3話 また一緒に。
王都の冒険者ギルド。
掲示板の前で、以前夜叉と依頼を共にした三人の冒険者が話していた。
「……あ」
一人が入口を見る。
そこには、白い髪を揺らしながら歩いてくる夜叉の姿があった。
「こんにちはぁ」
「夜叉さん!」
「おはようございます。」
「うん。おはよう〜」
三人の顔が明るくなる。
前回の依頼以来、すっかり打ち解けていた。
「今日も依頼か?」
「そうだよぉ」
夜叉が依頼書を眺める。
「……あ」
そこには、山道の魔物討伐依頼。
前回と同じような内容だった。
「また一緒に行きませんか?」
若い男性冒険者――レオンが声をかける。
「いいよぉ」
夜叉はあっさり頷いた。
「じゃあ、今回もよろしくねぇ」
「はい!」
レオンは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、仲間の一人が小さく笑う。
「お前、夜叉さんと組めると露骨に嬉しそうだな」
「う、うるさい!」
夜叉は二人の会話を聞きながら、首を傾げる。
「嬉しいの?」
「……はい」
「そっかぁ」
夜叉はにこっと笑った。
「私も嬉しいよぉ」
レオンの顔が一瞬で赤くなった。
「…………」
「……おい」
仲間が肩を叩く。
「今ので完全に落ちただろ」
「うるさいって!」
夜叉だけが、何のことか分かっていなかった。
◇
今回の依頼は、森の中に潜む魔物の討伐だった。
四人で森へ入る。
前衛が二人。
魔法使いが一人。
そして最後尾に夜叉。
「夜叉さん、後ろをお願いします」
「うん。任せてぇ」
その言葉通り。
魔物が背後から襲ってくるたび――
ヒュッ。
矢が飛ぶ。
一体。
ヒュッ。
二体。
ヒュッ。
三体。
「……すごい」
レオンは何度見ても慣れなかった。
夜叉は振り返ることすらほとんどない。
音だけで敵の位置を把握している。
白い耳がぴくりと震える。
「右後方」
「え?」
「三匹来るよぉ」
言った直後。
茂みから魔物が飛び出した。
レオンが剣を構える。
しかし。
ヒュッ。
一匹。
ヒュッ。
二匹。
最後の一匹がレオンへ迫る。
「レオン!!」
仲間の1人が叫ぶ。
「ぐっ!」
レオンが剣を振るより早く。
矢が魔物の足を射抜いた。
魔物が転倒する。
「……大丈夫?」
夜叉が尋ねる。
「は、はい!」
「怪我してない?」
「大丈夫…です」
「よかったぁ」
夜叉は安心したように笑う。
それだけだった。
けれどレオンには。
その笑顔が妙に眩しく見えた。
◇
依頼を終えた帰り道。
レオンは夜叉の少し後ろを歩いていた。
白い髪。
風に髪が揺れる。
大きな白い尻尾。
時折ゆらゆらと揺れる。
「……」
「どうしたのぉ?」
突然振り返られて、レオンは慌てた。
「い、いえ!」
「そう?」
夜叉は首を傾げる。
「ならいいけどぉ」
そしてまた前を向く。
レオンは胸に手を当てた。
心臓がうるさい。
自分でも分かっていた。
もう、ただの憧れではない。
◇
三度目の依頼を終えた夜。
四人は街の食堂に入った。
「今日は俺が奢ります!」
レオンが言う。
「え、いいの?」
「はい!」
「じゃあ……これ」
夜叉がメニューを指差す。
「これ食べたいなぁ」
「もちろん!」
そして続けて。
「これとぉ、これも」
夜叉は食いしん坊だった。
「いいですよ、好きなのを頼んでください!」
「えへへ〜、ありがとねぇ」
夜叉の小さな笑顔。
レオンは嬉しそうだった。
料理が運ばれてくる。
夜叉は嬉しそうに箸を持った。
「いただきまぁす」
ぱくっ。
「……おいしいぃ」
「よかった」
「レオンくんも食べてねぇ」
「はい!」
「これも美味しいよぉ」
夜叉が料理を勧める。
レオンは顔を赤くしながら頷いた。
「……はい」
その様子を見て、仲間二人が顔を見合わせる。
完全に好きになっている。
しかし。
夜叉は気づいていない。
「夜叉さんって、本当に楽しそうに食べますよね」
「そうかなぁ?」
「はい」
「だって、美味しいもの食べるの好きだからぁ」
そう言って笑う。
レオンはますます惹かれてしまった。
◇
数日後。
四人はまた依頼を終えた。
夕暮れの街道。
二人が先に歩いている。
夜叉とレオンだけが少し後ろになった。
「夜叉さん」
「ん?」
「少し……いいですか?」
「うん?」
レオンが立ち止まる。
夜叉も足を止めた。
「俺……夜叉さんのことが好きです」
風が吹いた。
夜叉の白い髪が揺れる。
いつもならゆっくりと、ゆらゆら揺れる白い尻尾。
今は静止している。
「……」
夜叉は少し驚いた顔をした。
けれど、すぐに柔らかく笑った。
「そっかぁ」
「……はい」
「言ってくれてありがとうねぇ」
それだけで、レオンは少し救われた。
「でも……ごめんねぇ」
「……」
「私、好きな人がいるんだぁ」
レオンの胸が、きゅっと痛む。
「そう……なんですか」
「うん」
夜叉は申し訳なさそうに尻尾を揺らした。
「だから、レオンくんの気持ちには応えられないよぉ」
「……分かりました」
しばらく沈黙。
それからレオンは笑った。
「それでも……これからも仲間ではいてくれますか?」
夜叉は目を丸くする。
そして。
「もちろんだよぉ」
にこっと笑った。
「レオンくんたちと冒険するの、私も楽しいからぁ」
「……ありがとうございます」
レオンは少しだけ寂しそうに笑った。
けれど。
完全に嫌われたわけではない。
それだけで十分だった。
◇
少し先では。
仲間二人が待っていた。
「……どうだった?」
「振られた」
「……そうか」
「でも、これからも一緒に依頼してくれるって」
「それなら良かったじゃねえか」
「うん」
三人が歩き出す。
夜叉も少し走って後ろから追いついてくる。
「ねぇ」
「はい?」
「次の依頼、何にする?」
夜叉が尋ねる。
「また四人で行こうぜ」
「賛成」
「夜叉さんも?」
「うん」
夜叉は嬉しそうに頷いた。
「また一緒に冒険しようねぇ」
夕暮れの街道を。
四人は並んで歩いていった。
夜叉にとっては。
少し仲良くなった冒険者仲間。
レオンにとっては。
叶わなかった恋と、それでも大切にしたい仲間。
そんな少しだけ特別な関係が。
静かに始まっていた。
読んでくれてありがとうございます。




