二十話 天翼族の里
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
二十話 天翼族の里
天翼族の騎士たちが「おかわり」を求めて列を作り始めた頃、我が家のリビングには、さらに奇妙な光景が広がっていた。
「拓海様、天翼族の生理機能を解析しましたわ。彼らの翼、実は魔力の放出器官でもありますのね。これ、うちの浮遊機関の排熱と同期させれば、もっと高度を上げられますわよ」
カレンがノートを手に、専門的なアドバイスをくれる。もはや彼女の脳内からは「帝国の任務」という言葉が消え去り、「いかにこの家を快適にアップデートするか」という技術者魂が燃え上がっていた。
「猫神様、そして空飛ぶ家の主よ。我が里の長が、ぜひ皆様を歓迎したいと申しております」
シフォンケーキを五個完食した騎士のリーダーが、恭しく頭を下げた。
どうやら、僕たちの「家」ごと、彼らの本拠地である超高度浮遊島『エリュシオン』へ招待されることになったらしい。
「いいじゃない、拓海。せっかく浮いたんだもの、どこまでも行きましょうよ」
母さんは、空の上で育つという「天空イチゴ」の話を聞いて、すっかりやる気満々だ。
「大樹、真央。空の旅を楽しもうか」
父さんが舵(といっても、僕が作った重力石制御のジョイスティックだ)を握る。
雲海を突き抜け、僕たちの家は伝説の浮遊島に到着した。
そこは、建物すべてが白銀と黄金で造られた、神秘的な都市だった。数千人の天翼族が集まり、空飛ぶ家を珍しそうに見上げている。
里の長老が現れ、チャチャを見るなりその場に膝をついた。
「おお……古の予言にあった『空を統べる白き福音』。まさか、このような四角い箱に乗って現れるとは……」
「これ。ボクの。お家。タクミが。作った。すごい。でしょ」
チャチャが自慢げに尻尾を立てる。
天翼族は僕たちを歓迎し、最高の「空の幸」でもてなしてくれた。けれど、彼らの料理はどれも素材をそのまま食べるスタイルで、少し味気ない。
そこで、母さんと真央姉さんが立ち上がった。
「カレンさん、リ口ちゃん、手伝って! 天翼族のみんなに、本当の『お祭り』を教えてあげましょう!」
アイテムボックスから取り出されたのは、大量の割り箸、タコ(のような魔物の足)、そして大量の小麦粉。
高度数千メートルの浮遊島に、香ばしいソースの香りが漂い始める。
「これは……『タコヤキ』というのか!? 脳が……脳が揺れるほどの美味だ!」
「この、シュワシュワする黒い飲み物は何だ!? 翼の羽毛が逆立つほどの爽快感だ!」
天翼族たちは、初めて体験する「屋台飯」に熱狂した。長老に至っては、かき氷を食べて「頭がキーンとする、これぞ神の洗礼か……!」と涙を流している。
一方その頃、地上では。
「報告します! ターゲットの家、高度五千メートルを突破! 現在、天翼族の本拠地にて……宴会をしております!」
「宴会だとおぉぉ!?」
ゼノス将軍の怒号が響く。帝国が何百年もかけて交渉すらできなかった天翼族を、あの家族はたった数時間の「食事」で懐柔してしまった。
だが、ヴァルガン宰相の目は笑っていなかった。
「……よかろう。天翼族を味方につけたつもりか。だが、空には空の、太古から眠る『掃除屋』がいることを忘れてもらっては困る」
ヴァルガンが禁忌の魔導書を開くと、浮遊島エリュシオンのさらに上空、成層圏付近の空間が歪み始めた。
帝国が召喚したのは、古の空の怪、『ベヒモス・スカイホエール』。雲を食らい、島をも飲み込む超巨大生物だ。
「……拓海、何か来るわ」
真央姉さんが空の「風」の変化を感じ取った。
チャチャも、食べていた天空イチゴを置き、空を見上げる。
「大きな。お魚。ボク。あんなの。食べられない」
青い空の向こうから、街一つを飲み込むほどの巨大な影が降りてくる。
僕たちの「空飛ぶ家」と、天翼族の平和を脅かす最大の試練。
「父さん、兄さん。お祭りは中断だ。……カレンさん、迎撃システムを最大出力に。重力石のエネルギーを、全門に回して!」
異世界家族の戦いは、ついに「怪獣大決戦」の様相を呈し始めていた。
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