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8-1 上申



異世界からの四国への攻撃が始まる。


今後、大規模な歪みに移行するなら国としての備えも必要になる。

気は進まないが私は政治家に相談をすることに決めた。


「シシ、防衛大臣のアポが取れたぞ」


「すごいな。取れるもんなんですね」


「アオイのライブに招待したらアフターの食事付きで伺いたいとさ」


「なんだそりゃ。本当にアオイのファンなんですね」


「まあこっちで仕切れるなら好都合さ」


アオイは来週から5大ドームのツアーをスタートさせる。

大阪、博多、札幌、名古屋、東京がファイナルだ。


大臣がやってくるのは初日の大阪。

特に予定はないがアオイのライブをみるために遠征なさるそうだ。

こっちには都合がいいが程度にもよるぞ。

ハラスメントは遠慮願いたいところだ。



――――――――


そしてアオイのツアー初日となる。

私はファミリーと京都リゾートに前乗りしてその日を迎えた。


関係者受付から早めに会場に入る。

会場には豪華なステージが広がっていた。


「おおー/わあ」

「あるじ、すごいね」

「ママすごいねー」

「ラビはアオイをママって呼ぶようになったのか」

「あるちはおとんだよ」

「なんだそれ」

「このははかあちゃん、さきなはおかん」

「その呼び方は誰に教わったんだ??」

「私だよ/私だ」

「おいおいなんの影響だよ」


ステージを見学したあと、控室へ。


「みんなきたー!ありがとうー」


ファミリーと抱き合いながら嬉しそうなアオイ。

みんなも口々にエールを送る。


いつもとは違う、ステージ衣装とメイクをしたアオイは新鮮だった。

なんか、みんなのアオイって感じで少しモヤモヤする。

いかんな。

ちゃんとしろ業界人。



そこへ軽いアラートが鳴る。


見るとテレビで見たことのある人物が控室に入室してくるところだった。


山喜久防衛大臣である。


「アオイちゃん! 会いたかったよ」


そう言うなりアオイをハグしようとする。

アオイはさらりと身を翻す。


「ダメですよ山喜久さん。もう本番衣装なんですから!」


「そうか! それは残念だ! 抱き損ねちゃったなあ! 続きは食事の時だな。楽しみにしてるよ」


おい、ライブは。

それに招待の礼が先だろ。

まあこっちが呼んでお越しいただいたから百歩譲って良いとしても激励はしろ。


私は田城社長と目を合わす。


ダメだろこれ。



――――――――



ライブは素晴らしいものだった。

ただただ、感動した。


木花と咲那は泣いていた。

かくいう私も。


たったひとりの歌声でここまで多くの人の魂を揺さぶるのか。


アオイを戦力として前線に出すのは違うな。

彼女が向き合うのは敵ではない。

これから先、彼女の力はもっと多くの人々の不安を消し去り、勇気を授けることに使うべきだ。

それこそがアオイの役目に間違いない。


ライブが終わり、楽屋へ。

みんな泣きながらアオイを讃えていた。


そこにまたもアラート。

山喜久大臣が大勢の取り巻きを引き連れて現れた。


そしてアオイを見つけるなりハグをしようとする。

またしてもさらりと躱すアオイ。


「汗かいちゃってますからね」


いいぞ。よく逃げたアオイ。


「汗なんて気にせんのになあ。さあアオイ、行こうか」


おい。いろいろおかしいぞ。

なんだこいつは。

ちゃん付けじゃなくなってんのは置いといて。

本当に大臣なのか?


「大臣、まだ公演が終わったばかりで準備が整っておりません。申し訳ないのですがお約束の時間までお待ち願えますか?」


「ん、なんだ、このまま行けるんじゃないのか」


「お約束は22時ですよ、大臣」


「まだあと2時間もあるじゃないか。待てんよ」


「ごめんなさい山喜久さん。なるべく急ぎますね」


「まあアオイが言うなら仕方ないなあ。おい、君、なるべく早くしてくれよ」


田城社長を指さしするおっさん。

いやここまでひどいのかよ。

よく国務大臣なんて職につけてるな。


「申し訳ありません。このあとはマスコミの囲み会見がありますのでやはりお約束の時間まではお待ちいただくことになります」


「ん、そうなのか。よしワシも会見に出てやろう」


「え?」


「ワシが感動したと言えば泊もつくぞ」


「さすがにそれは。そもそも公務を飛ばしてここに来てるんです。それはマズイです」


秘書と思われる男性が止めに入る。


「な、なんだ、そうか。つまらん。なら先に行ってるからすぐ連れてきてくれよ」


そう言い残すとおっさんは取り巻きを引き連れてのしのしと楽屋を出ていった。


おいおい。

こんなヤツに異世界の存在を伝えなきゃいけないのか?

まともな判断なんぞできそうにないけど。


「田城社長、これはちょっと……」

「ああ、まさかここまでとはな」


とはいえ、大臣に真実を打ち明けるならこのタイミングを置いて他にはない。


気は進まないがやってみるしかないな。

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