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いやぁまだ指も入れてませんよ

 わからない。しかし確かにおかしい気もするし、西川さんも結局恋愛なんかしてたらオカシクなっちゃうんだって考えたらおかしくないような気もする。


「よく考えたら菊池さんの言ったことですしね、じゃあ西川さんが女に手出されて怒ってるってのもウソですかね?」

「いやそれはホント。俺も聞いたもの、“吾妻は最近つけあがってる”って。」


 あっそうか、部長にも確認とったもんな。


「俺が聞いたのは、お前が西川さんの目の前で“指も入れてない”って言ったって。」

「なんです? 指って。」

「いや前に部室で誰が好きかって話になって、そしたらお前が“高橋が好きだ”って言って、じゃあドコまでいったんだって訊いたら“いやぁまだ指も入れてませんよ”って言ったって。」


 指? それはあんまり下品なっていうか、俺がそんなエロ道一筋みたいなオヤジギャグ言うだろうか? 感性としてはほとんど許せん。いや思い出したぞ。俺は思わず赤くなったり青くなったりした。


「そういえば小説の原稿をワープロに打ってるときにそんな話になって、高橋の原稿がいーかげん遅れてたんで頭にきて、そんで高橋が好きってことにして“あのアバタが”とか“ヨガんだ骨格が”とか逆ボメして悪口言ったことがありますよ。しかしちょっと待って下さいよ、そんとき“こいつ指も入れたことないんですよ”って言ったの菊池さんですよ。」

「菊池だったのか。」

「そもそも俺のセンスじゃないですよ、指入れるの入れないのなんて。菊池さんにクソがって思いましたし。西川さんボケちゃってんじゃないですか?やっぱ。それであっちこっち言って回ってるんですよ。だって三木さんだってこのコト知ってたらしいですよ。」

「三木が? なんで?」

「菊池さんがこの前久しぶりに会ったらもう知ってて、“やっぱりなんだかんだいっても吾妻も人間だったってことだよ”とか言ってたそうですから。」

「おいちょっと待て、それは菊池の言ったセリフだぞ。電話してきたときに嬉しそうに言ってたけど、誰かから聞いたっていうような話じゃなかったぞ。」

「……石坂さん、もともとこの話誰から聞きました?」

「菊池。」

「俺も菊池さんです。」


 お互いに顔を見てしばらく黙ってたが、

「こりゃあ菊池さんですね。」

「そうかな? はっきり断言できないけどそう考えた方が自然かな。」

「高橋と西川さんから出た話だってスピーカー役がいないとここまで広まりませんしね。」

「西川さんのあの狂い方だって、誰かがたきつけなけりゃああはならないような気もするなあ。」

「しかしなんで? 俺はそんなことされるほど菊池さんには恨まれてないと思いますけど。内心バカにしてるのがバレたんでしょうか?」

「いや、あいつは“面白そうだ”ってだけでこれぐらいのことはやる。西川さんと吾妻の対決が楽しみだって言ってたし。」


 俺は部長の皮をかぶった菊池の部長が「まあせいぜい派手な取り合いして下さいよ」って言ってた顔が頭に浮かんだ。ああいう顔を見てると菊池がそういう心理を持ってるってのもうなづける気がする。


「しかしヒドいな。」

「ヒドいね、たしかに。」


 なんか急に全体の構図が見えてきた気がした。するとだんだん俺の頭の中にデビルな考えが浮かんできた。


「どうしてやりましょうか。」

「え? なんのこと?」


 うーん、よく考えるとこんなトコでグチグチ悩みながらやってるのがビッグな俺には間違いだったような気がしてきた。そーだ俺はもともとデビルだったんだ。高校時代、友達と二人で福岡全市にまたがる大文化部連合を創って協力校から金をしぼれるだけしぼりとって、自分の思い通りの活動ができなくなったら連合をぶっ壊して逃げたこの俺が、大学に入ってまた闘争を始めたものの自分が主流派になり先輩と呼ばれる地位に安住するようになってから防御の姿勢に入っていたとでも!? 冗談じゃないぜ!! 三浦みたいな小僧にダマシかけられんなってんだよ俺も。なんだよ三浦って!? もういいや、菊池のコトだ。せっかくいままで仮名(かめい)で書いてたのに思わず本名で書いちゃったよ。いいや、お前だけは本名バラしてやる。もう頭使わないことに決めた。お前らみんな敵だ、ケムシだ、インキンタムシだ。俺はお前ら愚劣な大衆のブタに孤高な闘いをいどむ英雄だ、バカか俺は!! えっとなんだ!? だから人生はしょせんローリングストーン、やっぱ俺はアナーキー・イン・ザ・UKだぜ!!BYセックス・ピストルズ。

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