの指揮のもと、家族全員で苗を植えていく。
トマト、キュウリ、ナス、そしてこの世界特有の「魔導ジャガイモ」。
リ口ちゃんも泥だらけになりながら、楽しそうに苗を運んでいる。
「ママ、見て! 土がポカポカしてて、命が動いてるみたい!」
「そうね、リ口。これが『育てる』ってことなのよ」
チャチャはというと、温かい温室の特等席で、猫草ならぬ「特製神獣草」の種を蒔いた。
「ボク。ここ。好き。太陽。近い。お昼寝。しながら。育てる。念力で。大きく。なあれ」
チャチャが欠伸をしながら魔力を放つと、植えたばかりの苗が目に見える速さでニョキニョキと育ち始めた。
わずか数日で、農園は緑豊かな森のようになった。
真っ赤に実ったトマトを、母さんがその場で収穫し、包丁でスライスする。
「さあ、食べてみて!」
一口噛んだ瞬間、口の中に溢れ出したのは、驚くほど濃厚な甘みと、全身の細胞が活性化するような純粋な魔力。
「う、美味い……! 前世の野菜とは、エネルギーの密度が違いすぎる!」
大樹兄さんがガツガツとキュウリを頬張る。
「これなら、天翼族のみんなにも、もっとバランスの良い食生活を提案できるわね」
真央姉さんは、早くも「天空野菜のサラダバー」の構想を練り始めていた。
自前の農園を持ったことで、僕たちの「家」は完全に独立した生態系を手に入れた。
もう誰にも、何にも依存する必要はない。
空に浮かび、好きなものを育て、家族で笑いながら食べる。
その頃、地上では。
「報告します! ターゲットの家から、見たこともない高密度の植物反応を検知!……さらに、家から『採れたて野菜セット』が、天翼族の騎士経由で我が司令部にも届けられました!」
ゼノス将軍は、届けられたトマトのあまりの神々しさに、食べるのを躊躇していた。
「……毒見は必要ない。これは、平和の味だ」
将軍が一口食べた瞬間、帝国の侵略作戦は、正式に「農業技術提携」へとその名前を変えることになった。
「タクミ。次は。メロン。作りたい。ボク。丸ごと。食べたい」
チャチャの夢は、空の果てまで広がっていく。
僕たちの「家庭菜園」は、いつの間にか世界の食糧事情すら変えようとしていた。
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