8-⑯ 四国開戦
時間直前に女神の帳を下ろしてもらう。
そして深夜0時を迎え、剣山山頂の景色が歪む。
――大量のモンスターがエリア内に出現した。
空には――あれはワイバーンだな。
予想通りだ。
開戦を告げるようにリルの遠吠えが響き渡る。
瞬時に魔狼が動きを止めた。
続けてリーダーの遠吠えに導かれるようにエリア内の魔狼がふたりの元へ集結していく。
そして基本セットモンスターは唸り声をあげて基地へと殺到していった。
「キヨ、いけ!」
「ラジャ!」
ターンと乾いた僅かな狙撃音が鳴る。
"ほぼ同時に"遥か向こうのオーガが吹き飛んだ。
「3キロやな。いきなり狙撃の世界記録や」
「まじか。やるなキヨ!」
「ありがとうございます!勇者シシ!」
その後も小気味いい音が鳴り、キヨは射程をどんどん伸ばしていく。
「次! ヤマ、カイ! 迎撃システム起動だ。魔狼ちゃんたちは南に集まってるんだな?……了解、では北のモンスターを頼む。みんな気をつけろよ」
まずはバルカンが起動。
フィーンと静かな回転音が鳴り、その直後、サイレンサーに抑えられた僅かな銃撃音が鳴る。
ほんの10秒足らずで見えていた大量のモンスターが消し飛んだ。
「やぼいなこれ。シーウスの出番なんて一生無さそうだな」
「シシはーん、空に動きがありまっせー」
花田くんの喚起に空を見るとワイバーンたちが集結しつつあった。
「ナビィ、どうだ? 神眼じゃ全然ダメなんだけど」
「ダメだね。殺戮しか頭にないよ」
「仕方ないな。駆逐だ。ウメ、ホシ、行ってみるか?」
「もちろん♥」
「出撃許可くださいな♥」
「よし、行ってこい!」
同時にふたつの機体が基地から飛び出す。
シルバー主体にそれぞれ赤と青のラインが施された異世界ヘリだ。
ローターも無いのでもはやヘリとも呼んでいいのかもわからないけど。
ゆっくりしたヘリの浮上などではない。
物理を無視したような高速離陸だ。
そして一気に急加速してワイバーンの集まるエリアへ到達する。
そこからは圧巻の航空ショーだった。
ここでも物理を無視した急加速、急減速、急回転を繰り返し、またたく間にワイバーンが撃墜され空から堕ちてくる。
「すごいな! 完璧だ」
「あとで褒めてね♥」
「ご褒美もらうね♥」
「それは無い。迎撃システムの対空能力が見たい。ふたりは一旦帰投してくれ」
「「はい♥」」
「ヤマ、カイ。残りのワイバーンを頼む。オレも降りるからウメとホシの離脱確認後、好きにやぅてくれ」
「「アイサー!」」
そして自動迎撃システムが作動。
バルカンの一射により、一瞬で残りのワイバーンは吹き飛ばされた。
「田城さん、見た? これ、オレたちが出なくても籠城したまま圧倒できちゃうよね」
「次からはそれだな」
「ええ、特別個体が出るまでは自衛隊の演習にしたほうが良さそうですよねえ」
田城副長官と話しているうちに大勢は決していた。
残っていた地上モンスターはファミリーが秒殺していたのだった。
―――――――
戦後の面倒だったモンスター回収は、花田くんが作業車に自動操縦をつけてくれたので楽に済ませている。
市街地ではそうはいかないが、僻地の後処理はこれで大丈夫だろう。
花田くんとしてはいずれ花川式迷彩をつけたドローンで自動回収させたいとのことだ。
「みんなお疲れさま」
田城副長官の挨拶でみんなで祝杯をあげた。
一体の撃ち漏らしも無く、モンスター戦は山頂で完結した。
この成果には長柄総理大臣と家入防衛大臣も安堵していた。
次のアラートもなかったので今日はこのままここで打ち上げとなった。
アオイのパーティー料理にみんな大喜びで飛びついている。
いろんな作り置きを時間停止つきのマジックボックスに大量にストックしてくれているのだ。
「キヨは結局どこまで記録を出せたんだ?」
「5キロです!」
「ヤバいなそれ」
「弾速がハンパないんですよ。風の影響がほとんどないので誰でも当てられると思いますよ」
「えー、そんなことないだろ」
「それはないわ。データ見たら全弾ヘッドショットやったで」
「ダメージはどうだ?」
「基本セットなら。でも距離が出たら威力が当然落ちるんですわ。硬いモンスターが出てきたら単発はキツいでしょうな。ちょっと考えときますわ」
「頼んだよ。キヨの遠距離攻撃を活かしたいのは大型の特別個体にこそだからな」
「「シシ様ーーー♥♥」」
両腕にウメとホシがしがみついてくる。
いや、ボコられるぞと女神を見たが、アオイと一緒にニコニコ笑ってこっちを見ていた。
どんな基準だよ。
いつもならファンに囲まれようもんなら激怒するのに。
「離れろ。で、専用機体はどうだったんだ?」
「以心伝心♥」
「自由自在♥」
「あんな機動、中はめちゃくちゃだろ」
「それが全然なんですよ♥」
「なんたらかんたらで平気なんです♥」
花田くんを見ると呆れながら説明してくれた。
「異世界スタビライザーですわ。シシさんの魔改造タンドラと一緒でどんな姿勢でも中は大丈夫っちゅうやつです」
「あー、あれな」
「Gも1/100に軽減されるそうですわ」
「ほぼゼロだな。そりゃ大丈夫だ」
「ゆうてあの機動を引き出せるんはこのふたりくらいのもんでしょうな」
なかなか優秀だな。
でも後続は必要だからいずれは考えないとな。
ふたりをぶら下げたままヤマとカイに声をかける。
「システムはどうだ。手に負えそうか?」
「ええ、なんの問題もないです。直感的に動かせますし、オートロックで本当に誤射の恐れもないことがわかりました」
「むしろバルカン以外の武器の出番が無さそうだなってことくらいですよ」
「バルカンだけで中〜近距離は問題ないですね」
「大型が出た時くらいってことかな」
「ハープーンなんかもありますけど、威力が大きすぎて使えないでしょうね」
「手持ちで撃てる無反動の小型ミサイルだけでもとんでもない威力ですから」
そこへまたも花田くんがコメントする。
「いま花川さんと威力を圧縮するミサイルを開発中ですねん。辺り一辺吹き飛ばすんやなく、その威力を可能な限り圧縮しますんや」
「聞くだけでヤバそうだな」
「異世界で一番硬いアダマンタイトでテストしてるとかゆうてました。砂みたいにサラサラに砕けるそうでっせ」
「いや怖いし」
各々楽しく飲みながら今後についても話をした。
異世界戦争の先駆者・ツバメ世界の技術提供のおかげでどうやらこっちはまだしばらくは安全に備えることができそうだ。




