おまけ(国王の憂鬱)
私はエイブラハム3世。
魔法国家として名高い、この国の国王である。
本日は、我が国の新年最初の夜会が行われる。デビュタントも兼ねているため、どの夜会よりも華やかで、私も楽しみにしている夜会である。
しかし夜会は、私不在で既に始まっている。本当は、私が夜会の始まりの合図をしなければならないのだが、今回は娘のアビゲイルに頼んだ。
何故なら、私にはやらなければならない事がある。それは……
「クライヴ皇太子殿下、お待ちしておりました」
隣国の皇太子を直々に出迎えることだ。
クライヴ皇太子が我が国を訪れた表の理由は、「聖樹の森探索パーティーの一員であった、ロージー・スミスのドレス姿を見るため」となっており、私用で訪れたことになっている。
実際には、「聖樹の森の異変により、被害を受けた我が国への補償」について話し合うためだ。
ここ数年、隣国と接している地域で異常気象が続いていた。国全体の気象は変化ないのに、ピンポイントでそこの地域が被害を受けていた。
水質・地質の調査、国の工業化による影響の調査、気象データの見直し等を行っても、特に異常が見当たらない。もしや、隣国に問題があるのか?とも思った。隣国は友好国。何かしら、この国に影響がある事が起きれば、連絡をくれるはず。今までそうだった。
しかし、何とも表現し難い胸騒ぎがする。国王としての経験から基づく勘が何かを訴えてくる。ベテラン専門家達も私と同じように何かを感じ取っている。
専門家達と頭を悩ませている所に、娘から「ロージー・スミス」を隣国に留学させたいと言う話があった。
魔法が使える者が、国の外に出ることは望ましくない。だが、娘の鬼気迫る様子と、大陸でも五指にはいる聖魔法の使い手、聖女ララとのツテが手にはいるのではないのかと言う希望のもと、ロージー・スミスの留学を許可した。
ロージー・スミスの魔法の特性上、聖女ララと少なからず交流を持つこが期待できるからだ。
ロージー・スミスの留学は、多いに意義があった。私が思っていた以上に意義があった。
何故なら、謎が全て解けたからだ。
騎士団経由で留学中のロージー・スミスからブルーノ・スミス氏へ送った手紙の内容を知ったときはとても驚いた。
『なんか、聖樹の森が危ないみたくて、私の力が必要みたい。聖樹の森の中に入ることになったよ。それで、レポートの提出遅れるけど心配しないでね。頑張って聖樹の危機救ってくるね』
ブルーノ氏へ送られたレポートに、そう書かれていた。
ブルーノ氏は騎士団の調教師だが、魅力魔法が使える。ロージー・スミスも魅力魔法を持っているということで、ブルーノ氏に指導を依頼している。
特殊魔法を指導できる者は少ない。魔法の正しい使い方を教えるため、できるだけ似たような特殊魔法を使える者に官民関係なく指導を依頼している。
勉強熱心なロージー・スミスは、留学中に学んだことを定期的にレポートと言う形でブルーノ氏に手紙で報告している。2人は親戚同士と言うことで、レポートと言いつつ近況報告も兼ねている状態だ。
ブルーノ氏が世間話で見習い騎士に手紙の内容を話し、内容に驚いた見習いが上官に伝え、そして私のところにまで手紙の内容が伝わった。私のところまで伝わるのに半日。詳しい事情を知らない見習い騎士達でも「なんか、ヤバい」とわかる内容だった。
隣国にとって重要人物となったロージー・スミスの手紙は送るも受け取るも検閲対象になるであろう。しかし、親戚に送る手紙、しかも半分は専門用語で書かれたレポートだったため、きっと見逃してしまったのであろう。
ロージー・スミスの手紙を読むと、
『……そのため、私の魅力魔法は人だけでなく、動植物にも効果があることがわかった。
そうそう、話し変わるんだけどね、クライヴ様とララ様と、その他大勢で聖樹の森の中に入るんだって。あとね、この前クライヴ様とララ様とお茶したの!とっても緊張した〜。お茶美味しかったよ〜。
(ここからレポートの続きだよ)動植物も人同様、効果の出方は様々である。しかし、どの効果もその種にとって繁殖が有利になるようになっている……』
のようにレポートの合間に、近況報告が挟まれる。まさか、勉強レポートと近況報告を同じ用紙に書くとは普通誰も思わないだろう。手紙の検閲官に若干の同情心が芽生えた、
それはそうと、聖女ララだけでなく、クライヴ皇太子とも仲良くなっていたとは、とても驚いた……。
確かに、聖女ララとの繋がりは期待していた。ロージー・スミスの留学は、聖女ララをこの国に招待するための土台固めだった。
ここで繋がりを作ったあと、聖女ララをこの国に招待し、不作と異常気象が続いている地域の浄化を依頼する計画だった。
どういった経緯でクライヴ皇太子と知り合ったのか、何故聖樹の森に行くことになったのかを説明してほしい。
とにかく、急いでクライヴ皇太子宛の手紙を書いた。王らしく堅苦しい言葉で手紙を書いた。
『おいおい、ロージー・スミスの手紙で、お宅の聖樹の森が危機に陥っていると知ったんだけど、本当かい?お宅と隣接している地域が異常気象続いているんだけど、お宅の聖樹が関係しているのかい?それより、勝手にうちの国の留学生を使うなよ。聞いてないぞ!普通、私にお伺いを立てるものだろう?誠意ある対応を求む。誠意ある対応が無ければ、ロージー・スミスに帰国命令出すぞ!彼女は国費留学生だ!うちの国の大切な人材だぞ!早急に返事を寄越せ!国際問題にするぞ!』
