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6-9 タイムリープ




気がつくと山の中にいた。


(ん? なんだこれ。無意識にサウナから転移しちゃったのか)


静かな森の中。

オレが立っているのは細いけものみちのようだ。

道を少し下ったあたりには小さすぎる川が流れていて、その先には竹やぶが広がっている。


(なんか懐かしい感じだな………ってまさか!!)


周りを見渡し気づく。

そして周りに人の気配がないことを把握し、認識阻害をかけてから大きくジャンプして空へ舞う。


「やっばりな」


空から見えたのは懐かしい風景だった。 


ここは家の前にあった広場……通称「前の原っぱ」の奥にあった山の中だ!

原っぱの中ほどまで突き出していた小山は竹やぶゾーンで、子どもの頃にはちょっとした規模の秘密基地を作ったものだ。


しかし―――時代が違う。


もう10年くらい前に再開発が行われて広場はもちろん山ごと住宅地に変わったはずだ。


(やっちまったな。かなり派手なタイムリープだ)


時空神さまの顔が浮かぶ。

前回の数日でも結構な手間をかけたようだったのに。

少なくとも10年超のジャンプをしてしまった。


(今までの巻き戻しとは規模が違うよな。また怒られそうだなあ)


とはいえせっかく来たんだ。

どうせ怒られるなら懐かしいみんなも見ておきたい。

誰にも合わないようにしてトラブルを避ければ大丈夫なはずだ。


(山が残ってるってことはどうなんだ?)


高校の時はまだ隣のエリアの区画整理が始まったばかりでここはまだ全くの手つかずだったはず。

社会人になって東京に出てかなり経ってからだったよな。

ってことはとりあえず高校時代の今の私の容姿で問題ない可能性がある。

とりあえず認識阻害をかけておけば間違いはないな。

時代によっては認識変更に変えればいい。


山の出口近くまで飛んでから空から降りる。

空き地には出ずに木陰から家を眺めることにした。


「おお! 懐かしい!! まだ増築中じゃんか!」


思わず声が出た。


長方形の一軒家をL字に増築して自分の部屋がもらえたのは確か小学校三年の頃だ。


(こりゃ45年くらいのタイムリープだな。時空神さまごめん!)


それにしても懐かしい。

周辺に家はまだ少なくて空き地ばかり。

町……というか集落か。

付近には信号もひとつもなく、家の裏のメイン道路はすぐ先で行き止まりになっていた。


今では信号どころか家の裏にスタバもあるし、伸びた道は京都と大阪を直結する有料道路に変わってマックをはじめとするチェーン店が次々と立ち並ぶようになり、コストコまで出店するようなビッグタウンになった。

その過程で地価上昇率日本一になったと聞く。


「懐かしいな。クルマなんて気にせずに周り全部が遊び場だったんだよなあ」  


ぼんやりと我が家を見つめていると、能力強化のおかげで耳をすませば家族の声が聴こえてきた。


(そうだよな。まだオヤジも母さんも生きてるんだよな)


両親のほかに姉も兄も弟の声も聴こえている。

もちろん、私の声も。


(なんか揉めてるなー。んー? なんだ、夕飯を何にするかかよ。あー、チャンネルでも揉めてるな。オヤジが野球を見たいんだろうなー)


みんなあの家に一緒にいたんだよな。

おんなじメシ食って、おんなじテレビ見て、おんなじことで笑って怒って泣いて。


みんな幸せそうだ。

うん。

実際、幸せだった。


ほんやりしていた想い出が鮮やかに蘇る。


しばらくその場でみんなの声を聴きながら佇んでいると、後ろから声をかけられた。


「シシ/ショウ」


振り返ると女神が立っていた。


「ああ、木花、咲那。よく見つけたな」


「時空神さまに頼んでようやく見つけたよ/あっちでは3日過ぎてるからな!」


「ああ、そうなのか。ごめん、心配かけたな。時空神さま、怒ってたか?」


「かなりね/でもまあ大丈夫だろ」


「早く戻ったほうがいいか?」


「そうだね………でもまあまだいいよ/ああ、まだあと少しくらいな」


そう言ってハンカチを渡されて、自分が泣いていることに気づいた。


「いい家族だな/お父さんとお母さんに会いたかったな」


「ああ。本当に。会わせたかったよ」


一昨年、父が亡くなり、仲の良かった母も後を追うようにその翌年亡くなった。

ふたりとも90歳だったから天寿を全うしたと言えるだろうけれど、それでも別れはとても悲しかった。


私たちはそのまま日が暮れるまで、膝を抱えて家族の声を聴きながら静かに佇んでいた。


沈む夕日と浮かび上がってきた月がとても綺麗だった。



「付き合ってくれてありがとうな」


立ち上がり、砂を払いながらお礼を言う。


「私も嬉しいかったよ/幸せな気分だよ」


「帰ろうか」


最後にもう一度、懐かしき賑やかな我が家を振り返ってから、女神の手を握って私はタイムリープしたのだった。

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