十五話 帝国の戦闘
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
十五話 帝国の戦闘
アイテムボックスの運用テストを兼ねた穏やかな昼下がり、我が家の「防衛システム」が静かに、しかし冷徹な警告を発した。
リビングの空間に、叡智のオーブが描くホログラムが浮かび上がる。そこには、アステリアの街から数キロ離れた街道を、地響きとともに進軍する鉄の群れが映し出されていた。
「来たね。先日の先遣隊とは規模が違う……帝国ガイストの正規軍、魔導重装騎士団だ」
僕の言葉に、ティータイムを楽しんでいた家族の空気が一瞬で引き締まる。
父さんは静かにティーカップを置き、大樹兄さんは拳の関節を鳴らした。母さんと真央姉さんも、アイテムボックスのカードを手に取り、戦闘準備に入る。
「数は約五百。魔導戦車が三両。空には竜騎士が五騎。……本気でこの家を、というか僕たちの技術を奪いに来たみたいだ」
「まずは空の掃除からね」
真央姉さんが窓辺に立ち、指先を空に向ける。
アイテムボックスから取り出したのは、僕が自作した『風属性増幅触媒・ミストルティン』。
「風よ、目に見えぬ刃となって、空の檻を作りなさい」
真央姉さんの魔力が、家の周囲の空気を超高速回転させる。接近しようとした竜騎士たちは、突如発生した「局所的乱気流」に飲み込まれ、高度を維持できずに次々と森へと墜落していった。
「さて、地上の方は俺に任せろ。拓海、アレを出すぞ!」
大樹兄さんが庭へ飛び出す。
僕はアイテムボックスの共有ストレージから、重力石の余剰エネルギーで充填された『自律型魔導ゴーレム・零式』を五体、フロントヤードに転送した。
「重力負荷、展開!」
大樹兄さんの号令とともに、ゴーレムたちが地面を叩く。帝国軍の足元の重力が一瞬で十倍に跳ね上がり、重装騎士たちは自分の鎧の重さに耐えきれず、その場に膝をついた。
しかし、帝国軍も黙ってはいない。
中央の魔導戦車が放った「極大魔力砲」が、我が家の防壁を直撃した。
ドォォォン!
激しい衝撃が走るが、流体魔鋼の結界はびくともしない。
「タクミ。ボク。ちょっと。怒った。お昼寝。邪魔された」
チャチャが僕の肩に乗り、瞳を金色に輝かせる。
「チャチャ、お願い。空間を『凍らせて』」
「了解。ぜんぶ。止まれ」
チャチャが小さく鳴くと、家を中心に半径数百メートルの空間が「静止」した。
飛んできた砲弾も、進軍する兵士も、風に舞う木の葉さえも。
そこに、父さんが静かに歩み出る。
「家族の平穏を乱す者には、相応の報いを受けてもらおう」
父さんの魔剣が、静止した空間の中を光の筋となって駆け抜ける。殺さず、しかし確実にすべての魔導戦車の動力源と、騎士たちの武器だけを破壊して回った。
チャチャが空間凍結を解除した瞬間、帝国軍を襲ったのは「完全な無力化」という現実だった。
武器は砕け、戦車は沈黙し、空からの援護もない。
「バ、バケモノか……! 一家だけで一軍を退けるなど……!」
指揮官の悲鳴が遠ざかっていく。彼らは命からがら、アステリアの地から逃げ出した。
「ふう、お疲れ様、みんな」
僕はオーブを閉じ、庭に降りた。
「拓海、アイテムボックスのおかげで予備の魔力ポーションもすぐ取り出せたわ。本当に助かったわよ」
母さんが僕の頭を優しく撫でる。
「でも、これで帝国も次は『交渉』か『総力戦』か選ばざるを得なくなるね」
父さんの言葉に、僕は空を見上げた。
「どっちでもいいよ。僕たちが守りたいのは、この家と、この笑顔だけだから」
チャチャは僕の足元で、もう一度欠伸をした。
「お腹。空いた。帝国。弱い。晩御飯。ハンバーグ。がいい」
史上最強の家族による「おうち防衛戦」は、夕食の献立を決める平和な相談へと、いつの間にかすり替わっていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
誤字脱字のご連絡ありがとうございます。
感想もいつも励みになっております。
少しでも楽しんでいただけたなら、
評価やブックマークで応援していただけると励みになります。




