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エナジクト─暴走する最強バーサーカーの私を止めるのは、最強と呼ばれる最弱の彼だけ─  作者: ノミオ
第四章──普遍的な愛なんて、この世に存在しないのかな?
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好きすぎて滅!──2


「う~ん。やっぱ紅茶はアールグレイティーだよねぇ。ティーパックでもこんなにおいしいなんて、アイちゃんに出会うまでは知らなかったよ~ありがとねっアイちゃんっ」


「…………」


「アイちゃん?」


「え、なに?」


「どうしたのぼーっとして、今日元気ない?」


「あはは、そんなこと無いよ」


私を心配そうに見つめるイチゴに笑顔を返す。


イチゴは犯人だってばれる可能性はほぼ無いと思う。たぶん。だってイチゴの能力なら証拠すら残らないから。

それにイチゴはママに命令されて仕方なくやっただけで、根は悪いやつじゃない。

私と一緒にいる限りは人を殺さないって約束もしてくれてるし。だから、このまま私が一緒にいてあげれば──。


「ねぇねぇアイちゃん」


イチゴが身を乗り出して私に問いかける。ハッとして返事をした。


「なに?」


「あのね。わたし、友達のお家に泊まるの夢だったの。だからさ……今日泊まっていっていい?」



「あっこのパジャマかわいー! ねえアイちゃんっ! わたしこれがいー!」


「げ、それジェラートピコ、めっちゃ高いやつじゃん……こっちにしようよ」


イチゴのお泊りの用意をするべく、私達は近所のショッピングモールに来た。イチゴは全てに目を輝かせて色々と手に取り、さっそく可愛いパジャマを引っ掴んで私に見せてきたのだ。


「え~絶対これがいい~っ絶対これ! ねえいいでしょ? わたしがお金出すからっ!」


「あんたお金持ってたんだ……」


「うんっ! ママからのおこづかいっ! 能力あるから要らないんだけど、会う度に心配だからって渡してくれるの。ママってほんとやさしーよねっ!」


イチゴは満面の笑みでピースして言う。

その親切なママとやらは、こいつに金融教育というやつを全くしてくれなかったのか? それは優しさとは呼べないのでは? 

