白猫の足跡
王都の冒険者ギルド。
昼下がり。
依頼を終えた四人は、いつものように受付前のテーブルを囲んでいた。
「――それでですね」
受付嬢が困ったように笑う。
「皆さん、そろそろパーティ名を決めていただけませんか?」
「……パーティ名?」
レオンが瞬きをした。
「そうです」
「俺たち、名前なかったのか?」
カイルが驚く。
「なかったのよ」
リゼットが淡々と答えた。
「だって、今までずっと『レオンさんたちのパーティ』で処理されていたでしょう?」
「ああ……」
レオンは納得したように頷いた。
「言われてみればそうだな」
「いやいやいや」
カイルが机を叩く。
「Aランク冒険者だぞ? 半年以上一緒にやってんだぞ? そろそろカッコいい名前とか必要じゃない?」
「別に必要ないだろ」
「夢がないなぁ、レオンは!」
「依頼をこなせれば、名前なんて何でもいい」
「じゃあ俺が考える!」
カイルが勢いよく立ち上がった。
リゼットが嫌そうな顔をする。
「嫌な予感がするわ」
「任せろ!」
カイルは腕を組み、真剣な顔で考え始めた。
「……『漆黒の破壊者』」
「却下」
レオンが即答した。
「早い!」
「お前が考えそうな名前だからな」
「じゃあ……『蒼天の牙』!」
「却下」
今度はリゼット。
「『紅蓮の四騎士』!」
「私たち騎士じゃないわ」
「『終焉の――』」
「カイル」
レオンが肩を掴んだ。
「もういい」
「なんでだよ!」
そんな二人を見ながら。
夜叉は小さく笑っていた。
「ふふ……」
「夜叉も何か考えてくれよ」
カイルが言う。
「私?」
「そう」
「うーん……」
夜叉はテーブルの上に置かれた紙を眺めた。
名前。
四人を表す名前。
強そうな名前。
格好いい名前。
いろいろ考える。
けれど。
ふと、自分の足元を見る。
白い尻尾が、椅子の横からふわりと垂れていた。
「……白猫の足跡」
「え?」
三人が振り向く。
夜叉は少し照れたように笑った。
「白猫の足跡、がいいなぁ」
「……理由は?」
リゼットが尋ねる。
「うーん……」
夜叉は少し考えて。
「可愛いからぁ」
「……」
「……」
「……」
沈黙。
カイルが口を開く。
「……Aランク冒険者パーティだよな?」
「うん〜」
「もっとこう……『竜殺し』とか『黒狼』とか……」
「可愛いほうがいいなぁ」
夜叉は尻尾を揺らす。
「私、この名前好きだよぉ」
レオンが苦笑した。
「……まあ」
少し考えてから頷く。
「夜叉が気に入ったなら、俺はいいと思う」
「私も反対しないわ」
リゼットも頷いた。
カイルだけが頭を抱える。
「……白猫の足跡」
「うん」
「白猫の足跡……」
「うん〜」
「……」
やがてカイルも笑った。
「まあ、いいか」
「ほんと?」
「夜叉がそんな嬉しそうにしてるならな」
「わぁい」
白い尻尾が、ぱたぱたと揺れた。
受付嬢が微笑む。
「では、登録しますね」
紙に名前が書かれる。
そして。
冒険者ギルドの記録に、新しいパーティ名が刻まれた。
『白猫の足跡』
こうして。
Aランク冒険者四人によるパーティは、正式にその名を得た。
後に多くの依頼をこなし。
危険な魔物と戦い。
遠い土地へ旅をし。
数々の事件へ巻き込まれることになる彼らの名前は――。
始まりの日だけは、とても可愛らしいものだった。
読んでくれてありがとう〜




