9-⑩ 異世界
ヒナ王女と一緒にジャポン王国を目指すことになった。
ヒイノ団長が号令を出す。
「よし、馬車を起動せよ!」
ん? 起動???
すると3台の馬車が、ホバークラフトのように浮上した。
お、やっぱり科学も進んだんだな!
でも銃器は発達しなかったのはやはり魔法世界だからか。
その割にはエリアヒールで驚かれたけど。
科学と魔法のブレンド具合がわからないな。
騎士の鎧にもポリカーボネートが使われてないみたいだし。
「シシ様、どうぞこちらへ」
私は一番豪華な馬車に招かれた。
ヒイノ団長も同席している。
中は拡張されており、ホテルのスイートルームほどの広さがあった。
格式の高いダイニングテーブルや王族に相応しい天蓋つきのベッドまでが備えられている。
「これはすごい。とても素敵なお部屋ですね」
「ありがとうございます」
「これなら旅も快適でしょうね」
「ええ。王国まではあと3日ほどかかります。どうぞこちらでゆっくりお過ごしください」
頬を赤らめて姫がトンデモ発言です。
ヒイノ団長も慌ててるぞ。
「姫、それはさすがに」
「そうですよ。ご一緒するわけにはいかないです」
「いいんです。恩人なんですから」
「いやいや。ねえヒイノ団長。それはマズいでしょ」
慌ててヒイノに助けを求める。
「かなりマズいです」
「ほら」
「余計な心配ですヒイノ」
「姫、お立場を考えください。シシ殿は私がお預かりしますから」
「嫌です。シシ様、私と一緒にいてください」
「ダメです姫。シシ殿は私が姫の代わりに手厚くお迎えします」
「ヒイノずるい」
「姫こそ」
いかんな、なんだこれは。
モテテンプレが発動しとるやん。
「ヒナ姫、外聞もあります。ご挨拶が済んだら私は外で大丈夫です」
木花と咲那に粉々にされますので。
アオイにも粉砕されますので。
「でも馬もお持ちではないのに」
「あ、それなら収納してありますから」
「まあ魔法袋までお持ちなんですね。道理で軽装だなと不思議でした」
よし、話が逸れたぞ。
「どのような馬車をお持ちなのですか?」
げ、それはそれで困るな。
なにがどこまでセーフなのかまだわからない。
ツバメ伝記を読んだのでこの国のおおよそはわかってるつもりだったが、こんなに時代がズレているとは思わなかったしなあ。
「今度お見せしますね。それより! 私は王国は初めてなのですがどんな国なのですか?」
「そうでしたか。以前は人間、ドワーフ、獣人、エルフ、魔族がそれぞれ種族ごとに国を持っていたのが、英雄神……ツバメ様が来てからはまず種族の壁が無くなり、さらにはツバメ世界を受け入れて多種多様な文化が共存共栄できる世界になりました」
「それは素晴らしいことですね」
「科学が大きく世界を変えてくれました。ジャポンも魔法文化を大切にしながら、その変化を全力で楽しんでいますわ」
なるほどなー。
だから馬車モデルなんだな。
ともあれこの世界で「事情を知る者」にコンタクトを取りたい。
伝記によればジャポンはツバメの異世界でのホームだ。
この国はきっとその中心にいるはずだ。
引き止めるヒナ王女をどうにか押しとどめ、馬車を出たら出たでヒイノからのお誘いが。
それもはぐらかしつつ、どうにか列の最後方に逃げおおせた。
「ナビィ、この状況どうなんだ? 正直、世界が吹き飛ぶ吹き飛ばないって話なんだしさ。もう全部ヒナ王女に話しちゃってみんなクルマに乗せて王城に速攻で向かう感じでもいいんじゃないのかなとか思うんだけど」
「確かにね♪ ジャポンがこの事件のど真ん中にいないはずないよ」
「だよな」
と、そこへアラートが鳴る。
マップを開くと左右からモンスターの群れが押し寄せてくるのがわかった。
「明らかにおかしいよな。この反応は……ミノタウロスだってよ。なんでこんな草原にいきなり出てくるんだって話だよな」
「まあ、ちょうどいいんじゃないの? サクッとやっつけてカミングアウトしちゃえば?」
「だな。じゃ悪いけどナビィはまたマジックボックスに戻っておいてくれ」
「えー、またー? ちゃんと呼び出してよ」
私は空へ飛び上がり列の先へ舞い降り、馬車を急停止させる。
異変にヒイノが先頭の馬車から飛び出してきた。
「何事だ!」
「ヒイノ! 左右からミノタウロスの群れが来るぞ。合わせて100ってとこだな」
「ミ、ミノタウロスが100!? こんな草原に?」
「それを言うならさっきのオーガだってあり得ないだろ。どちらもこんな場所に沸くモンスターじゃないんじゃないか? 」
「確かにそれはそうだが。だがさすがにその数はないだろう。なにかの……」
そこに遠くから地響きが。
砂塵を巻き上げ押し寄せるてモンスターの群れが目に入る。
「まさか! 本当に!?」
「まぁそれは置いて。とりあえず先頭と殿の馬車を王女の馬車に寄せろ」
「いくらシシ殿とはいえ簡単に守りきれる数ではない! 打って出るしかない!」
「大丈夫だ。攻めは任せてくれ」
「……信じていいんだな?」
「ああ。安心してくれ」
意を決したヒイノは騎士たちに指示を飛ばす。
馬車が集まり防御陣営を敷く。
異変を察したヒナ王女も窓から不安げにしている。
私はヒナ王女を安心させるために手を挙げて微笑みかけてから再び空へ舞い上がる。
地響きが大きくなり、ミノタウロスたちが目前に迫ってくる。
「えーと。雷撃……は派手すぎるか。氷かな」
「シシ殿!」
「シシ様!」
ヒイノとヒナが叫ぶ。
「ではいきますか! マッピングからのー。氷結!」
瞬間、左右から押し寄せていたモンスターの群れはそのすべてが氷漬けとなったのだった。




