10話 四人での依頼
その日の朝。
四人は、王都から少し離れた森へ来ていた。
今回受けたのは、比較的簡単な依頼だった。
森の奥にある薬草の採取。
危険な魔物も少なく、報酬もそこそこ。
昨日のアースドラゴン討伐とは比べものにならないほど、穏やかな依頼だ。
「こういうのでいいんだよ」
カイルが伸びをする。
「昨日みたいなのは勘弁してくれ」
「俺たち、昨日は普通の依頼だったけどな」
レオンが苦笑する。
「夜叉だけだろ、大変な依頼を受けてたのは。」
「うん〜」
夜叉は森の中を歩きながら頷いた。
「今日はのんびりできそうだねぇ」
リゼットが周囲を見回す。
「薬草はこの先の沢沿いだったはずだけど」
「じゃあ、行こうかぁ」
四人は森の奥へ進んでいった。
鳥の声。
葉が風に揺れる音。
木漏れ日。
昨日の激しい戦いとは正反対の、静かな時間だった。
◇
「……あった」
しばらくして。
夜叉がしゃがみ込んだ。
岩陰から、小さな青い葉が顔を出している。
「これが依頼の薬草?」
カイルが覗き込む。
「うん〜。間違いないよぉ」
「じゃ、採って――」
その瞬間だった。
夜叉の耳が動いた。
ぴくっ。
「……」
夜叉が立ち上がる。
レオンが気づく。
「どうした?」
「……静かすぎる」
「え?」
夜叉は森を見る。
さっきまで聞こえていた鳥の声が。
いつの間にか、消えていた。
リゼットも杖を構える。
「……何かいるわね」
カイルが周囲を見る。
「どこだ?」
夜叉は答えなかった。
代わりに。
弓を手に取った。
「……上」
三人が一斉に空を見る。
だが。
何もない。
次の瞬間。
ドンッ!!
巨大な影が木の上から落ちてきた。
「うおっ!?」
レオンが咄嗟にカイルを自分の後ろへ突き飛ばす。
地面が砕ける。
土煙の中から現れたのは――
巨大な魔物。
四本の脚。
鋭い爪。
黒褐色の毛皮。
そして。
木々の隙間からこちらを睨む、黄色い瞳。
リゼットが息を呑む。
「……森喰らい」
カイルの顔から笑みが消える。
「嘘だろ……」
森喰らい。
森の奥深くに生息する大型魔獣。
木々の上から獲物を襲い、その巨体からは想像できないほど素早く動く。
そして厄介なのは――
「……一体じゃない」
夜叉が呟く。
木々が揺れる。
ガサッ。
ガサッ。
左右から、さらに二体。
「三体……!」
レオンが剣を構えた。
「夜叉!」
「うん〜」
夜叉は冷静だった。
三体を見渡す。
「右はレオン」
「分かった!」
「左はカイル」
「任せろ!」
「真ん中は私が止めるねぇ」
リゼットが杖を構える。
「私は?」
夜叉がリゼットを見る。
「リゼットは、二人の援護お願い」
「了解」
その瞬間。
三体の森喰らいが、一斉に動いた。
◇
最初に飛び出したのは右。
レオンへ向かって一直線に突進する。
「来い!」
レオンが剣を構える。
森喰らいの爪が振り下ろされた。
ガキィンッ!!
剣で受け止める。
腕に強烈な衝撃。
「ぐっ……!」
重い。
想像以上だった。
レオンの足が地面を削る。
「レオン!」
リゼットが杖を振る。
淡い光がレオンの足元を包む。
「――今!」
「助かる!」
レオンが力を込める。
魔力によって強化された身体で、森喰らいを押し返す。
その隙に。
「……そこ」
ヒュッ。
夜叉の矢が飛ぶ。
森喰らいの前脚へ。
ドシュッ!
「グオオッ!」
動きが止まる。
「今だ、レオン!」
「おう!」
レオンが踏み込んだ。
剣が閃く。
森喰らいが倒れた。
「一体!」
◇
反対側。
カイルは二体目と向き合っていた。
「こっちは俺かよ!」
森喰らいが飛び掛かる。
カイルは横へ転がる。
「うわっ!」
爪が背後の木を抉った。
「危ねぇ!」
カイルは距離を取る。
「こいつ、速すぎる!」
「カイル!」
リゼットが叫ぶ。
「三歩、下がって!」
「三歩?」
「いいから!」
カイルが下がる。
一歩。
二歩。
三歩。
その瞬間。
リゼットの魔法が発動した。
地面から細い光の鎖が伸びる。
森喰らいの脚を絡め取った。
「今です!」
「ナイス!」
カイルが走る。
しかし。
森喰らいが鎖を引き千切る。
「うそだろ!?」
再び跳躍。
カイルへ迫る。
だが。
その軌道上に。
一本の矢が飛び込んできた。
ドシュッ!
