13話 休日の2人
場面が飛ぶ場所を。
◇ではなく──
こちらに変えようかなと思ってます。
翌朝。
王都は、穏やかな朝を迎えていた。
依頼はない。
討伐もない。
今日は――休日。
夜叉はいつもより少しだけ早く起きていた。
「……んぅ」
ベッドの上で伸びをする。
白い尻尾が、布団の上でゆっくり揺れた。
窓の外を見る。
空は晴れている。
「……いい天気だなぁ」
そして。
ふと思い出す。
昨日の約束。
フィルティーナと会う。
「……」
夜叉の耳がぴんと立った。
「……何着ていこうかなぁ」
⸻
しばらくして。
王都の中央広場。
人々が行き交う中。
夜叉は噴水の近くで立っていた。
普段の冒険者姿とは少し違う。
武器は持っていない。
動きやすい服装ではあるものの、今日は戦いに行くわけではない。
長い白髪を整え。
尻尾もいつもより丁寧に手入れしてある。
本人に聞いても。
「……ちょっと待ってるだけだよぉ」
と答えるだろう。
けれどいつもよりも。
可愛く見られたい。
そんな純粋で純情な気持ち。
それは彼女を知る者なら誰でも分かった。
夜叉は。
何度も時計台を見ていた。
そして。
「夜叉」
聞き慣れた声。
「……!」
振り返る。
そこに。
フィルティーナがいた。
「おはよう」
「……おはよう」
夜叉の顔が、ぱっと明るくなる。
「待たせたかしら?」
「ううん〜」
夜叉は首を振る。
「私も今来たところ」
実際には。
三十分前からいた。
けれど。
それは言わない。
フィルティーナが微笑む。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん」
二人は並んで歩き始めた。
⸻
「今日はどうする?」
フィルティーナが尋ねる。
「うーん……」
夜叉は考える。
「特に決めてないよぉ」
「珍しいわね」
「いつも依頼の予定ばっかりだからぁ」
夜叉は少し笑った。
「今日はフィルティーナと一緒に歩ければ、それでいいかなぁって」
「……そう」
フィルティーナが少しだけ笑う。
夜叉は前を向いたまま。
尻尾だけが嬉しそうに揺れている。
「じゃあ、まずは朝ご飯でも食べましょうか」
「賛成〜」
⸻
二人が入ったのは。
小さな食堂だった。
窓際の席に座る。
「何にする?」
「ん〜……」
夜叉はメニューを見る。
「これ」
指差したのは、焼きたてのパンとスープのセット。
「相変わらずパンが好きね」
「おいしそうだからぁ」
フィルティーナも同じものを注文する。
料理が運ばれてくる。
夜叉は嬉しそうにパンを手に取る。
「いただきます」
一口。
「……おいしい」
その顔を見て。
フィルティーナが笑った。
「本当に美味しそうに食べるわね」
「だって、おいしいんだもん」
「ふふ」
夜叉も笑う。
冒険中とは違う。
戦場でもない。
ただ食事をしているだけ。
それなのに。
夜叉にとっては、十分に特別な時間だった。
⸻
食事を終えた二人は。
王都の商店街を歩いた。
服屋。
雑貨屋。
本屋。
小さな露店。
フィルティーナが店先の商品を見るたび。
夜叉も隣から覗き込む。
「これ、かわいいねぇ」
「そうね」
「フィルティーナに似合いそう」
「私に?」
「うん」
夜叉が手に取ったのは、小さな髪飾りだった。
「……どうかなぁ」
フィルティーナはそれを受け取る。
「綺麗ね」
「うん〜」
「夜叉が選んでくれたの?」
「……そう」
少しだけ照れたように。
「似合うと思ったからぁ」
フィルティーナはしばらく髪飾りを見る。
そして。
「ありがとう」
「……うん」
それだけで。
夜叉は嬉しそうだった。
⸻
午後。
二人は王都の外れにある小さな公園へ向かった。
人も少ない。
木陰にベンチがある。
二人並んで座る。
「こういうのも久しぶりね」
フィルティーナが言う。
「うん」
夜叉も空を見上げる。
「フィルティーナ、遠征ばっかりだったからねぇ」
「ええ」
「大変だった?」
「それなりにね」
「そっかぁ」
夜叉はそれ以上聞かなかった。
代わりに。
少しだけ肩を寄せる。
ほんの僅かに。
触れるか触れないかくらい。
フィルティーナは気づいていた。
けれど。
何も言わなかった。
しばらく二人で空を見る。
風が吹く。
木の葉が揺れる。
「……帰ってきてくれてよかった」
夜叉がぽつりと言った。
「昨日も言っていたわね」
「うん」
「そんなに心配していたの?」
夜叉は少し考える。
「……してた」
素直な答え。
「村が大変だったって聞いたから」
「ありがとう」
フィルティーナが微笑む。
「もう大丈夫よ」
「うん」
夜叉も笑う。
「よかったぁ」
⸻
夕方。
王都に戻る二人。
空が少しずつ赤く染まっている。
「今日は楽しかった」
夜叉が言う。
「私も」
「またこういう日、作れるかなぁ」
「ええ」
フィルティーナは頷いた。
「遠征がなければね」
「じゃあ、次の遠征は遠くに行かないところがいいなぁ」
「どこか行きたい場所でもあるの?」
夜叉は少し考える。
「……美味しいものがあるところ」
フィルティーナが笑う。
「それは夜叉らしいわ」
「だって大事だよぉ」
二人で笑う。
やがて。
分かれ道に着いた。
「じゃあ、またね」
「うん」
夜叉は手を振る。
フィルティーナも手を振り返す。
数歩進んで。
夜叉が振り返る。
フィルティーナもまだそこにいた。
目が合う。
「……」
夜叉が少し笑う。
そして。
「おやすみ、フィルティーナ」
「おやすみ、夜叉」
二人はそれぞれの道へ歩き出した。
夜叉は一人になってから。
少しだけ足取りが軽くなった。
白い尻尾が。
いつもよりずっと楽しそうに揺れている。
「……今日は、いい日だったなぁ」
冒険者としてではなく。
A級冒険者としてでもなく。
ただ一人の女性として。
好きな人と過ごした休日。
それだけの一日だった。
けれど夜叉にとっては。
しばらく忘れられない、大切な一日になった。
読んでくれてありがとうございます!!
恋愛はほどほどにするつもりです。