概ね、書いた手紙を要約すると、このような内容になる。国際問題にするぞと、脅すような事を強い言葉で書いた。
この手紙をロージー・スミスの手紙の写しをつけて、ロージー・スミスと文通している娘に渡し、一緒にロージー・スミスに送ってほしいと頼んだ。もちろん娘の手紙に、クライヴ皇太子に渡してほしいと一文を加えて。
娘はロージー・スミスとの手紙のやり取りに、伝書鳩を使う。馬なら何週間かかる距離も数日で届けられるからだ。
ロージー・スミスからブルーノ氏に送られた手紙は通常の方法で運ばれた手紙だ。きっとロージー・スミスは、既に聖樹の森に入っているだろう。しかし、手紙の検閲があるだろうから、検閲官から隣国の宰相あたりに話が行くはずだ。
ひと月後、隣国の宰相補佐と聖女が馬車ではなく、馬に乗ってやって来た。
宰相補佐も聖女も薄っすら汚れていた。聖女が馬から降りた途端に馬が倒れたと報告を受けたことから、馬に聖魔法をかけながら休みなく駆けてきたのであろうと想像できる。
そしてら宰相補佐から非公式の謁見が申し込まれた。
昼間は公務があること、非公式と言うこともあり、一番小さな会議室で夜中に会うことになった。
夜中に小会議室に入ると、先に中に居た隣国の宰相補佐官と聖女が頭を地に付け謝罪してきた。そして、宰相補佐官から親書を受け取った。
親書は皇帝直筆で書かれており、聖樹の異変の影響を、隣接地域が受けていることに対する謝罪。その補填として聖女を1人派遣したこと。
また、ロージー・スミスをこちらの確認なく聖樹の森探索パーティーに入れてしまったとことに対する謝罪と、ロージー・スミスの身の安全の確保のために、護衛騎士を同行させたこと。
最後に、ロージー・スミスの帰国後に、改めて補償について話し合いの機会を設けたこと、が書かれていた。
宰相補佐官に、謝罪と提案を受け入れることを伝えた。しかし、話し合いについては、隣国側がこちらに来ることを条件とした。
宰相補佐官は、わたしの返事を受け、急いで隣国へ戻っていった。
宰相補佐官と一緒に来た聖女には十分な休息後、迅速に被害を受けた地域に行ってもらうことになった。
そして今日が、隣国との代表との話し合いの日だ。事の重大さから、クライヴ皇太子が直々にやって来た。
「事前の連絡なく、大変申し訳ありませんでした。お詫びの品として、こちらを受け取ってください」
クライヴ皇太子は、会議室に入るなり、私に頭を下げた。そして、聖女ララに目配せをした。聖女ララは頷くと、持っていた包みを開いた。包みの中には白銀杏子の実が4つあった。
白銀杏子の実は、万年果実とも言われる。1つ食べると寿命が万年延びると言われているからだ。いつもだったら、喜び手を伸ばすが、私は4つの白銀杏子の実を見て鼻で笑った。
娘経由でロージー・スミスから献上された白銀杏子の実は、包みのなかに入っている実よりも質が良く、しかも5つ献上された。
「貴国は、ロージー・スミスを私よりも特別扱いしているのだな」
私の言葉に、クライヴ皇太子は顔をカッと赤くした。ロージー・スミスに与えた実と今回持ってきた実に差があるに対して、私が隣国側を鼻で笑っている事に気付いたのであろう。
私が鼻で笑ったことに、クライヴ皇太子の後ろに控えている2人の男性も気づき、2人とも眉を顰めている。
諜報部隊の調べによると、2人ともロージー・スミスと同じく「聖樹の森探索パーティー」の一員だ。ロージー・スミスと年も近い事から、ロージー・スミスと懇ろな間柄になる事を期待し、結婚という形でロージー・スミスを取り込みたいのであろう。
貴族が他国に嫁ぐもしくは婿入りする場合は、私の許可が必要だ。貴族の血筋は魔法が使えるからだ。しかし、いくらと魔法が使えるからと言って、平民まで婚姻を管理はしていない。
きっと、皇帝がクライヴ皇太子に同行する様に命じたのであろう。皇帝の抜かりなさに、思わず舌打ちをしたくなった。
「陛下大変です!!」
これから、こちら優位で交渉を始めようとしたところ、騎士団長が音を立てて会議室に入ってきた。
「何事だ!」
「アーロン王子が、ロージー・スミスの断罪を始めました!!」
怒鳴りつけるよう、騎士団長に聞くと、騎士団長も負けじど、息子がやらかしたと報告した。
騎士団長の報告に意識が遠のいた。
昨年の9月に、アップルビー公爵令嬢に意味不明な断罪を行い、謹慎処分に処した息子が、また意味不明な断罪を行なっている。
もう、この場にいたなら速攻で雷攻めの折檻を実行するのに。
「我らの仲間が断罪されているのか。それでは助けに行くか」
「そうですね。クライヴ様様」
クライヴ皇太子と聖女ララ様は嬉しそうに言った。そして、私の意識が遠のいでいるうちに、軽い足取りで、部屋からでていった。そのあとに、同行者2人も続いた。
「陛下!」
騎士団長の悲痛な声に、意識を戻した私も、急いでクライヴ皇太子達を追いかけた。
怒りのあまりに、魔力が暴走してしまい、私の周りでパチパチと電撃が迸り、私が通った後の廊下は焦げていた。
国王は、聖樹の母樹の存在は知りません。そのため、国王は「母樹探索」ではなく「聖樹の森探索」と認識しています。