矢が森喰らいの肩へ突き刺さる。
「夜叉!」
「カイル、右」
「右?」
「うん」
カイルが右を見る。
そこには――
森喰らいが着地する場所が、ちょうど開いていた。
「……なるほど!」
カイルは笑った。
「ありがとな!」
踏み込む。
森喰らいが振り返る。
遅い。
カイルの短剣一撃が、魔物の懐へ入った。
「これで――!」
ズガンッ!!
森喰らいが吹き飛ぶ。
地面を転がり。
動かなくなった。
「二体!」
◇
残る一体。
最も大きな個体だった。
夜叉が一人で向き合う。
森喰らいが低く唸る。
「……」
夜叉も弓を構える。
そして。
「夜叉!」
レオンが声をかけた。
「俺たちも――」
「うん」
夜叉はちらっとレオン達を見る。
「一緒にやろう」
レオンが目を見開く。
夜叉は微笑んだ。
「昨日は一人だったから…」
そして。
「今日は四人だからねぇ」
レオンが笑う。
「……分かった!」
カイルも駆け寄る。
「じゃあ、四人でやるぞ!」
リゼットが杖を構えた。
「はい!」
森喰らいが吠える。
四人が散開した。
◇
最初に動いたのは夜叉。
矢が飛ぶ。
森喰らいが避ける。
だが。
「そこだ!」
レオンが正面から斬り込む。
魔物がレオンへ向く。
その瞬間。
カイルが背後へ回った。
「こっち見ろ!」
森喰らいが振り返る。
「遅い!」
カイルが攻撃する。
魔物がまた方向を変える。
その動きを。
夜叉はずっと見ていた。
「……今」
矢が飛ぶ。
ドシュッ!
森喰らいの後脚へ。
「グオオッ!」
動きが鈍る。
「リゼット!」
「分かってるわよ!」
杖が光る。
「――今!」
地面が淡く輝く。
森喰らいの周囲に魔法陣が展開された。
一瞬。
魔物の動きが止まる。
「レオン!」
「任せろ!」
レオンが正面から突っ込む。
魔物が爪を振り上げる。
その瞬間。
「カイル!」
「おう!」
カイルが横から飛び込む。
爪の軌道を逸らす。
レオンの身体が魔物の懐へ入った。
「これで――!」
剣が振り下ろされる。
だが。
森喰らいはまだ倒れない。
「っ……!」
魔物がレオンへ噛みつこうとする。
その瞬間。
夜叉が弓を引いた。
一瞬だけ。
周囲の音が消えたように感じられた。
青い瞳が。
魔物の動きを捉える。
「……そこ」
矢が飛ぶ。
一直線。
森喰らいの眉間へ。
ドシュッ!!
魔物の動きが止まる。
そして。
ゆっくりと。
巨体が倒れた。
ズゥン――。
森が静かになる。
◇
「……終わった?」
カイルが息を切らしながら言った。
夜叉が確認する。
「うん」
レオンが剣を下ろす。
「……勝ったな」
リゼットも杖を下ろした。
「ええ」
カイルが笑う。
「三人とも、怪我は?」
「俺は大丈夫」
「私も問題ないわ」
「夜叉は?」
「大丈夫だよぉ」
カイルがため息をつく。
「よし」
そして。
満面の笑みを浮かべた。
「俺たち、ちゃんと四人で倒せたな!」
「……うん〜」
夜叉も嬉しそうに笑う。
昨日。
彼女は一人でアースドラゴンを倒した。
今日。
四人は三体の森喰らいを倒した。
強さだけなら。
夜叉一人でも勝てたかもしれない。
でも。
「四人で戦うのって……」
夜叉が呟く。
三人が振り返る。
「楽しいねぇ」
レオンが笑った。
「ああ」
カイルも頷く。
「だろ?」
リゼットも微笑む。
「これなら、これからも四人で戦えそうね」
夜叉は尻尾をゆっくり揺らした。
「うん〜」
そして。
最初に採取していた薬草を見る。
「……あ」
カイルが笑う。
「どうした?」
「依頼の薬草」
「…………」
四人が顔を見合わせる。
戦闘に夢中になって。
すっかり忘れていた。
「……採って帰ろうかぁ」
「そうだな」
四人は笑いながら。
森の奥へ歩き始めた。
今度は。
誰も一人ではなかった。
読んでくれてありがとう。
場面が変わる様子を
───か、◇で悩んでおります。




