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エナジクト─暴走する最強バーサーカーの私を止めるのは、最強と呼ばれる最弱の彼だけ─  作者: ノミオ
第四章──普遍的な愛なんて、この世に存在しないのかな?
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好きすぎて滅!──3

「イチゴ……それ、どういう意味?」


「アイちゃんに公安を抜けて、わたしたちの所に来て欲しいの。わたしの所属する『ニューオーダー(新たなる秩序)』に」


「ニューオーダー……それがアンタが言ってた『ママ』が牛耳ってる組織の名前?」


私の言葉にイチゴは頷いた。


「ニューオーダーはね、ママを除いて、ハーフの子だけで構成されてるの。ハーフの子の中でも、かなり悲惨な目に遭ったような、生きる希望も目的も失ったような子……わたしもそうだった。わたしの名前、ポチだって言ったでしょ? わたしね、ずっと産みの親に犬扱いされて育てられてきたんだ。『その方が面白いから』って、それだけの理由で……ご飯はいつも犬皿だったし、トイレもペットシーツの上でしてた。返事はいつも『ワン』しか許されなかったし、言うことをちゃんと聞けなかったり、ストレス発散だったりで、殴ったり蹴ったり……口では言えないようなことも、色々されてた。学校なんか、一度だって行ったことないの。どこに行くにも首輪を付けられてたし、夜になったら、裸で散歩させられたりもしてたんだ……首輪を着けてるわたしを見て、外を歩いてる人がみんなが、奇妙なものを見るような目で見るの……すごく恥ずかしかった。もう誰にも見られたくない。消えてしまいたいって、ずっとそんな風に心の底から願ってた。そんな時に、ママに出会ったの。ママにナチュラルとして今の能力を授けてもらって、わたしは、ようやく地獄みたいな生活から解放されたんだ」


イチゴの口から吐き出される壮絶な過去に胸を痛めるとともに、初めて出会った頃のイチゴのズレた言動に妙に納得した。


「私のこと、ニューオーダーの人に話したってこと?」


「ごめんなさい。アイちゃんと仲良くなる前に聞き出した情報は、けっこう話しちゃった。そういう命令だったから……でもお友だちになってから知った情報は、ちゃんと話してないよ」


イチゴは私の顔色を窺うように言う。


「それは別にいいけど。なんで急に私を引き込もうなんて話に……」


「ママに言われたの。新しい子宮を持ってきて欲しいって」


イチゴの言葉に目を見開く。それはつまり、新しい死体の用意──つまり女の子を殺せと命令しているということだ。


「わたし、アイちゃんと約束したでしょ? アイちゃんとお友達でいる間は、絶対に人を殺さないって。最初はアイちゃんとの約束があるから止めておこうって程度だったんだけど……最近アイちゃんと過ごしてて思ったの。わたし、今までとんでもない事を……あの子達に対して、すごく酷いことをしちゃってたんだって」


イチゴは本当に反省しているように目を伏せ、苦しげに眉を寄せた。


「殺す前に、ちゃんと同意は取ってたの。みんなわたしと同じように、ろくでもない大人に好きなようにされてきたような子ばっかりで、生きることに対して、絶望しか抱いてないような子だったから、みんな笑顔で了承してくれた。でも……あの子達だって、わたしみたいな奴じゃなくて、アイちゃんみたいな子に出会っていれば、死ななくて済んだんじゃないか。『死にたくない』って、ちゃんと思えてたんじゃないかって。それなのにわたしは、わたしはっ……」


ぽたぽたと、透明な雫がテーブルに落ちる。

それはただの涙じゃない。イチゴの心からこぼれ落ちた。後悔と懺悔。


「ごめんなさい……ごめんなさいっ! 今さらわたしが何言ったって、全部手遅れなのにっ……子宮を手に入れるにしたって……きっともっと他に良い方法もあったはずなのに……っ!」


