レギュラー落ち
途方に暮れていると、リビングの戸が開いて真名が顔を出した。
「あの、紫苑さん」
「あー、真名。ボタン押さずに電源入れる方法ってあるか?」
「……あっ」
真名も、電池を抜けば電源は切れるが、今度は電池を入れたところで電源を入れる方法がないということに気づいたようだ。
「あー、まあ、いや、相手は秋美だからな。電話に出ないからってどうにかなる関係じゃねーから、いいんだけど」
「松田選手の方は、よくないのかも」
真名の落としたつぶやきの意味が、紫苑にはわからなかった。
「どういう意味?」
「知ってますか? このあいだの──水曜日の試合。松田選手がスタメンから外されていたこと」
「スタメンを? ……いや。ケガでもしてんのか、あいつ?」
だったら、何か言ってきそうなものだ、とおもう。
真名は困った顔で首をかしげた。
「ケガ、じゃないとおもいます。ベンチには入ってたみたいだし。…………その。先週の試合で、途中出場した選手がハットトリックを決めて。それで──」
真名がそれほどF・シルコの試合結果にくわしいことにもおどろきだが、ハットトリックなどという専門用語があたりまえに出てきたことも意外だった。
秋美とのつき合いがなければ、紫苑でも、それがおなじ選手が一試合に三得点以上することだ、とは知らなかったかもしれないというのに。
「べつの選手が調子よくて、あいつがレギュラーから外されたってことか? まぁ、プロの世界ならそういうこともあるだろ」
「高校生なんです──」
「えっ?」
「その、ハットトリックのフォワードの選手は、まだ高校生の、ユースの選手なの。松田選手は、入団一年目から、ずっとスタメンで……なのにサブに回されちゃって、ショックを受けてたりするのかなって、おもって」
紫苑はがしがしと頭を掻いた。
スタメンの座に執着がある秋美なんて紫苑にはピンとこないが、練習をしているはずの時間にしつこく電話をかけてくるあたり、そのことが関係していないとは言い切れない。
「そうか──おしえてくれてさんきゅーな、真名」
「いえ。それよりも、私のケータイで良ければ、電話してもいいですよ?」
「あー、こっちからかけたいのはやまやまだけど。番号がわかんねー。ほら、ボタンが全滅じゃ、電話帳も見れねーし」
と言ってる端から、真名の横からにょっきりとスマホを持った手が出てくる。
どうやら里沙のようだ。
「貸したげる」
「いやだから、番号がわからねーって」
「わかるよ。あと、発信するだけ」
「は?」
紫苑はまぬけに聞き返した。
と、里沙がぷいっとそっぽを向く。
「べつに、訊いたわけじゃないんだからね。あのひとが、ラインやってるからひまなときにメッセ送ってーって、勝手にケー番おしえたの!」
紫苑には何のことだかさっぱりだが、親友がどうやらナンパまがいのことをしていたのだということはわかった。
ここに来たときか、それとも紫苑のケータイに里沙が出たときか、どちらにしろ油断も隙もない男だ。




