せいぜい西川さんと派手な取り合いして下さいよ
学校に戻ってから俺は部長を連れ出した。
「お前の謎かけの意味がわかったぞ。俺は高橋に惚れてるんだってな?」
「違うんですか?」
ニターッと笑っている。「またまた、ワザとらしい」って感じだ。
「しかも高橋と西川さんが付き合ってて、俺は間男だそうだな?」
「まあいいんじゃないですか? 恋愛にルールはないって言いますし。」
いま気付いたけどこいつは話のセンスが菊池にそっくりだ。そうかお前は部長の皮をかぶった菊池だったんだな?
「あのな、西川さんにも2年のネーチャンたちにも言っとけ!! 俺は高橋なんかには興味はねぇ! てめぇらが知らないだけで俺にはちゃんと彼女がいるんだ!!」
あ!忘れてた。俺の彼女も高橋も俺も同じ学部だからこのゴシップは流れ流れて彼女にも伝わってるんじゃないのか? そういえばここんとこアイツの態度はおかしいぞ。学校で会ってもシカトするし電話はいつも留守電だ。べつに変なコトした覚えもないから「どうせいつもみたいな意味不明のことで怒ってるんだろー」って軽く考えてたが、ひょっとしたら、
「そうか……お前ら、もしかして、このコトいろんなところでふれまわって……」
イカリで息が苦しくなってきた。
「まあいいじゃないですか、せいぜい西川さんと派手な取り合いして下さいよ。」
ダメだ、顔に何を言ってもムダと書いてある。
俺は放心したまま学内をウロついていた。ダメだ、部長も菊池もアル中も1年たちもネーチャンたちも高橋も小林もクレイジーなヤツばっかりだ。どいつもこいつもまともじゃない。なんですぐそう思いこんじゃうんだ? どうして疑うことを知らないんだ? ちょっと考えればわかることなのに、明らかにムリな方向に考えがネジ曲がってる。どいつもこいつも狂ってる。
そのとき肩を叩かれた。メガネをかけたひょろっとした人だ。石坂さんだった。スーツを着ている。就職活動が終わって福岡から帰ってきたんだ。やっとマトモな人にめぐりあえた。
「就職活動終わったんですか?」
「ちがうちがう、就職活動はもう終わったって。内定が決まった会社から呼び出されてたんだよ。どうした? 顔が青いぞ。暗くなってきたからよくわからないけど。」
俺は石坂さんを学校の前の喫茶店に連れ込んだ。
「石坂さん、小林が辞めましたよ。」
「ええ!! うそ!?」
「それでですね、小林を追い出したのは俺ってコトになってるんですよ。」
「はっきり言ってそういう一面は俺もあると思うけど……」
「それが一面じゃないんですよ、今日伝言ノートに“吾妻がイジメるからヤメます・小林”って書いてあってですね、それを俺が書いたと……」
「でもそれは誤解だったんだろ? でも俺だってそれ見たらお前だって思うかもなあ。でもよく考えたらそこまでしないだろって思うかもしれない。まあその場になってみないとわからないけどね。」
「それは本人に確認をとって自分で書いたもんだってすぐわかったんですよ。でもですね、もともと俺が小林をイジメてたのは女にフラれたからだと……」
「なにそれ?」
俺は今までの事情を説明した。石坂さんは腕を組んで下向いて話を聞いていたが、
「俺も実はその話を聞いて、一っぺんお前から話を聞こうと思ってたんだ。で、お前には全くその気はないの?」
「その気になろうったって無理ですよ、あんなの。」
「しかしおかしいな、どっからそんな話が出たんだ? 全く根拠がないのに。」
「高橋本人が西川さんに言ったんじゃないですか? 確かにここんとこはかなり頻繁に電話してましたからね。」
「そんなに?」
「だって最初の締め切りから3ヶ月遅れですよ。それにあいつの小説がなかったらウチの小説本なんて半分はカタチになりませんから。アマチュアで低レベルとはいっても今の下級生でまともに小説書けるのはあいつだけなんですから。」
「しかしあの西川さんがそんな簡単にそれを信じるかな?」
「俺もそう思ったんですけどね、高橋が“最近あたしのトコに吾妻がしつこく電話してくるのよ、あれは絶対あたしに気があるんだわ”とか言って頭にカーッと血が上ったんじゃないですか?」
「でも決定的なことは何も言ってないんだろ? 好きだとかなんとか。」
「言うわけないじゃないですか。」
「じゃあそんなこと西川さんにもそんな断定的に言うかな?」
「さあ、そこまで言われると……」




