8-⑲ 乱戦、覚醒
景色が歪む。
まず現れたのは大量のゾンビだった。
次いで基本セットのモンスターたちが現れる。
悲鳴が飛び交い、港は一瞬で大混乱に陥った。
民間人の避難誘導に就いていたため、自衛官たちに銃器の所持はない。
収納には異世界装備があるが突然渡されても事故が起きるだけだろう。
警官たちは短銃を持っているがアレをゾンビと理解できなければ威嚇射撃すらできないはずだ。
ナビィが叫ぶ。
「湘くん! 時間を止めて! 落ち着いて考えて! あなたなら! 大丈夫だよ!」
「くっ、時間停止!」
世界の時間が止まる。
人とゾンビが入り乱れている。
すでに噛まれている人もいる。
どうすればいい。
時間停止してる中で動けるのは私だけだ。
リルもナビィですら停止の対象になっている。
このまま時間を止めていてもなんの解決にもならない。
ふーっ。
息を整えろ。冷静になれ。
思い出せ――。本番に強いのがシシだろ。
ナビィが言ってくれただろうが。
大丈夫だ。
私なら――出来る。
マップを出す。赤い点が広がる。
時空の狭間で雷撃は使ったことがある。
繊細に。
遥か遠くの山の源流。そこに滲み出す水――。
細い細い糸を通すように魔力を抑え込んでいく。
まずは赤い点だけを次々とマッピングする。
そして深い深呼吸をひとつだけ。
うん。大丈夫だ。
――イケる。
「停止解除。………雷撃」
瞬間、空から雷が降り注ぐ。
同時にすべてのモンスターを塵に変えた。
「! あるじすごい!」
「やったー♪ 湘くん出来たじゃん♪」
「……できた」
よし!
「次はケガ人へのホーリーとヒールだよ♪」
マップにうつる黄色い点をマッピング。
「ホーリー」
黄色い点が青に変わっていく。
「ヒール」
残っていた点も青に変わった。
「……出来た」
「あるじ!!!」
「湘くん、もう大丈夫だね♪」
「出来たーーーー!」
念願の魔法だぜ!
「ほら、まだ終わってないよ! どんどん行こう♪」
認識阻害のスルーをかけ、空を舞い、赤い点を次々と雷撃で穿つ。
リルも遠吠えを響かせ、残っていた魔狼を従えてモンスターを薙ぎ倒していく。
そして黄色い光点を青に戻していく。
僅か数分でモンスターを殲滅した。
3人でハイタッチ。
そこへファミリーたちが続々と駆けつけてきた。
「やったなシシ!/ショウすごい!」
「シシさん、良かったね!」
「ついに攻撃魔法!!」
「よくやったなシシ」
「さすが特別長官」
「もう無理です♥」
「抱きますね♥」
「勇者だ」
「神だ」
モンスター、バレちゃったな。
でもたくさんの人を守れたんだ。
仕方ないよな。
「田城さん、すみません、モンスターがバレました。私とリルは認識阻害で動いたので民間人にはバレてないと思いますけど、取材クルーもいたみたいなんでカメラバレしたかもしれません。あと自衛官と警官にはリルの人化を見せてます」
「気にするな。長柄総理と家入大臣もいずれは国民に発表するしかないと考えていたよ。対応は任せよう。むしろ現場はこれで今後は遠慮なくやれるさ」
そこに腰を抜かせた中川さんがヨタヨタとやってきた。
「こ、こ、これは一体どういうことだ。こんなドッキリやりすぎだろうが」
「……気持ちは分かります。でもあなたに現場の指揮は無理なようですね。臨機応変さが足りない。なにより、緊急時に組織としての指示に従わなかったのは致命的ですよ。心して沙汰を待ちなさい」
呆然とする元指揮官を置き去りに、田城副長官は港の混乱を収めるために自衛官と警察官を集めて指示を伝えていく。
ほどなく現着した勉強コンビに現場の指揮は任せ、田城さんは今後の対応を決めるべく官邸へ転移したのだった。
―――――――
その2時間後。
私は永田町にいた。
高知港事件における内閣危機管理省の緊急対応について、現場に居合わせた特別広報官として長柄総理の緊急会見に同席することになったのだ。
高知港のモンスター騒動は事件発生時から取材に入っていた多数のメディアに録画されており、ほぼオンタイムで報道がされていた。
もちろん、ゾンビやその他のモンスター、そしてリルと魔狼たちも映像に映されていた。
この事件は日本中を混乱に陥れ、さらに世界的な注目を集めていた。
この会見で発表することはふたつだ。
①未確認危険生物について現在分かっていること。
・突然どこからか現れること。
(異世界の存在には触れず、神の存在も伏せる)
・モンスター同士の戦いであったこと。
狼は人間に敵対せず他のモンスターを倒した。
味方であることを暗に示唆する。
②緊急事態宣言を全国規模に広げ、自衛隊の緊急出動を行うこと。
以上である。
首相官邸の会見場には入りきれないほどの多数メディアが集まっていた。
「どうやらシシはセーフだな」
「雷が派手すぎてむしろ良かった」
「雷撃も出どころはわからんだろう」
「異世界や神を認めるわけにはいかないしな」
「宗教戦争が起きてしまうよ」
以前よりモンスター事件を知らされていた大臣や官僚たちが集まって改めて最後の打合せだ。
「目的は秘匿することではない。異世界からの攻撃から国民を守ることに繋がる情報管理に徹してくれ。パニックは避けられないだろうが、余計なトラブルは避けたい。異世界戦争に集中できるように。その一点で世論をまとめよう」
そして時間となり、会見はスタートした。
未知の危険生物が存在することはまず肯定した。
未確認ながらもその存在はかねてより確実視されており、何者かによるテロ兵器であることも視野に緊急対策省を作り、対応をしてきたと説明。
先の高知港事件は未確認生物同士の予期せぬ争いに巻き込まれたものと説明した。
未確認生物の遺体は政府の研究所で解析中であること、そして現時点で確認できている種類とそれらの行動パターンを開示。
その個体のほとんどが人類に対する大いなる脅威となること、但し狼タイプのモンスターは人類に敵対しなかった事実から味方になる可能性を示唆して、会見は終了した。
日本は、いや人類は新たなステージに進まざるを得なかった。
転移モンスターが存在するのが当たり前の世界に。




