二十一話 大きな魚
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
二十一話 大きな魚
空を覆い尽くす巨体。成層圏から降りてきた『スカイホエール』は、もはや生物というよりは空に浮かぶ巨大な大陸だった。その口が開かれるたび、周囲の雲が掃除機のように吸い込まれていく。
「拓海、あれ、本気で私たちを食べようとしてるわよ!」
母さんが叫ぶが、僕は『叡智のオーブ』でスカイホエールの成分解析を終えていた。
「母さん、逆だよ。……あいつ、めちゃくちゃ美味しそうな『脂』が乗ってる」
「えっ?」
僕はニヤリと笑い、アイテムボックスから巨大な「魔導調理器具」を召喚した。
「父さん、兄さん! あのクジラの外皮、氷の鱗で覆われてるけど、中身は最高級のトロと同じ構造だ。チャチャ、出番だよ!」
「わかった。タクミ。ボク。あいつ。凍らせて。締める」
チャチャが家の屋根に立ち、鈴を激しく鳴らした。
「極点凍結・空間締め!」
スカイホエールの周囲の時間が一瞬で静止し、巨大な巨体がピタリと空中で止まる。鮮度を保ったまま、文字通り「活き締め」にされたのだ。
「大樹、行くぞ! 拓海のガントレットで、あの鱗を剥がせ!」
「おうっ! 刺身でもステーキでも、好きなように切ってやるぜ!」
父さんと大樹兄さんが空へ飛び出した。父さんの魔剣が巨大な「出刃包丁」のように閃き、兄さんの衝撃波が「ウロコ取り」となって、空からキラキラと巨大な氷の鱗が舞い落ちる。
「カレンさん、重力石の熱源を最大に! 家の周囲に展開した流体魔鋼を『巨大な鉄板』に変形させるんだ!」
「了解しましたわ、拓海様! 表面温度、一気に三百度まで上げます!」
我が家の外壁が熱を帯び、空飛ぶ家自体が巨大なグリルへと変貌する。
真央姉さんが風の魔法で、切り分けられたスカイホエールの巨大な切り身を家の周囲に浮遊させ、絶妙なタイミングで熱せられた外壁へと叩きつける。
ジュゥゥゥゥゥッ!!
空の上に、かつて人類が経験したことのないほどの、芳醇で香ばしい香りが立ち込めた。
「天翼族のみんな、ぼーっとしてないで! 塩とレモンを持ってきて!」
母さんの号令で、パニックになっていた騎士たちが慌てて調味料を運び出す。
地上でモニターを見ていたヴァルガン宰相は、手から魔導書を落とした。
「な……何が起きている……。我が帝国の最終兵器、伝説の空神が……焼かれているだと……?」
「報告します! ターゲットの家族、スカイホエールを……『ミディアムレア』で焼き上げました! 現在、天翼族と合同で『クジラ祭り』を開催中です!」
空の上では、島全体が狂喜乱舞の渦に包まれていた。
スカイホエールの肉は、口の中でとろけるような甘みがあり、天翼族たちは「これぞ真の天の恵み!」と泣きながら頬張っている。
「おいしい。これ。おいしい。タクミ。ボク。尻尾の。ところが。いい」
チャチャは自分より何千倍も大きいクジラの尾身を、魔法で小さくカットして幸せそうに食べている。
「これ、帝国にも少し送ってあげましょうか? 『ご馳走様でした』ってメッセージを添えて」
真央姉さんの悪戯っぽい提案に、家族全員が賛成した。
僕たちは、アイテムボックスに大量の「焼きクジラ」を詰め込み、スカイホエールの残りの巨体を天翼族の里の「冬の食料」としてプレゼントした。
帝国の放った最大の脅威は、僕たちの家族の手によって、たった一晩の「豪華なディナー」へと姿を変えた。
僕たちの異世界再誕録は、ついに帝国すらも食卓に並べる勢いで、さらなる高みへと昇り詰めようとしていた。
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