突っ込みたくなったけど、ぐっと堪える。


何でもかんでも能力で手に入れてきたイチゴがお金を払う気になったのだから、これはこれで立派な進歩だろう。

まずは良しとしよう。


「じゃあそれ買ってきてあげる。お金ちょうだい」


「いいよ。自分で買ってくるから」


「どうやって? あんた店員さんから見えないじゃん」


「あれ? 気付いてなかった? わたし、アイちゃんの家からここまで能力使ってないよ?」


「え!? そうだったの!?」


ふとイチゴが振り返る。お母さんに手を引かれている小さな子供が、ロリータ服を着ているイチゴのことをぼんやり見つめていた。

イチゴがにっこり微笑んで手を振ると、子供も笑顔になり、手を振っていた。どうやら本当に能力を使っていないらしい。


「あんた……いいの? 結構リスキーなことしてない?」


「いーの。ほらっせっかく来たんだから、一緒に色んなものいっぱい見てまわろ?」


不敵な笑みを浮かべてウインクするイチゴに、やっぱり私は逆らえなかった。



買い物を済ませて家に帰るや否や、さっそくイチゴはロリータ服を脱ぎ捨て、パジャマに着替えていた。

やれやれと脱ぎ捨てられた上等なロリータ服を拾い集めてハンガーに掛けたりしていると、


「どうアイちゃん? わたしかわいい? かわいいでしょ~」


声に振り向くと、白いジェラートピコのふわふわパジャマをまとったイチゴは、年相応の幼い少女という姿になっていた。


「どう? どう?」


「うん。かわいいし似合ってるよ」


「アイちゃんもお揃いで買ったでしょ? 早く着てよ~」


「ええ~……」


確かにイチゴに薦められるまま、私も色違いで紺色のもこもこパジャマを買った。

だけどなにせあのジェラートピコなのだ。ファンシーでいかにも女の子女の子しているパジャマが、果たして私に似合うだろうか。

はやくはやくっと急かしてくるイチゴに負けて、渋々着替えてみる。イチゴが目を輝かせた。


「アイちゃんかわいい~! めちゃくちゃ似合ってる!」


「え……そう?」


「ほらっ!」


イチゴが私を姿見へと連れて行く。紺色のジェラートピコを着た私の姿が鏡に映った。

あれ? 思ったより似合ってるかも。っていうか──。


「けっこー似合ってる……かわいいかも」


「でしょでしょっ? おそろだおそろ~! おそろっち!」


イチゴが上機嫌に抱きついてくる。おそろいか。私、そういうのまだしたこと無い。素直に嬉しいかも。


「おっそろ~っおっそろ~♪ ねえアイちゃん。せっかくだからお風呂も一緒に入らない?」


「はあ!?」


「憧れてたんだぁ~お友達と一緒におふろっ」


「それは絶対無理っ!」


「え~ケチっ!」


イチゴはぷっくりと頬をふくらませる。やられてばっかりじゃ癪だから、その頬を突っついて空気を抜いてやった。



「げー、この布団うっすいよぉ~」


「しょうがないでしょ、収納スペース考えたら分厚い布団なんて買えないの。文句言うな」


「んん~怒らないでよアイちゃん?」


お風呂上がりのイチゴが布団に転がりながら、ベッドに寝転んでいる私を見上げる。

そういえばこの子、普段はどこに寝泊まりしてるんだろう。


「ねえイチゴ。あんた普段どこで寝泊まりしてるの?」


「へ? もちろん高級ホテルだけど?」


「高級ホテル? ……それってまさか」


「うんっもちろん能力でタダ! ルームサービスでおいしーご飯も食べ放題っ!」


イチゴは得意げにピースしてみせる。いやいや、それ全然誇れることじゃないでしょ。無銭飲食、無銭宿泊。

……まあ、こいつに常識が無いのは今に始まったことじゃないか。

ちょっとはマシになってきたかと思ったけど、これはまだ教えることが色々ありそうだ。


「あんたさ……そんなことするくらいなら、うちで寝泊まりしたら?」


気がつけば、そんな言葉が口からこぼれていた。自分でも驚いていると、イチゴも丸い目を更に目を丸くした。


「え……いいの?」


しまった。結構な失言。

しかもこの反応、「冗談でした」って言ったらめちゃくちゃガッカリさせちゃうやつじゃん。

イチゴとは何度かこの部屋で過ごしたことあるけど、ストレスを感じたことはない。

じゃあ別にもう、いいか。


「いいよ。あんたが能力悪用するよりは、この部屋に住んでもらうほうがマシだから」


「ほんとに? ……やったぁ~! アイちゃんだいすきぃ~!」


「ちょっ!? 急に抱きつかないでよ!」


「だって……だってうれしいんだもん」


「……イチゴ?」


私に抱きつくイチゴの声が小さく震える。顔を見ると、イチゴはヘーゼルナッツ色の瞳から、ぽろぽろと涙を流していた。


「うれしいっ……うれしいよぉっ……わたし、もう独りじゃないんだっ……アイちゃんが、一緒にいてくれるんだっ……!」


「……いちご」


ひっくひっくとしゃくりあげる背中を優しく撫でる。するとイチゴは私の腰に回した腕にぎゅっと力を込めた。


「ごめん、ごめんね……ほんとはわたし、ちゃんと分かってるから……迷惑になったら、ちゃんと出ていくから……だから……っ!」