やっぱり、私の気のせいじゃなかった。

イチゴは変わってきている。変わろうとしている。

知らなかったことを、ちゃんと知ろうとしている。出来なかったことを、出来るようになろうとしている。


自分の犯した罪から逃げずに、ちゃんと向き合おうとしてる。


きっとそれは簡単なことじゃない。だってそんなの、痛くて辛くて、まともに受け止めたら潰れちゃう。

逃げ出したくなるに決まってるから。


こちらに差し伸べられた手をそっと握る。

するとイチゴは涙で濡れた顔を上げ、しゃくりあげながら言葉を続けた。


「だからわたしっ……ママに言ったの。『もう人は殺せない』って。ママに逆らったのなんて、初めてだった……そしたらね。ママ言ってくれたの、アイちゃんがニューオーダーに入ってくれるなら、もう誰も殺さなくていい。『普通の生活』をしていいって。わたし知ってるのっママは絶対に嘘つかないって! だから……これからも一緒にいる為に、アイちゃんについてきて欲しい」


「私が、ニューオーダーに……」


「おねがいアイちゃん。わたし、はじめてなの。能力を使わずに誰かと一緒にいたいと思えるときが来るなんて……アイちゃんと幸せになりたい。ずっと一緒にいたい。『誰にも見えないわたし』じゃなくて、『誰にでも見えるわたし』として、アイちゃんの傍で、陽の光の下で、笑って暮らしたい。だから……おねがい」


ぽろぽろと涙を零す瞳が、ひたむきな視線が、ぎゅっと握られた手のひらが、切実に訴えかけてくる。

ぐらぐらと自分の心が揺れているのが分かった。


私がニューオーダーに入れば、イチゴはもう人を殺さずに済む。ずっと一緒にいられる。

でも、それって冬華を裏切ることになるじゃん。


私、この子を救うために、自分のことを救ってくれた人を……冬華を裏切るの?


『もしなにか困ってることがあれば、いつでも私に言ってね。一人で抱え込んじゃ、絶対ダメだよ』


ふと冬華に言われた言葉が頭に浮かぶ。

そんな、冬華を裏切るなんて……駄目。そんなの絶対ダメ!


「イチゴ!」


思わず叫んで立ち上がり、イチゴの手を両手で握る。

するとイチゴはびくりと身を震わせ、目を丸くした。


「イチゴ、大事なこと話してくれてありがとう。今度は私の話、聞いてくれる?」


「う、うん……」


イチゴが言ってくれたんだから、私も言おう。

上手くいくかなんて分からない。でも、言わずに後悔するより言って後悔したい!


「イチゴ、私と一緒に6課で働こう! ホルダーになろう!」


「え……ええ!?」


「6課のトップの人、冬華っていうんだけど、その人もすっごく優しいの。私みたいなハーフのことを救ってくれた救世主、っていうか女神様っ! 確かにイチゴは悪いことをしちゃったけど、冬華なら事情を話せばきっと分かってくれるはず。だから──今から6課に一緒に行こう!」


「い、今から!?」


「善は急げ、思い立ったが吉日って言うでしょ! ほらっ行くよっ!」


「えっちょっ……アイちゃん!?」


手を掴んで歩き出そうとすると、イチゴは突っ張ってそれを止めた。


「待ってよアイちゃん! だめっ! わたし、ママを裏切るなんてできないっ!」


「でもっ──」


ピンポーン。


突然家のインターホンが鳴る。私達は言い合いを止めて玄関の方を見た。

誰だろうこんな夜中に。宅配なんか頼んでない。ふとイチゴを振り返る。そして口元に人差し指を立てた。


ピンポーンと再びインターホンが鳴る。どうやら間違いで押したわけではなさそうだ。

この家を訪ねてくる人なんて決まってる。ほのかちゃんとアキラちゃん、それからソラ。

それ以外といえば──。


「ちょっと出てくる。イチゴ、能力使って隠れてて」


「……うん。わかった」


ピンポーンと催促するように再びインターホンが鳴る。ドキドキしながら玄関に向かい、画面を確認する。やっぱりそうだ。

私は平静を装いながら、扉を開けた。

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