スランプ
秋美が、おもいだしたようにやんわりとほほえむ。
「そーいうのは、やってておもしろかったな。──けど、自分がシュートを外すのは、何にもおもしろくねーの。みんな、よくこんなんでサッカーつづけてんな、っておもうよ」
たまにおもったとおりのところに行ってゴールが決まるからたのしいんじゃないか、と紫苑はおもった。
むしろ、シュートを邪魔されておもしろいとおもうやつの方が変わっているだろう。
そのくらいのことは、紫苑でもわかる。
「それって、いわゆるスランプってやつだろ? スランプでいちいちやめるやつなんていないとおもうけどな」
「そうか? じゃあ、スランプになってどのくらい選手をつづけてていいわけ? ──あ、チームがいらないって言うまでか。じゃあ、今シーズン末だな。それまで粘って給料もらった方がいいかなー? けど、せこいよな」
「いや、せこいとかいう問題じゃねーだろ」
「そのとおりだ、紫苑。……これでもけっこう悩んだんだぞ。このまま狙ったところにいかないシュート蹴ってたら、ストレスで精神やられそうだなーとか。で、そこまでサッカーに人生かけてねーし。どっかがイカレるまでやらなくても、やめりゃいいのかーとおもったわけ」
口調は軽いが、秋美本人が悩んだというからには悩んだのだろう。
それが、人並みであったかどうかは疑問だが、元々ほとんど悩まない質なのだから、当人比では『けっこう』にちがいない。
もっとよく悩め、などと他人が言うのは大きなお世話だ。
「──ちなみに。プロ選手って、そんなに急にやめるって言ってやめられるもんなのか?」
「さあ? けど、チームが一方的に選手との契約を解除できるんだから、逆もできるだろ。移籍はダメでも、引退ならいつしてもいいんじゃねーの?」
適当すぎる、と紫苑はおもったが、未だ大学生で親の世話になっている身としては、自分を棚に上げてえらそうなことは言えない。
「いちおう、おまえにもファンがいたりするんじゃねーの?」
「んー。でも、シュートを外さない俺がいいんだろ? たまにしか決めないなら、べつに他のやつでいいとおもうんだけど」
「ハットトリックの高校生とかか?」
ぎょっ、と秋美が紫苑を見る。
親友の言いたいことは、とてもよくわかった。
紫苑は、咳払いでごまかす。
「従妹の友だち……ほら、おぼえてるか? おまえがF・シルコの選手だって気づいた」
「ああ、真名ちゃんな。おまえの二番弟子」
「………………。その真名がな、おまえがスタメン外されたはなしをしてくれた」
「そっか。うん、そう。そのとおり」
秋美はあっさりとうなずいた。
紫苑の知るかぎり、負けず嫌いとかプライドとかいうことばにとんと縁がないのが、秋美という男だ。
それでなぜスポーツ選手がつとまるのかは謎だが、べつに今もそういう性格に変化はないらしい。
「あいつのはなしじゃ、まだ一試合か二試合前くらいのはなしみたいだったけど?」
「ハットトリックが二試合前」
「それってただのまぐれじゃねーのか?」
「さー? だとしたら、チームが困るな。誰かが点を取らねーと」
やはり、他人の活躍に嫉妬をしているわけでもないようだ。
それでこそ秋美だと、紫苑はおもう。
ぽん、と後頭部を叩いた。
「おまえが取れよ」
「いや、だからさ────」
紫苑は、秋美の目を見つめる。




