9話 昨日の依頼
翌朝。
王都の冒険者ギルド。
いつものように、四人が集まっていた。
「おはよう」
最初に来ていたのはレオンだった。
その隣にはカイル。
そして少し遅れて、リゼットがやってくる。
「おはようございます」
「おはよぉ」
最後に現れた夜叉は、いつも通りのんびりした様子だった。
長い白髪。
白い猫耳。
ふわふわと揺れる大きな尻尾。
そして、眠そうな青い瞳。
「……夜叉」
レオンが、じっと彼女を見る。
「ん〜?」
「昨日、何してた?」
「昨日?」
夜叉は少し考える。
「依頼に行ってたよぉ」
「一人で?」
「うん〜」
カイルが眉を上げる。
「どんな依頼?」
「アースドラゴン」
「…………」
沈黙。
「…………は?」
カイルの声がギルド内に響いた。
夜叉がきょとんとする。
「アースドラゴンだよぉ」
「いや、聞こえた。聞こえたけど……」
カイルがレオンを見る。
レオンも固まっている。
リゼットだけが、静かに夜叉を見つめていた。
「……昨日のA級依頼?」
「うん」
「ひとりで?」
「そうだよぉ」
「…………」
また沈黙。
夜叉は首を傾げた。
「どうしたのぉ?」
カイルが頭を抱えた。
「いやいやいや!」
「?」
「なんでそんな普通の顔してんだよ!」
「普通?」
「アースドラゴンだぞ!?」
「うん」
「A級依頼だぞ!?」
「うん〜」
「一人で行ったんだろ!?」
「そうだよぉ」
「それを朝飯の前みたいなテンションで言うな!」
夜叉はぱちぱちと瞬きをした。
「……でも、倒したよぉ?」
「そこなんだよ!」
カイルの叫びに、リゼットが小さく笑った。
「カイル、落ち着いて」
「いや、落ち着けるか!」
レオンもようやく口を開く。
「……本当に一人で?」
「うん」
「怪我は?」
「してないよぉ」
「疲れてない?」
「ちょっと眠いくらいかなぁ」
「…………」
レオンは頭を抱えた。
昨日。
自分たちがそれぞれ別の依頼をこなしている間。
夜叉は一人で山へ向かい。
アースドラゴンを討伐し。
何事もなかったように帰ってきた。
「……やっぱり、A級ってすげぇな」
カイルがぽつりと言った。
夜叉は少し困ったように笑う。
「そうかなぁ」
「そうだよ」
今度はリゼットが言った。
「アースドラゴンを単独で討伐するなんて、普通はできない」
「でも、ちゃんと弱いところがあったから」
「弱いところ?」
「うん」
夜叉はテーブルの上にあった紙ナプキンを手に取った。
その裏側に、簡単な絵を描く。
「ここが鱗が薄くてぇ」
さらさら。
「ここが前脚の関節でぇ」
さらさら。
「あと、口の中」
「…………」
三人が紙を見る。
「……夜叉」
「ん〜?」
レオンが真顔になった。
「お前、戦ってる最中ずっとそこを見てたのか?」
「うん」
「怖くないのか?」
夜叉は少し考えた。
「怖い……?」
首を傾げる。
「うーん……」
少しだけ考えて。
「危ないとは思うよぉ」
「……」
「でも、怖がってたら狙えないからぁ」
あまりにも自然な答えだった。
リゼットが静かに頷く。
「なるほど」
「何が?」
「夜叉は、強いから冷静なのではなくて」
リゼットは夜叉を見る。
「冷静だから強いんでしょうね」
「……そうなのかなぁ」
夜叉はまた首を傾げた。
カイルが笑う。
「まあ、どっちでもいいだろ」
「?」
「俺たちが一緒に冒険してる奴が、とんでもなく強いってことだ」
「……そっかぁ」
夜叉は少し嬉しそうに笑った。
「でもねぇ」
「ん?」
夜叉は三人を見る。
「昨日、一人だったからちょっと暇だったよぉ」
三人が顔を見合わせる。
「……暇?」
「うん〜」
「アースドラゴン相手に?」
「うん」
「戦ってる最中に?」
「戦ってるときは忙しいよぉ」
「じゃあいつだよ」
「帰り道」
夜叉は少しだけ頬を膨らませて。
「誰もいないからぁ」
カイルが吹き出した。
「ぶはっ!」
「ははっ!」
レオンも思わず笑う。
リゼットも口元を緩めた。
「なるほど」
「だからぁ」
夜叉は尻尾を揺らしながら言った。
「今日は四人で行きたいなぁ」
その一言で。
三人の表情が変わった。
「……ああ」
レオンが頷く。
「今日は四人だ」
「当然だろ」
カイルも笑う。
「じゃ、今日は軽めの依頼にするか?」
「賛成」
リゼットが頷く。
夜叉は嬉しそうに笑った。
「うん〜」
昨日。
一人でアースドラゴンを倒した少女は。
今日は三人の仲間と一緒に。
どんな依頼を受けようかと楽しそうに話している。
強さだけなら。
一人でも十分だった。
けれど。
冒険は、一人でするより。
四人でしたほうが――
ずっと楽しかった。
読んでくれてありがとう☺️
変換で羅線──これが出たりでなかったりでSimeji
を使いこなせていません;;




