8-5 総理大臣
翌朝、私は田城社長、卓司、木花と咲那とともに手配されたハイヤーで永田町へ向かった。
家入さんの出迎えで官邸の総理執務室へ入室する。
立ち上がり握手を求めてくるのはテレビで見る総理大臣その人だった。
「初めまして。首相の長柄です」
「初めまして総理。獅子川です。いやなんだか緊張してます」
「それはこっちの方だよ。あのシシくんが勇者だったとはね」
「いや勇者だなんて」
「国を……いや世界を守ってくれているんだ。勇者以外の何者でもないよ。本当にありがとう」
「そんなふうに言ってもらえるなんて思ってもみませんでした。光栄です」
神眼でも間違いはなかった。
固い握手を交わしながらこの人は信頼できると確信した。
「田城社長、野村くん、お久しぶりです。オリンピックのセレモニー以来ですかな」
「お久しぶりです。長柄総理」
「その通りですね。お久しぶりです」
「アオイさんの国歌斉唱は素晴らしかった。聞けば田城社長だけでなくアオイさんと野村くんも勇者パーティーのメンバーだとか。驚きましたよ」
「シシと絆の深い人間は能力に目覚めるそうです。きっと総理と家入さんもそうなるはずですよ」
「それは楽しみだ。それからあなたがシシくんの彼女で女神様ですね。どうぞ宜しくお願いいたします」
「妻ですよ/正妻だ」
「やめなさい」
挨拶を済ませてソファへ座る。
会談のスタートだ。
「話は家入から聞きました。結論から申し上げて皆様にはこれまで通りの活動をお願いしたい。この件は私と家入のチームのみの知るところとして最大限の援助をさせていただきます」
「ありがとうごさいます。それを聞いて安心しました」
「公には長柄総理の直轄セクションとして【内閣危機管理対策室】を新しく立ち上げます。指揮系統としては防衛省の上になります。長官は家入で、本来の異世界対策ユニットとしての機能を知るのは限られた人間のみとなります」
「具体的には危機管理室内の長官、副長官、自衛隊特殊部隊の指揮官クラスです。とはいってもすでに部隊はモンスターの駆除を経験しているので実質は把握しているようなものですがね。特殊部隊は5チームで各20人の計100名です」
「「わかりました」」
「今日の臨時閣議にみなさんにもご出席いただきたい。そこで対策室の発足と皆さんのメンバー入りを宣言します」
「え!? いや私と木花と咲那……女神は現役高校生ですよ?」
「特別広報担当としますので問題ありませんよ。危機管理には国民へのアナウンスも大事なファクターですから。田城社長には副長官をお願いしたい」
「承知しました」
話はとんとん進んでいく。
「表向きは震災や大きな事件・事故に対して速やかに対応する危機管理対策室です。有事での自衛隊の稼働がスムーズにできるように、つまりは野生鳥獣の駆除にも即時対応ができるよう、防衛庁のほかに関係各省……環境省や農林水産省、警察庁の一部機能も管轄できるようにします」
かなり大胆な策だな。
いや、大胆すぎるんじゃないか。
「大丈夫ですか? 反対意見が出ませんか」
「押し切るよ。根回しも進めている」
「防衛大臣の山喜久さんをかなり怒らせてます」
「家入くんから聞いたよ。アレは大丈夫だ。ワイルドカードは用意している」
ワイルドカードってなによ。
なんだかすごいことになってきたな。
―――――――
「では臨時閣議を始めます」
場所は閣議室。
すごいな。国務大臣が全員揃っている。
明らかに私たちは場違いだ。
おいおい、山喜久がさっきから私たちをすごい形相で睨んでいるけど。
「私の……内閣総理大臣直轄の内閣危機管理対策室を新たに設立する。有事においては防衛省、環境省、農林水産省、警察庁を管轄するものとして……」
それを聞いた山喜久は顔を歪めて立ち上がる。
「どういうことですか総理! 私は何も聞いていないですよ!?」
「……まだ説明の途中だよ。発言も許していないが……まあ応えようか。もちろんだよ。全員がいま初耳だ」
とはいいつつ、実際は各省への根回しは完了しているそうだ。
「とりあえず聞きなさい。いずれくる大震災だけでなく、数々の緊急事案がある。クマ被害などはその最たるものだ。国を揺るがす危機は数多に及ぶ。有事においては従来の体制では緊急時に国民を守れないと判断した」
山喜久を除く全員が拍手をする。
「!? どういうことだ!!」
周りを見渡し山喜久が狼狽する。
「危機管理対策室の長官には家入さん、副長官には民間から田城さんを任命する。そして特別広報担当官として野村卓司さん、アオイさん、シシさん、木花咲那さんを起用します。この方々には総理特別広報官も努めていただきます」
「では採決を。賛成に挙手をお願いします」
山喜久を除く全員が挙手をする。
「では反対を」
山喜久が勇んで手を挙げる。
「ハハハ、総理、勇み足でしたな! 閣議決定は全員一致でしか可決されませんぞ! 」
「ふむ。仕方ないな」
「ハハハ! こんな暴挙は許されるはずがない!!」
総理は立ち上がり山喜久を指さして告げた。
「山喜久防衛大臣、君を罷免します」




