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2-⑩ アオイ



「少し話は長くなるんだけどね」


―――それはアオイがまだ10歳の頃。


親の勧めで子役として活動していた彼女がようやくある作品で注目を浴びたんだ。


その仕事は事務所が彼女の才能を信じて何度も何度も営業をかけてやっと得られた役だった。


そのことに浮かれた父親は次第に生活が派手になり、やがて当時のプロダクションにアオイへのギャラの値上げ交渉をしたんだよ。

それは常軌を逸した金額だった。


条件を呑まないなら事務所を辞めると脅してね。

当然、そんな要求を受けられるはずがない。


父親は引き止める事務所スタッフの忠告も聞かず本当に事務所を辞めさせてしまったんだ。


その父親は単なる金の亡者で、業界のことなど何もわからない素人だ。

もちろん仕事など取れるはずがない。


焦った父親はあちこちの事務所に所属売り込みをかけたのだけど、なまじ有名になった分、その辞め方が酷く義理を欠くものだったことがすぐに伝わってどこも手を挙げなかった。


結局、アオイは埋もれていったよ。


いい生活に慣れた父親は借金まみれになり、ついにはアオイに枕営業をさせることにしたんだ。

それを怪しいある仲介者に持ちかけた。


そんな誘いに乗るやつなんて碌なやつがいない。


父親はいいように騙され、大きな役を持ってくるという触れ込みに引っかかり、さらに借金を重ねて大金を払った挙げ句に、ついにアオイをその仲介者に差し出したんだよ。


その仲介者がある日、飲み屋で知り合った男にアオイとの一夜を買わないかと持ちかけたんだよ。


それが偶然にも私だったんだ。


あとからわかったのだけど、そいつは私から金を引き出そうとして近づいてきた詐欺師だった。

胡散臭いヤツだったから相手にする気はなかったけどね。


私がたまたまアオイが最初に所属していた事務所の社長と懇意だったこともあって、彼女がまだ小さい頃からよく知っていたんだよ。


そう、アオイが元々いた事務所は田城さんのところだよ。


写真を見せられた私はすぐに金を払って話に乗るフリをしてアオイをホテルに呼んでもらった。

そしてその場で男から彼女を引き剥がした。


アオイはまだ12歳だった。 


私も感情的になっていたからその時にかなり暴れてしまってね。


結局は事件にはならなかったけどしばらく警察の世話になったんだ。

そのことで少し出世も遅れたかな。


―――――――


「これが彼女がオレに対して感じている『恩』だよ。ほかの誰にも話したことはない。田城社長以外にはふたりが初めてだ」


ふたりは泣いていた。


頭を撫でながら落ち着くのを待つ。


「許せないなそいつら/どこにいるんですか?」


「その男がどうなったかは聞いてないな。アオイを助けたあと、田城さんに連絡を入れたらそのままどこかに連れて行かれた。父親も同じだ。事件にはなっていない。たぶん、警察に捕まるよりひどい目に遭っていると思うよ」


それを聞いてふたりは少し気持ちが楽になったようだ。


「私は、アオイならいいよ/そうだな、いいぞ」


「?」


「仲間にいれてやろう/一緒に暮らそう」


「何言ってるんだ。なんでそうなる」


「アオイの想いは本物だよ/受け止めないなどありえんだろう」


「は?」


「私たちが本妻であることは譲らん/あくまで2番目になるけどね」


「ないない。今はまだその時の感情にうなされてるだけだ。そのうち忘れるよ」


「もしそうなら6年あればとっくに変わってるよ/本物だな。共にシシを支えるのに相応しい」


「やっと普通に笑えるようになったんだ。余計なことは言うなよ」


「そんなの当たり前だ!/当然だよ!」


アオイが元気に笑っているのは奇跡だ。

でもそれはきっと表向きだけだろう。


「……同情じゃないんだろ?」


「心がとても綺麗だったよ。会って揉めた時にそのことはわかってたんだ/理由が分からなかったからな。聞いて納得したから合格だ」


「そうなんだ。まあそれは嬉しいな」


「私たちと同じレベルでシシのことを想ってるぞ/なかなかいないよ、そんな人」


私とのことはともかく、女神であるふたりがアオイと仲良くしてくれるならきっとなにか変わるのかもしれないな。


アオイが本気で笑える日が来るならなによりだ。

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