「迷惑なんかじゃないよ。私はあんたのこと、本当の友達だと思ってる。だから……安心してここにいていいよ」


やばい。やばいよな私。イチゴのこと大切なのは本当だけど、私、言わなきゃいけないことあるじゃん。

なのに、こんなことばっかり言ってたら、余計に言えなくなる。


……でもいいか。だってイチゴは色々なこと、知らなかっただけだもん。何も知らないイチゴを利用した『ママ』って奴が悪いだけ。

だから、これは正当な行為だ。イチゴには、私しかいないんだから。


「大丈夫だよイチゴ……大丈夫だから」


「うっ……うぁっ……うぁあっ……!」


この先に確実に待っているであろう『終わり』に目をつむって、私は泣いているイチゴの背中を撫で続けた。




「アイちゃん、今日泊まってく?」


後日、全く進展のないアンユータラス事件に関する報告が終わった後、私は冬華にそう提案された。

少し前までなら何も考えず、尻尾を振ってワン! と言ったものだ。でも今は──。


「あの、ごめん……ちょっとテスト勉強しなくちゃいけなくて……」


私は初めて冬華からの提案を断った。

冬華は私にとって大切な人だってのに、私は冬華に嘘をついてる。それも6課を裏切るような特大の嘘を。

ちくりと罪悪感が胸を突き、目をそらす。冬華は変わらぬ穏やかな声で言った。


「そっか、アイちゃんも色々あるよね……じゃ、勉強頑張ってね」


「うん。じゃあ、帰るね」


「アイちゃん」


「……なに?」


「もしなにか困ってることがあれば、いつでも私に言ってね。一人で抱え込んじゃ、絶対ダメだよ」


「……うん。ありがとう」


そう告げて、逃げるように冬華の部屋を後にした。

ズキズキと胸が痛んで、その痛みを誤魔化すみたいに、私は早足で家を目指す。


大丈夫。大丈夫だ。まだバレてない。きっとこのままずっとバレない。


一緒に住むようになって、イチゴの精神状態はかなり安定してる。家事も勉強もかなり出来るようになってきた。

家の中では全く能力を使わなくなったし、ママの話もしなくなった。

人があまりいない時間には、能力なしで二人で散歩なんかもしちゃったりしてる。


このままいけば、イチゴは真っ当に生きていける日がくるかもしれない。

……でも、それっていったいいつになるんだろう。

アンユータラス事件が時効をむかえるまで? それっていつ?


っていうか私、いつの間にイチゴを更生させようなんて考えるようになったんだ?


ガチャリと家の扉を開ける。

すると「おかえり~」といういつもの元気な声がしなかった。部屋の電気は点いてる。

不思議に思いながら部屋に入る。するとイチゴはテーブルに突っ伏していた。


「イチゴ?」


声をかけるとイチゴはハッとしたように振り返り、途端に笑顔になった。


「おかえりっアイちゃんっ」


「どうしたの? 体調悪い?」


「ううんっなんでもないよっ! ……あ、そうだっ晩御飯作ったよ! 今日はとり肉のおなべっ……すぐ準備するねっ!」


そう言ってぱたぱたと駆けていく。でもその顔色は明らかに悪かった。

どう見ても空元気だ。本当に体調が悪いのかもしれない。病院、連れてってあげたほうがいいかな?


釈然としないまま二人で鍋を囲む。出汁から作ったらしいイチゴの鍋は本当に美味しかった。

さっきまでと打って変わって、イチゴはいつも通りの元気な様子で話をしていた。


私はこの生活を楽しいと思ってる。きっとイチゴもそうだ。

でも、この生活がそう長くは続かないということも、お互いちゃんと分かってる。

いつまでイチゴとこうやって過ごせるだろう。最近そればっかり考えてしまう。


イチゴ、もしかしてあんたも、そんな事考えてる?


『もしなにか困ってることがあれば、いつでも私に言ってね。一人で抱え込んじゃ、絶対ダメだよ』


ふと冬華に言われた言葉が頭に浮かぶ。

そうだ。一人じゃ無理だとしても、誰かの力を借りれば、なんとかなるかもしれない。

冬華は私を拾ってくれた。救ってくれたんだ。だったらイチゴのことだって、きっと──。


「ねぇ、イチゴ」


そう切り出すと、イチゴは言葉を止めて、まっすぐな目で私を見る。

その目をまっすぐ見つめ返して、私は切り出した。


「実は、言いたいことがあるの。すごく大事なことなんだけど……」


「……アイちゃん。わたしもね。アイちゃんに伝えたいことがあるの。これからのことに関する、大切なこと」


「え?」


イチゴの顔は今まで見たこと無いくらいに真剣だ。そして緊張が滲んでいる。

自分の話よりもそっちの方が気になった。


「イチゴ……それってどんな話」


私が問いかけると、イチゴは意を決ししたようにテーブルの上に置いた拳をぎゅっと握りしめ、声を絞り出した。


「私、これからもずっとアイちゃんとずっと一緒にいたい。だから──わたしと一緒に、ママのところに来て欲しい」


「え?」


「仲間になろうアイちゃん。いや、わたしたちの仲間になって」


言いながら、イチゴは私に手を差し伸べた。

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